この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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 学園視察が終わった感想は様々だ。
「フィーの趣向が知れてよかった。あと、ラキアラス王国のレディのレベルは高い。連れて帰れないものか」
「オル兄様は女性と可愛らしい少年にしか興味がないのでしょうか」
「国の品格が落ちるような感想はお控えくださいませ」
 うん。ライオルノ王子の視線が逸れまくっていたのには気づいていたので、想定の範囲内。
 あと、未成年の同性に手を出す趣味はラキアラス王国…というより人前では公言しない方がいいと思います。俺は勿論範囲外ですよね?

「我が国の学び舎にも制服が必要なことがわかった。学び舎だけでなく、必要な所には制服を導入しよう」
 もう制服作るのは確定してたよね?適当な理由付けが必要だっただけですよね?
 うん。この視察は意味がありませんでした(結論)
 興味が湧くかはわかりませんが、医療関係はラキアラス王国でも制服を普及させている最中なのでおすすめです。
 医療機関の視察?学園での行動を見るに、しなくてもよいのでは?

 医療機関の制服導入の始まりはランカ様「やりましょう」の一言があったからだ。
 聖協会の奉仕事業のひとつに医療支援があり、現場を見た俺が「治療する側は清潔感が大事」みたいな事をポロッと言ったのがきっかけらしい。そんな記憶は無いのだが…
 ここで「言った言ってない」のやり取りをする気はない。ランカ様が「言ってましたよ」と言うならそうなのだろう。
 聖協会で「まずは奉仕者と判るように、揃いの上着を着ましょう」とやっていた活動を見た王国が「いいねそれ。王国の事業として扱おう」と正式に決議。いくつかの議論を経て制服の基準を決定。陛下のお膝元である王都の国立病院から導入が始まっている。国が先導してくれるのはいいよね。
 色は白ではなくライトブルー。男女共用の動きやすさを重視。前世でいうと看護士服に近く、この世界ではかなりスタイリッシュな部類に入る。
 導入当初は否定的な意見もあったが、着てみたら「なんだこれ動きやすいな」と広まりつつある。いい事だ。
 ミニスカナースは男子のロマンの一つではあるけど、動き的にも見る側の精神衛生的にもアレだもんね。ドレス着用経験が語る、股下の落ち着かなさ。

 ちなみに「王国内で制服着用の職業を一つ」って言われたら俺は「近衛騎士」って答える。
 白とライトグリーンを基調とした爽やかさを感じさせる制服が良く似合うイケメン集団で、騎士を目指す者の憧れでもある。
 俺も初めて見た時「おおっ!」ってなった。揃いの装備で規律正しく動く姿は見ていて気持ちがいいよね。
 当然の話だが、アーデルハイド殿下に振り回されるロシェル様も近衛騎士なのでこの制服を着ている。
 その他の騎士や兵士は王宮の制服をベースにお抱え貴族の好みに合わせてあれこれアレンジを加えてあるので「あ、この色はこの家門のお抱えだな」みたいな感じで区別できて便利らしい(聞いた話)
 以前訪れたグローデン領の前衛は「返り血が目立たないように」とかいう理由で黒ベースの服を着ていたのを思い出した。それを考えると、白ベースは平和の象徴なんだろうね。
「返り血を浴びる前に制圧するのが近衛です」
 いつの間にか背後にロシェル様が立っていた。俺の、心を、読んだのか…?

「アーデルハイド殿下が皆様のお帰りをお待ちです」
「………あっ」
 そろそろ限界なのでお迎えに参りました。と、ロシェル様。
 アーデルハイド殿下にロメオロス王子の相手を任せて丸投げしていたの忘れてた。
 青の館にライオルノ王子御一行を送り届けた俺は、アーデルハイド殿下を回収して王城へ連れ帰った。
 帰りの馬車。アーデルハイド殿下は虚ろな目で黙々とウィー君をモフり倒していた。
「俺からの報告は、明日登城して行います」
 アーデルハイド殿下の状態を見るに、これから何かをやらせるのは無理と判断した。
 今日は早く寝ましょうね?

 翌日。報告の為に登城した俺は、お疲れが取れ切ってないアーデルハイド殿下と対面していた。
「よく来たね。待っていたよ」
 アーデルハイド殿下、なんか、アレですね。昨日の朝と顔つきが違いますよ?やつれられました?
「昨日の今日では早すぎました…か…?」
 ほら、お膝のウィー君の撫で方…も…………なん…ウィー君じゃない…だと…!?
「アーデルハイド殿下…ウィー、君、は…?」
 何か似てるけど違うのが乗ってますよ?
「ウィスフェルメルメス様は療養中のため、抜け毛を集めて生成された分体「ウィズ君」を殿下の精神安定に用いております」
 俺の動揺を察知したのか、ロシェル様が丁寧な説明をしてくれた。ありがとう。
 ウィー君の本名、馴染みが薄すぎて忘れかけてた。
 ウィー君自体が元々アクティブに動いたりしないから気づくのが遅れたけど、そうか、ぬいぐるみでもいけるのか…
 まあ、本体の毛を使っているからある意味分身だよね。
 …待てよ?分身ができるくらいモフ毛抜け………ストレスでは?精神負荷、ダメ!絶対!
「しろうさぎのウィズ…ふふ…」
 アーデルハイド殿下が虚ろな眼差しで呟く。怖いからやめてください。今日も早く寝て。

 魂が飛んでいるアーデルハイド殿下の代わりにロシェル様が語った昨日の話はこうだ。
○ライオルノ王子御一行の学園視察の裏で、ロメオロス王子を青の館から出さないようにアーデルハイド殿下が付くことになった。
 うん。ここまでは聞いている。
 問題はその後。
○一人でロメオロス王子話が通じない賓客の対応は辛いと感じたのか、禊中のルーベンス殿下を召喚。
 おそらくだが、やらかした奴にやらかした奴をぶつける事で生まれる何かに期待したのだろう。
○ロメオロス王子とルーベンス殿下が何故か意気投合。ミーコちゃん談議で大いに盛り上がり、二人から「会わせろ」コールを浴びるアーデルハイド殿下。
 なんというか、掛け合わせてはダメなやつがなんやかんやうまいこと噛み合ってしまった。みたいな?
○「これはダメだ」とルーベンス殿下を先に送り返したアーデルハイド殿下のメンタルがエグい削れ方していることをロシェル様が察知。俺たちを迎えに来る。
 お疲れ様でした。
○帰ったらルーベンス殿下からも「俺はミーコとやらに会うべきだよな」と絡まれる。
 ………聞いてて疲れるんですが?

「ウィー君と離れたら生きていけない…」
「ウィズ君もハゲるから手を止めましょうね」
 今から報告書を書きますから、その間ここでお休み下さい。
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