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真実は一つとは限らない
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「ファルムファス・メロディアス!僕は君を告発する!」
ある日、場所は初等部のエントランスホール。朝イチで初対面の坊ちゃんに俺は告発された。
意味がわからないよ?
「……どういう事か、説明してくれる?」
身に覚えのない罪を認める訳にはいかないのだよ。
「ああいや、その前に。君は誰?」
初等部で見た事ないよ?進級式にいなかったでしょう?
制服を着ている事から、学生だろうとは思う。そのリボンタイは初等部ですね。うん。やっぱりこんな奴知らないなぁ。
学園は比較的オープンだから、門さえ通過出来れば(許可証で認められている範囲内なら)割と自由に動ける。
門の通過も許可証の発行も無茶言わなければ大体の希望は通るから、制服作ってまで侵入しようって輩はなかなかいないんだよね。
研究成果をかすめ取るなら高等部以上だし、初等部に人材集めて潜入とか得るものないでしょ?
じゃあ、誰だお前。
「僕を知らないなんて!貴族じゃないな?」
それはこちら(侯爵家次男)のセリフだが?
「…バルロ君!何してるの!?」
朝から話が通じない奴の相手は正直しんどい…と疲労感を感じていると、聞きなれた声が飛んできた。掛けられた対象は、どうやら目前の告発者のようだ。
「アス君」
声を掛けてきたのはアスベル・マーロル。マーロル公爵家の三男坊で、俺の友達だ。困った兄を持つもの同士という縁で仲良くなった。
留学中のメロメ国の第五王女イニフィリノリス嬢(立場は学園の「学ぶものは平等」の理念の元、公然の秘密(知ってるけど言わない)となっている)に一目惚れして、絶賛アプローチ中だ。俺は応援している。
アス君ならトンデモ王子たちを上手く捌けるはずだ。ついでに目前の困った坊やもどうにかしてくれ。
「部長!犯罪者を学園にのさばらせてはいけません!追放すべきです!」
アスベル君は今年、初等部長という生徒会長みたいな役職に着いている。派閥争いの調整だけでも大変なのに、問題児の面倒まで見なきゃいけないとかハードワークが過ぎる(つまり、俺はやりたくない)。
そして俺はいつ犯罪者になったのだろうか。罪状は?
「落ち着きなさいバルロ君。どうしてこうなった?」
それは俺も知りたい。
「初対面の相手に告発されるとか初めてなんだけど」
「普通の学生は初対面の相手どころか、誰にも告発されないよ」
確かに。いや、俺は普通の学生だぞ?相手がおかしいんだ。
「部長、離してください!僕は正義を執行する!」
「バルロ君はまず、深呼吸をしようか」
背中をトントンする姿は発作患者を落ち着かせる看護士に見えるのは…うん。気のせいだな。
「とりあえず、別室に移動しない?」
ここは目立つ。授業も始まる時間だから、長々やらかすと他の学生に迷惑だ。皆見てるし。
それに…バルロ君とやらが落ち着かないと、これはもうどうにもならないやつでしょう。
…あー…コレを相手にするのか…面倒臭いなぁ…
なんかもう、今日は授業どころじゃなくなる予感がする。ただでさえメロメ国の一件で遅れてるのに、補講の追加とかシャレにならないからやめてくれるかな?
初等部の会議室の一つを借りた俺たちは、保健医のアスト・メイナース先生と騎士科のマグナ・ゴルラフ隊長の監視下でバルロ君の話を聞くことにした。
立場のある第三者を挟むのは大事だからね。
演習帰りであろうゴルラフ隊長を捕まえることに成功したのは僥倖。ツッコミ役が増えるのは正直助かります。
「改めて自己紹介を。俺はファルムファス・メロディアス。初等部2年に在籍しているよ。君は?」
「………犯罪者に名乗「バルロ君」……ヤヅレ・バルロ。初等部2年…」
名を知られてなるものか!と抵抗しようとした所をアスベル君にたしなめられ、しぶしぶ名乗った。こいつ…同級生かよ…!
「メロメ国の王族来訪の最中に転入してきたんだ」
「納得しました」
それは俺、知らないやつだわ。トンデモ王族の対応で学園通う余裕なかったもの。
「何故初めましての相手に嫌われてるんだ
?」
ゴルラフ隊長、ごもっともな反応です。
「俺が一番知りたいです」
この状況何なの?何の理由があってこんな暴挙にでてるの?
「この童が噂の転入生か。慣れない環境で落ち着かない事もあろう。心がざわめくときは、我にお任せあれ」
「………はぁ……お願い、します」
メイナース先生も俺は何気に初遭遇なのだが、大丈夫なの?この人。バルロ君が若干引いてるけど。
「メイナース先生はメンタルセラピストを自称している」
ゴルラフ隊長が解説してくれるの助かりますが……ん?自称…?
「ダメなやつでは?」
「暴走した学生の鎮圧にはメイナース先生が適任と聞きました」
ああ、その理由でアス君が呼んだのね。
「手段を選ばない、が前に付くなら確かに適任だな」
察しました。ゴルラフ隊長のツッコミ対象が増えるやつですね。よろしくお願いします。
「隊長を捕まえる事が出来てよかったです」
「都外演習帰りなんだ。休ませてくれ」
お疲れのところ大変申し訳ないとは思いますが、こちらの対応もお願いします。
バルロ君の主張はざっくりまとめるとこうだ。
〇最近学生の私物が紛失する騒動が起きている。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇エフィ教授が出張から帰ってこなくて授業が進まない。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇僕が田舎暮しを強いられているのは、黒ずくめの集団の陰謀に違いない!
〇黒ずくめのボスは黒いに違いない!学園に黒髪の奴がいるらしい!そいつが犯人だ!
……無茶苦茶が過ぎる。
「………どっから手をつけていいのかもわからないな、コレ」
全部破綻してやがる。なんだその「黒ずくめの集団」て。
アス君は最初の一つで早々に頭抱えちゃってるんだぞ。どうしてくれるんだ。
「私物紛失の件は魔道具室のミーナス室長が解決に向けて動いておられるので、私たちが案ずることではありません。その当時、ファル君は学園内に居なかったので無関係です」
そんな事件が起きていたことも知りませんでしたが、何か?
「ゴン氏の脱走癖はいつもの事だから、事件でもなんでもない。つまらぬ」
「お守りの人選をミスっただけだな」
大人はうんうんと頷く。アス君も「だからいないのか」という顔をしている。どうやら脱走癖は周知の事実らしい。
それ、民俗学のハーゴン・エフィ教授の方ですよね。王国学(ラキアラス王国内の地理や歴史を総括的に学ぶ教科)のイスラー・エフィ教授はこないだ見たし。
民俗学は初等部2年からと聞いているので、俺がまだ知らなくても仕方ないな。メロメ国…というか、我が王国の王族のせいだよ。学園生活満喫させろ下さい。
そして、先生方に言うのもアレかと思いますが、そんな人を初等部の教科担当にしないでくれます?
それに、民俗学って前世の大学でもレア科目だよ?一般教養じゃないよね?
ある日、場所は初等部のエントランスホール。朝イチで初対面の坊ちゃんに俺は告発された。
意味がわからないよ?
「……どういう事か、説明してくれる?」
身に覚えのない罪を認める訳にはいかないのだよ。
「ああいや、その前に。君は誰?」
初等部で見た事ないよ?進級式にいなかったでしょう?
制服を着ている事から、学生だろうとは思う。そのリボンタイは初等部ですね。うん。やっぱりこんな奴知らないなぁ。
学園は比較的オープンだから、門さえ通過出来れば(許可証で認められている範囲内なら)割と自由に動ける。
門の通過も許可証の発行も無茶言わなければ大体の希望は通るから、制服作ってまで侵入しようって輩はなかなかいないんだよね。
研究成果をかすめ取るなら高等部以上だし、初等部に人材集めて潜入とか得るものないでしょ?
じゃあ、誰だお前。
「僕を知らないなんて!貴族じゃないな?」
それはこちら(侯爵家次男)のセリフだが?
「…バルロ君!何してるの!?」
朝から話が通じない奴の相手は正直しんどい…と疲労感を感じていると、聞きなれた声が飛んできた。掛けられた対象は、どうやら目前の告発者のようだ。
「アス君」
声を掛けてきたのはアスベル・マーロル。マーロル公爵家の三男坊で、俺の友達だ。困った兄を持つもの同士という縁で仲良くなった。
留学中のメロメ国の第五王女イニフィリノリス嬢(立場は学園の「学ぶものは平等」の理念の元、公然の秘密(知ってるけど言わない)となっている)に一目惚れして、絶賛アプローチ中だ。俺は応援している。
アス君ならトンデモ王子たちを上手く捌けるはずだ。ついでに目前の困った坊やもどうにかしてくれ。
「部長!犯罪者を学園にのさばらせてはいけません!追放すべきです!」
アスベル君は今年、初等部長という生徒会長みたいな役職に着いている。派閥争いの調整だけでも大変なのに、問題児の面倒まで見なきゃいけないとかハードワークが過ぎる(つまり、俺はやりたくない)。
そして俺はいつ犯罪者になったのだろうか。罪状は?
「落ち着きなさいバルロ君。どうしてこうなった?」
それは俺も知りたい。
「初対面の相手に告発されるとか初めてなんだけど」
「普通の学生は初対面の相手どころか、誰にも告発されないよ」
確かに。いや、俺は普通の学生だぞ?相手がおかしいんだ。
「部長、離してください!僕は正義を執行する!」
「バルロ君はまず、深呼吸をしようか」
背中をトントンする姿は発作患者を落ち着かせる看護士に見えるのは…うん。気のせいだな。
「とりあえず、別室に移動しない?」
ここは目立つ。授業も始まる時間だから、長々やらかすと他の学生に迷惑だ。皆見てるし。
それに…バルロ君とやらが落ち着かないと、これはもうどうにもならないやつでしょう。
…あー…コレを相手にするのか…面倒臭いなぁ…
なんかもう、今日は授業どころじゃなくなる予感がする。ただでさえメロメ国の一件で遅れてるのに、補講の追加とかシャレにならないからやめてくれるかな?
初等部の会議室の一つを借りた俺たちは、保健医のアスト・メイナース先生と騎士科のマグナ・ゴルラフ隊長の監視下でバルロ君の話を聞くことにした。
立場のある第三者を挟むのは大事だからね。
演習帰りであろうゴルラフ隊長を捕まえることに成功したのは僥倖。ツッコミ役が増えるのは正直助かります。
「改めて自己紹介を。俺はファルムファス・メロディアス。初等部2年に在籍しているよ。君は?」
「………犯罪者に名乗「バルロ君」……ヤヅレ・バルロ。初等部2年…」
名を知られてなるものか!と抵抗しようとした所をアスベル君にたしなめられ、しぶしぶ名乗った。こいつ…同級生かよ…!
「メロメ国の王族来訪の最中に転入してきたんだ」
「納得しました」
それは俺、知らないやつだわ。トンデモ王族の対応で学園通う余裕なかったもの。
「何故初めましての相手に嫌われてるんだ
?」
ゴルラフ隊長、ごもっともな反応です。
「俺が一番知りたいです」
この状況何なの?何の理由があってこんな暴挙にでてるの?
「この童が噂の転入生か。慣れない環境で落ち着かない事もあろう。心がざわめくときは、我にお任せあれ」
「………はぁ……お願い、します」
メイナース先生も俺は何気に初遭遇なのだが、大丈夫なの?この人。バルロ君が若干引いてるけど。
「メイナース先生はメンタルセラピストを自称している」
ゴルラフ隊長が解説してくれるの助かりますが……ん?自称…?
「ダメなやつでは?」
「暴走した学生の鎮圧にはメイナース先生が適任と聞きました」
ああ、その理由でアス君が呼んだのね。
「手段を選ばない、が前に付くなら確かに適任だな」
察しました。ゴルラフ隊長のツッコミ対象が増えるやつですね。よろしくお願いします。
「隊長を捕まえる事が出来てよかったです」
「都外演習帰りなんだ。休ませてくれ」
お疲れのところ大変申し訳ないとは思いますが、こちらの対応もお願いします。
バルロ君の主張はざっくりまとめるとこうだ。
〇最近学生の私物が紛失する騒動が起きている。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇エフィ教授が出張から帰ってこなくて授業が進まない。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇僕が田舎暮しを強いられているのは、黒ずくめの集団の陰謀に違いない!
〇黒ずくめのボスは黒いに違いない!学園に黒髪の奴がいるらしい!そいつが犯人だ!
……無茶苦茶が過ぎる。
「………どっから手をつけていいのかもわからないな、コレ」
全部破綻してやがる。なんだその「黒ずくめの集団」て。
アス君は最初の一つで早々に頭抱えちゃってるんだぞ。どうしてくれるんだ。
「私物紛失の件は魔道具室のミーナス室長が解決に向けて動いておられるので、私たちが案ずることではありません。その当時、ファル君は学園内に居なかったので無関係です」
そんな事件が起きていたことも知りませんでしたが、何か?
「ゴン氏の脱走癖はいつもの事だから、事件でもなんでもない。つまらぬ」
「お守りの人選をミスっただけだな」
大人はうんうんと頷く。アス君も「だからいないのか」という顔をしている。どうやら脱走癖は周知の事実らしい。
それ、民俗学のハーゴン・エフィ教授の方ですよね。王国学(ラキアラス王国内の地理や歴史を総括的に学ぶ教科)のイスラー・エフィ教授はこないだ見たし。
民俗学は初等部2年からと聞いているので、俺がまだ知らなくても仕方ないな。メロメ国…というか、我が王国の王族のせいだよ。学園生活満喫させろ下さい。
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