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始まりは断罪の目撃から
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扉を開けたらそこは、俺の知らない世界だった。
「「………………」」
目の前に広がる景色は一面のピンクとブリッブリのレース。ピンクってこんなに種類があったんだな…
「………殿下」
「……なに?」
アーデルハイド殿下もすぐに言葉が出ないということは、この惨状を知らなかったんだな。
「目が、痛いです」
滅びの呪文が有名なアニメの登場人物みたいに悶え苦しむことはないが、ギラっギラのピンクが目に痛い。これ以上中に入りたくない。
「奇遇だね。私もだよ」
外向き用の笑顔が若干引きつっておられる。
どういうことかと見張りに尋ねると「外に出せない代わりに室内を好きに装飾させることにしたらこうなった」と。
「何故途中で止めなかったのか…」
ここに入れられてからまだひと月も経ってないハズだよな…しかももうサヨナラするんだよ…
「ひたすらもったいないですね」
「儀式が済んだら解体して王家が支援している孤児院へ贈ります…」
「それがいいと思います」
そうですね。ここに残したら無駄になりますものね。
「お客さん?私、退屈していたの。ねぇ、何か面白い話をしてくれる?」
入り口でそんなやり取りをしていると、アリナ嬢がこちらに気づいたようだ。
アリナ嬢の手にはデコられた本が握られている。デコって暇つぶししてたのか。
「…………宝石……」
「……終わったら差し上げます」
「………寄進の名目であれば受け取ります…」
正直要らないんだが、本をデコっているキラキラした小石は本物の宝石だ。
この世界では合成樹脂とかクリアプラスチックとかはまだ存在してないし、王城に出入りする者がガラス片持ってくるわけないからガチ宝石…
ガラスは溶かして再利用できるから、割れたら業者回収のシステムができているので欠片といえども流出はほぼない。ガラスも高価だしね。
まあ、規格外のクズ石とはいえ宝石をおもちゃにするとか、俺が持ち合わせていない驚きの感性だ。価値判ってないんだろうなぁ。
俺は今世での教養の一つとして学んだから、ある程度は判別できるようになった。
前世では宝石なんて縁がなかったからさっぱりだったんだが、今世では必要な知識だし。
なぜかというと、宝石の判別ができないとカットガラスを宝石だと騙されて大枚をはたくという失態を晒してしまうからだ。これは貴族としては非常に恥ずかしいし、お金が勿体ない(俺の中ではこれが一番の理由)。
詐欺る奴が悪いのは当然だが、見抜けないやつも悪いというのもこの業界での暗黙だし、お金が勿体ない(2回目)
外したくない!という思いが強すぎたのか、魔力を流して見分けるというズルテクも身についてしまった。結果オーライ。
だからこそ、アリナ嬢との価値観の違いの恐ろしさを感じている。ジェネレーションギャップとかじゃないから!ないから!
「お部屋もとっても可愛くできたのよ。見て、ベッドお気に入りなの」
「……ベッド……」
来訪者を早々にベッドに案内するってどうなの?俺が深読みしすぎなの?
「…………」
あ、ベッド見たアーデルハイド殿下が絶句してる。
アリナ嬢に案内された先、目の前に広がるのは入り口から見た景色以上のものだった。
ピンクの量もレースの量も家系麺類のタワーを遥かにマシマシに増した、目を通り越して頭痛が痛い状態の異(常な)世界。俺の知らない世界…いや、無理。
「「……………」」
二人して眉間を押さえる。息が合うとかそういう問題じゃない。
お付きのもの(見張り)はなぜ止めなかったのか…
「寝にくくは、ないのでしょうか…」
「すごくいいわよ!」
ポロッと漏れた呟きにアーデルハイド殿下が賛同の意を示そうとしたのを押し込めるように、アリナ嬢が食いついてきた。
そしてそのまま自慢のベッドの素晴らしさ語りに突入する。
やっぱり話通じないじゃないか!うっかり零した俺も悪いとは思うけど!
仕方が無いので適当に相槌をうちながらアリナ嬢のベッド談義をやり過ごすことにした。
「来て早々に精神が摩耗するとか辛い…」
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いていますよ。レースが輝くように宝石を魔法でつけたのですよね」
「そうよ!この世界はデコのりがないから思いついたの!凄いアイディアでしよ?」
「ええ、素晴らしい発想ですね」
アリナ嬢が水を得た魚のように語り続ける。これがマシンガントークか…
前世でデコられたものに直に触れる機会なかったから「デコのり」がどんなものか判らないんだよなぁ…ボンドとかスチのり(発泡スチロールにつける用ののり)とかと何が違うのか…
そして…話、止まらないなぁ…うん、どうしようか。
社畜時代に有名動画投稿サイトで観た「上司を気持ちよく語らせる方法」の一つをうっかり思い出して試してみたのが不味かったなぁ…
あの系列の動画、たくさんある上に投稿者によって言う事違うから(たまに同一投稿者でも言う事が変わる)結局「流れに任せる」に落ち着いたんだよな…
酔った上司もここまで語らなかったのに…
………茶番の時も思ってたけど、愉快な仲間たちとどうやってコミュニケーションとってたの?この子。
あと、救世の魔力をデコレーションに使うの勿体なさすぎ。自分の力をどう使うかは自由ではあるけど。
クズ石でのデコレーションアイテムは新しい商売のアイディアとしては使えそうだから、後でアーデルハイド殿下と相談しますね。
「聖女様はこの世界にはない知識をたくさんお持ちなのですね。こちらにお越しになるきっかけはどのようなものだったのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
すまない。もう耐えられないから、本題に入らせてくれ。
いや、もっと早く切り込めばよかった。
上司の話に耐える癖がつい出てしまったのが社畜の悲しい性。
そして、キョトン顔するの止めて。俺の話、理解して!
「「………………」」
目の前に広がる景色は一面のピンクとブリッブリのレース。ピンクってこんなに種類があったんだな…
「………殿下」
「……なに?」
アーデルハイド殿下もすぐに言葉が出ないということは、この惨状を知らなかったんだな。
「目が、痛いです」
滅びの呪文が有名なアニメの登場人物みたいに悶え苦しむことはないが、ギラっギラのピンクが目に痛い。これ以上中に入りたくない。
「奇遇だね。私もだよ」
外向き用の笑顔が若干引きつっておられる。
どういうことかと見張りに尋ねると「外に出せない代わりに室内を好きに装飾させることにしたらこうなった」と。
「何故途中で止めなかったのか…」
ここに入れられてからまだひと月も経ってないハズだよな…しかももうサヨナラするんだよ…
「ひたすらもったいないですね」
「儀式が済んだら解体して王家が支援している孤児院へ贈ります…」
「それがいいと思います」
そうですね。ここに残したら無駄になりますものね。
「お客さん?私、退屈していたの。ねぇ、何か面白い話をしてくれる?」
入り口でそんなやり取りをしていると、アリナ嬢がこちらに気づいたようだ。
アリナ嬢の手にはデコられた本が握られている。デコって暇つぶししてたのか。
「…………宝石……」
「……終わったら差し上げます」
「………寄進の名目であれば受け取ります…」
正直要らないんだが、本をデコっているキラキラした小石は本物の宝石だ。
この世界では合成樹脂とかクリアプラスチックとかはまだ存在してないし、王城に出入りする者がガラス片持ってくるわけないからガチ宝石…
ガラスは溶かして再利用できるから、割れたら業者回収のシステムができているので欠片といえども流出はほぼない。ガラスも高価だしね。
まあ、規格外のクズ石とはいえ宝石をおもちゃにするとか、俺が持ち合わせていない驚きの感性だ。価値判ってないんだろうなぁ。
俺は今世での教養の一つとして学んだから、ある程度は判別できるようになった。
前世では宝石なんて縁がなかったからさっぱりだったんだが、今世では必要な知識だし。
なぜかというと、宝石の判別ができないとカットガラスを宝石だと騙されて大枚をはたくという失態を晒してしまうからだ。これは貴族としては非常に恥ずかしいし、お金が勿体ない(俺の中ではこれが一番の理由)。
詐欺る奴が悪いのは当然だが、見抜けないやつも悪いというのもこの業界での暗黙だし、お金が勿体ない(2回目)
外したくない!という思いが強すぎたのか、魔力を流して見分けるというズルテクも身についてしまった。結果オーライ。
だからこそ、アリナ嬢との価値観の違いの恐ろしさを感じている。ジェネレーションギャップとかじゃないから!ないから!
「お部屋もとっても可愛くできたのよ。見て、ベッドお気に入りなの」
「……ベッド……」
来訪者を早々にベッドに案内するってどうなの?俺が深読みしすぎなの?
「…………」
あ、ベッド見たアーデルハイド殿下が絶句してる。
アリナ嬢に案内された先、目の前に広がるのは入り口から見た景色以上のものだった。
ピンクの量もレースの量も家系麺類のタワーを遥かにマシマシに増した、目を通り越して頭痛が痛い状態の異(常な)世界。俺の知らない世界…いや、無理。
「「……………」」
二人して眉間を押さえる。息が合うとかそういう問題じゃない。
お付きのもの(見張り)はなぜ止めなかったのか…
「寝にくくは、ないのでしょうか…」
「すごくいいわよ!」
ポロッと漏れた呟きにアーデルハイド殿下が賛同の意を示そうとしたのを押し込めるように、アリナ嬢が食いついてきた。
そしてそのまま自慢のベッドの素晴らしさ語りに突入する。
やっぱり話通じないじゃないか!うっかり零した俺も悪いとは思うけど!
仕方が無いので適当に相槌をうちながらアリナ嬢のベッド談義をやり過ごすことにした。
「来て早々に精神が摩耗するとか辛い…」
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いていますよ。レースが輝くように宝石を魔法でつけたのですよね」
「そうよ!この世界はデコのりがないから思いついたの!凄いアイディアでしよ?」
「ええ、素晴らしい発想ですね」
アリナ嬢が水を得た魚のように語り続ける。これがマシンガントークか…
前世でデコられたものに直に触れる機会なかったから「デコのり」がどんなものか判らないんだよなぁ…ボンドとかスチのり(発泡スチロールにつける用ののり)とかと何が違うのか…
そして…話、止まらないなぁ…うん、どうしようか。
社畜時代に有名動画投稿サイトで観た「上司を気持ちよく語らせる方法」の一つをうっかり思い出して試してみたのが不味かったなぁ…
あの系列の動画、たくさんある上に投稿者によって言う事違うから(たまに同一投稿者でも言う事が変わる)結局「流れに任せる」に落ち着いたんだよな…
酔った上司もここまで語らなかったのに…
………茶番の時も思ってたけど、愉快な仲間たちとどうやってコミュニケーションとってたの?この子。
あと、救世の魔力をデコレーションに使うの勿体なさすぎ。自分の力をどう使うかは自由ではあるけど。
クズ石でのデコレーションアイテムは新しい商売のアイディアとしては使えそうだから、後でアーデルハイド殿下と相談しますね。
「聖女様はこの世界にはない知識をたくさんお持ちなのですね。こちらにお越しになるきっかけはどのようなものだったのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
すまない。もう耐えられないから、本題に入らせてくれ。
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上司の話に耐える癖がつい出てしまったのが社畜の悲しい性。
そして、キョトン顔するの止めて。俺の話、理解して!
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