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始まりは断罪の目撃から
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「本当はもっと早く会いに来たかった、というより一緒に通学や学園で睦まじくランチをしたりと毎日楽しい時間を過ごしたかったのだけどね。何で僕らは兄弟なのに一緒に暮らせないのだろう」
残念そうに瞼を伏せる。うわぁ、長い睫毛がファサ、ってなってかっこいい。
でもやっぱりそれは弟に言うセリフじゃないんだよなぁ…
「そのセリフは是非義姉上に伝え、毎日共に過ごしてください。義姉上が心配なさっていますよ」
「…………うん」
なんだその間は。
「義姉上がお嫌でなければ、俺もご一緒させてもらいますから」
「!」
しょぼんとした顔が「俺も一緒に」という言葉を聞いてぱあっと輝く。なんだか兄上もワンコに見えてきた。
ラウレスタ様を超大型犬に見立ててしまった後だからなのか、兄上も犬属性に見えてしまう。いや、犬は嫌いではないけども。
あ、全力で振られる尻尾まで見えてきた。この短期間で順調に悪化している。
早めにこの空目は治さないとダメだな。
「ライニーと言えば…ファルムは聖協会で生活しているのだし、聖女には会ったことがあるかい?」
兄上は義姉上、ライナーツ嬢をライニーと呼んでいる。義姉上は「愛称にセンスを感じない」と言いながらも訂正を求めないので、気に入らない訳ではないのだろう。義姉上はツンデレの素養が十分に備わっていると俺は思っている。
「遠目よりお見かけしたことはありますが、義姉上をきっかけにその件を思い出すのは失礼かと思います」
アリナ嬢にはもう既に多大なる迷惑をかけられているので、会いたくないし会うつもりもない。むしろもっと距離を置きたい。関わりたくない。
俺の返答と態度に思うところがあったのか、兄上の眉が少し下がった。
「うん、ごめんね。ライニーにも迷惑をかけていることは判ってはいるんだ。ファルムも聖女には、できるなら近づかないままでいて欲しい」
僕だけをその瞳に映して、という言葉を弟に吐くのはどうかと思います。
「兄上はご学友の皆様と同じ様に聖女に心酔されていると聞きましたが、本当なのでしょうか?」
回りくどい聞き方をすると甘ったるいセリフで有耶無耶にされそうだから、思い切って正面からぶつかっていくことにした。
義姉上を気遣う雰囲気も感じたし、俺に煮詰まった砂糖の塊をぶつける勢いのセリフを吐けるのだから、アリナ嬢にはまだ染まりきっていないのでは?と勝手に判断したからだ。
「正直、聖女に関してはシスター達の反応はよろしくありません。彼女たちの同性を観る眼は多少手厳しい部分もあるでしょうが信頼できます。兄上もできるならば距離をとられることをおすすめしたいです」
完全に心酔しきっているなら「距離をとったほうがいい」は拒絶されるはず。兄上の反応はどうだろうか。
「僕としては聖女と離れてファルムの傍に張り付きたいんだけど、ルーベンス殿下がねぇ…」
思っていたのと違…いや、これは兄上の通常だ。
同じ歳のルーベンス殿下の側仕えに、と打診(上からの言葉なので勿論我が家に拒否権はない)が来た時に盛大に渋って俺の部屋に立てこもろうとした(部屋からは即追い出した)兄上の姿を思い出した。
「僕はファルム一筋なんだよ。信じて欲しいな」
俺の頬を優しく撫でながら、真っ直ぐに瞳を見つめて言い放つ。
兄上はアリナ嬢ではなく、暫く会えていなかった弟への心酔をひたすらこじらせていた事が判ってしまった。判りたく、なかった!
兄上曰く、アリナ嬢は学園編入当初からかなりやらかしていたらしい。
見た目の良い男子学生に声をかけまくり、早々に女性陣に嫌われたそうだ。ここまでは義姉上に聞いた事と一致している。兄上から見てもおかしいと思うのだから、全生徒がやべぇ奴認定するのも頷ける。
「ルーベンス殿下がね、面白そうだから聖女に粉かけに行くぞ、って言っちゃったんだよね」
言っちゃったのか。そして行くなよ。有言実行の行動力は素晴らしいとは思うが、その結果が今の惨状じゃねえか。先を見通せと教育されてるんじゃないのか。
ルーベンス殿下と愉快な仲間たちは見た目がいいので、声をかけられたアリナ嬢はとても喜んだのだそうだ。
そして女学生の輪に加われない(自業自得)のアリナ嬢は、彼らと行動を共にするようになる。
一応ここまでは「聖女だからよろしくね」と陛下からのお言葉に従っている風には見える。
「僕達と一緒に行動するようになってから程なく、彼女は僕達を個別に呼び出しては親密な関係を築こうとしたんだ」
ん?修羅場製造機かな?乙女ゲーってやっぱ怖ぇな!
少数グループ全員を落とそうとする程の自分への自信は何処からくるのか…兄上に動きがバレるということは、他のメンバーも気づいて容認した、って事だよな。
遊びだからオッケーとか思ったんだったら、婚約者の皆様に拳を入れられろ。顔に。
「僕も最初は彼女の事はちょっとだけかわいいな、とは思っていたんだ。まぁ、ライニーには及ばないけど。それに、無駄にくっ付いてくるのも平民の距離感かな?って。でも、周りが彼女に心酔していく様を見ているうちに怖くなってきてね。ずっとファルムの腕に抱かれに行きたかったよ」
最後の一言はいらないよな、と思いながら「はいはい、抱きしめてあげますよ」と、ハグして背中をトントンしてあげる辺り、俺も兄上に甘いんだよなぁ…
好みの顔立ちから「会いたかった!抱きしめて!」って言われちゃったら従うしかないじゃない?異性だったら最高なんだけど、ブラコン拗らせた兄上…いや、好かれているだけ良しとしよう。文句は言うまい。
「彼女が彼らに何を言って心酔させたかは少し気になってたから、僕が呼び出された時は怖さと興味の半々だったんだよね」
コンプレックスを刺激して「君は君だ。信じるよ」とか言って全肯定したら攻略できるとかかな?背景を知ってるとつつきやすいからそこを突いたんだろうな。
「待ち合わせ場所で遭遇して早々に彼女は僕に言ったんだ
「弟君の事は残念な事だと思うわ。魔王が体を乗っ取りたいからってラスフェルム様の気持ちを蔑ろにしていい訳ないじゃない」と」
残念そうに瞼を伏せる。うわぁ、長い睫毛がファサ、ってなってかっこいい。
でもやっぱりそれは弟に言うセリフじゃないんだよなぁ…
「そのセリフは是非義姉上に伝え、毎日共に過ごしてください。義姉上が心配なさっていますよ」
「…………うん」
なんだその間は。
「義姉上がお嫌でなければ、俺もご一緒させてもらいますから」
「!」
しょぼんとした顔が「俺も一緒に」という言葉を聞いてぱあっと輝く。なんだか兄上もワンコに見えてきた。
ラウレスタ様を超大型犬に見立ててしまった後だからなのか、兄上も犬属性に見えてしまう。いや、犬は嫌いではないけども。
あ、全力で振られる尻尾まで見えてきた。この短期間で順調に悪化している。
早めにこの空目は治さないとダメだな。
「ライニーと言えば…ファルムは聖協会で生活しているのだし、聖女には会ったことがあるかい?」
兄上は義姉上、ライナーツ嬢をライニーと呼んでいる。義姉上は「愛称にセンスを感じない」と言いながらも訂正を求めないので、気に入らない訳ではないのだろう。義姉上はツンデレの素養が十分に備わっていると俺は思っている。
「遠目よりお見かけしたことはありますが、義姉上をきっかけにその件を思い出すのは失礼かと思います」
アリナ嬢にはもう既に多大なる迷惑をかけられているので、会いたくないし会うつもりもない。むしろもっと距離を置きたい。関わりたくない。
俺の返答と態度に思うところがあったのか、兄上の眉が少し下がった。
「うん、ごめんね。ライニーにも迷惑をかけていることは判ってはいるんだ。ファルムも聖女には、できるなら近づかないままでいて欲しい」
僕だけをその瞳に映して、という言葉を弟に吐くのはどうかと思います。
「兄上はご学友の皆様と同じ様に聖女に心酔されていると聞きましたが、本当なのでしょうか?」
回りくどい聞き方をすると甘ったるいセリフで有耶無耶にされそうだから、思い切って正面からぶつかっていくことにした。
義姉上を気遣う雰囲気も感じたし、俺に煮詰まった砂糖の塊をぶつける勢いのセリフを吐けるのだから、アリナ嬢にはまだ染まりきっていないのでは?と勝手に判断したからだ。
「正直、聖女に関してはシスター達の反応はよろしくありません。彼女たちの同性を観る眼は多少手厳しい部分もあるでしょうが信頼できます。兄上もできるならば距離をとられることをおすすめしたいです」
完全に心酔しきっているなら「距離をとったほうがいい」は拒絶されるはず。兄上の反応はどうだろうか。
「僕としては聖女と離れてファルムの傍に張り付きたいんだけど、ルーベンス殿下がねぇ…」
思っていたのと違…いや、これは兄上の通常だ。
同じ歳のルーベンス殿下の側仕えに、と打診(上からの言葉なので勿論我が家に拒否権はない)が来た時に盛大に渋って俺の部屋に立てこもろうとした(部屋からは即追い出した)兄上の姿を思い出した。
「僕はファルム一筋なんだよ。信じて欲しいな」
俺の頬を優しく撫でながら、真っ直ぐに瞳を見つめて言い放つ。
兄上はアリナ嬢ではなく、暫く会えていなかった弟への心酔をひたすらこじらせていた事が判ってしまった。判りたく、なかった!
兄上曰く、アリナ嬢は学園編入当初からかなりやらかしていたらしい。
見た目の良い男子学生に声をかけまくり、早々に女性陣に嫌われたそうだ。ここまでは義姉上に聞いた事と一致している。兄上から見てもおかしいと思うのだから、全生徒がやべぇ奴認定するのも頷ける。
「ルーベンス殿下がね、面白そうだから聖女に粉かけに行くぞ、って言っちゃったんだよね」
言っちゃったのか。そして行くなよ。有言実行の行動力は素晴らしいとは思うが、その結果が今の惨状じゃねえか。先を見通せと教育されてるんじゃないのか。
ルーベンス殿下と愉快な仲間たちは見た目がいいので、声をかけられたアリナ嬢はとても喜んだのだそうだ。
そして女学生の輪に加われない(自業自得)のアリナ嬢は、彼らと行動を共にするようになる。
一応ここまでは「聖女だからよろしくね」と陛下からのお言葉に従っている風には見える。
「僕達と一緒に行動するようになってから程なく、彼女は僕達を個別に呼び出しては親密な関係を築こうとしたんだ」
ん?修羅場製造機かな?乙女ゲーってやっぱ怖ぇな!
少数グループ全員を落とそうとする程の自分への自信は何処からくるのか…兄上に動きがバレるということは、他のメンバーも気づいて容認した、って事だよな。
遊びだからオッケーとか思ったんだったら、婚約者の皆様に拳を入れられろ。顔に。
「僕も最初は彼女の事はちょっとだけかわいいな、とは思っていたんだ。まぁ、ライニーには及ばないけど。それに、無駄にくっ付いてくるのも平民の距離感かな?って。でも、周りが彼女に心酔していく様を見ているうちに怖くなってきてね。ずっとファルムの腕に抱かれに行きたかったよ」
最後の一言はいらないよな、と思いながら「はいはい、抱きしめてあげますよ」と、ハグして背中をトントンしてあげる辺り、俺も兄上に甘いんだよなぁ…
好みの顔立ちから「会いたかった!抱きしめて!」って言われちゃったら従うしかないじゃない?異性だったら最高なんだけど、ブラコン拗らせた兄上…いや、好かれているだけ良しとしよう。文句は言うまい。
「彼女が彼らに何を言って心酔させたかは少し気になってたから、僕が呼び出された時は怖さと興味の半々だったんだよね」
コンプレックスを刺激して「君は君だ。信じるよ」とか言って全肯定したら攻略できるとかかな?背景を知ってるとつつきやすいからそこを突いたんだろうな。
「待ち合わせ場所で遭遇して早々に彼女は僕に言ったんだ
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