この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「儀式に関しては細かい調整が必要だとかで、大体一月後に行われる予定だ。君も来るよね?」
「勿論です殿下。いい顔で見送りましょうね」
「は…はは!それはいい!ウィー君の愛らしさも見せつけながら送ってやろう!」
「いいですね」
 喚ぶ時も魔力補填要員で加わっていたので還す時も呼ばれるとは思うが、今度はアーデルハイド殿下と前に出て「ざまぁ」って笑いながら送ってやりたい。

「それでね、先日上手くいかなかった対話をする時間を改めて設けるから、来週辺り普通の装いでおいで」
 思いっきり釘刺してきたな。
「ははっ、今日以上の衝撃はもう無いですよ」
 次から警戒するでしょ?って微笑むと、「今日以上のものがあったら困るよ」と返された。
 流石にこれ以上痛々しい姿は思いつかないし、あっても恥ずかしさが上回るだろう。
 落ち着いて振り返ると、この姿もなかなか恥ずかしいよな。わかってはいたが痛々しい。流石黒歴史製造厨二病。後から押し寄せる何とも名状しがたき思いよ。
 アーデルハイド殿下に一矢報いるという目的がなかったら着てない。
 あのテンションどこから来たんだろうな?

 兎も角、アリナ嬢との再戦が決まった。
 次はちゃんと会話出来ますように。

「あ、そうそう。聖女は無意識に魅了魔法を使うみたいだから、対策もしなきゃね」
「は?そんな大事な事はもっと早く言ってくださいよ!」
 ヒロイン補正の裏側を垣間見た気がする。
 いや、もっと早く気づいて対処できていたら、あの茶番はしなくてすんだはず。
「君の姿の衝撃で吹き飛んでいたんだ」
「ウィー君、連れて帰りますね」
「ダメ!絶対!ウィー君を私から奪わないで!後出しでびっくりした顔が見たかっただけなんだ!」
 すっ、とウィー君を抱いたまま席を立つと、アーデルハイド殿下が縋ってきた。
 ウィー君完全に弱点になってるじゃないか。王侯貴族にこの弱点はダメだろ。
「アイローチェ様が婚約者になって良かったですね」

 アイローチェ様は茶番の後、ルーベンス殿下との婚約を解消し、アーデルハイド殿下と婚約する事になった。
 アーデルハイド殿下曰く「元に戻っただけ」だそうだ。
 元々は…とか背景があるのだろうが、深入りするのも面倒なので聞かなかった。関わらないためには耳に入れないことも大切。
 アイローチェ様はウィー君を捕獲した事情込みでアーデルハイド殿下の奇行を受け入れてくれる貴重な方なので、俺としても素直に祝福できる。
 きっとこの機会をのがしたら、アーデルハイド殿下は生涯独身になってしまう気がする。
 お二方の関係が、兄上と義姉上に近いものになってしまったと感じてしまうのは、俺の思い違いだと思いたい。

「うん、アイローチェは懐が広いからね」
 アイローチェ様の話題になった途端、アーデルハイド殿下の表情が柔らかくなった。
 ウィー君に向けるのとはまた違ったものだ。
 これは…愛妻家になる可能性…?良かったですね、アイローチェ様。

 ご令嬢方の婚約関係で動いたのは今のところアイローチェ様だけで、後は禊が済んでからの決定になるという話を聞いた。
 継続の場合、奥方の尻に敷かれる事がほぼ確な訳なんですが。
 自らは全く非がないのに辛いおもいをされたので、今後は是非とも幸せになって頂きたい。

 兄上と義姉上は双方の家で協議した結果婚約継続が確定している。
 兄上はアリナ嬢を割と早い段階で見切っており(見切った時の話は遠征帰還後に聞いた、というより一方的に語られた)、その後は愉快な仲間たち情報をアーデルハイド殿下や義姉上に流す役割をしていたそうだ。義姉上、そんな話聞いてませんよ?
 簡単にまとめると、こちらの味方についた兄上と義姉上に婚約解消の理由はない、という訳だ。
 後、二人ともそこそこに癖が強いので「この相手を逃したら生涯独身ルートが見える」と家族に思われているのだと俺は思っている。家族は思っていなくても、俺はそう思っている(大事な事だから二回言う)
 俺にとっても兄上には早く結婚してもらい、義姉上や二人の子に執着を移して貰いたいと切実に思っている。
 重度のブラコンを受け入れてくれる相手を逃がしてはならない。その辺はコモフ伯爵家義姉上の家より我が家(特に俺)の方が必死だ。

 アリナ嬢の一件がなければ愉快な仲間たちは卒業後から準備に入り、約半年後には式を挙げられる予定だったのに…つくづく罪深い(自称)聖女め…
 これで得をしたのは(俺の知る中では)アーデルハイド殿下だけなんだよなぁ…ウィー君とアイローチェ様をゲットして、瘴気浄化の伝手まで得てるんだから。
 俺も三食昼寝付きの優雅な生活を飽きるまでしたい。それか週休4日生活。

「瘴気の浄化の件は、学園で君たちと一緒にいた教授たちが連名で実証実験を始めていてね」
 あの時「新しい分野の開拓だ!」と、うっきうきで帰っていったルキスラ教授が筆頭になって進めてるやつですね。
 提案書を書いた時点ではこんなに騒がしくなるとか思ってませんでしたよ。ははは。
「ラブレ教授から進行状況の確認と修正点を話し合いたい、と申し出があっているんだ」
「ラブレ教授から、ですか?」
 ルキスラ教授ではなく、面白そうなことは大好きだけど、(興味の薄い事柄の)面倒事は避けて通りたいラブレ教授が。
「ルキスラ教授が暴走気味だから、コントロールして欲しいと学生からの要望が出たらしくてね」
 ………すごく、納得した。
「入学式が終わってから日取りの調整をしたいと言っていたから、心構えだけはしておいて欲しい」
「承りました。こちらも都合の良い日をラブレ教授に知らせておきます」
「ウィー君と出会ったあの森で、ウィー君と過ごす穏やかな時間…楽しみだねぇ、ウィー君」
 あ、アーデルハイド殿下も参加なんですね。

「……手短な方から、って言いましたよね?」
 この話の方が早く終わりましたねぇ。
「さて、どうだったかな?」
 くっ、いちいち顔がいいなこの方は!
 張り合うつもりは全くないんだけど、悔しい気持ちになるのは何故なんだろうな。
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