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真実は一つとは限らない
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何時からここにいるのかは知らない(知りたくない)が、学生とはいえ王族を野外放置はよろしくない。本人が是と言ってもだ。
せめて建物の中に入れてあげましょうよルキスラ教授…
王族の扱いに一言は後で言っておくとして、これ以上レニフェル様をここに留めるのは魔研のメンバーのメンタルに響くから移動しなくては。
レニフェル様が入口前に陣取る→メンバー(の心)に継続ダメージが入って研究の効率が落ちる(主に卒論にダメージ)→そのしわ寄せが俺に来そうな気がする。
あれでしょ?ちょっと居ない間に厚くなる「やって欲しいことリスト」が更に厚くなるやつでしょ?嫌だよめんどくさい。精査する側も大変なんだよ?
今日はもうレニフェル様とお茶して帰るよ。
レニフェル様は俺の移動の提案にごねるかと思ったが、あっさりついてきた。
「わたくしはファルム様に用があるのであって、研究員に囲まれに来たのではないんですのよ」
ド正論かまされてしまった。おっしゃる通りです。
「本で床が抜けたら見に来ますわ」
これは前科があると聞いた。イニフィリノリス王女が月単位で引きこもるレベルの資料庫な時点で「ですよね」ってなる。2階以上に書庫作ったら予算カットらしいですね(これも聞いた話)
床が抜けるほど積むのも迷惑ですが、石造りが基本の建物の床が抜けるとか下の層にいる人の命が危ないのでマジやめて欲しい。
本(紙や羊皮紙)は重いからまとめて降ってこられたら石造りじゃなくてもヤバい。
「そうならないようにして欲しいですね」
ルキスラ教授の部屋がリーチ…というか、見られたらアウトなんだよなぁ…などと資料が床に積まれた光景を思い出しながら答える。
少なくとも俺の在学中にはやらかさないで頂きたい。
マッチェレル学園は王都の学術機関を集約していると言われており、敷地も広く建物も多いが庭も多い。
魔研から少し離れた、緑豊かな庭園。点在する東屋の一つをレニフェル様との会談に使用することにした。
何が(レニフェル様から)飛び出すかわからないので、なるべく一般学生と職員が通りがからない(と思われる)場所をキープする。
流石は王立。学内の清掃もこまめに行われており、多少人目を避ける場所であっても手抜きなく綺麗に整えられている。
「この辺りは園芸クラブが植物の手入れをしていますのよ」
レニフェル様が豆知識を披露してくれる。園芸クラブも複数あると聞いているので、その一つがこの辺りを縄張りにしているのだろう。
確かにここまで敷地が広いと管理も大変だ。クラブ活動の名目でやる気のある学生に任せるのは上手いやり方だ。
レニフェル様は「園芸クラブ」と一纏めにしたが、活動内容と方向性は多岐にわたる。花をメインに据えるとしても推しカラー別で活動している所もあるし、樹木にこだわりを持つ一派もいる。
薬学のラブレ教授も園芸関連のクラブを一つ担当してるとか言ってたな。まあ、ラブレ教授は自分の薬草園と薬の森が縄張りだから、ラブレ教授のクラブもそのエリアで活動しているはず。
この辺りを縄張りにしている園芸クラブは調和をテーマにしているのかもしれない(個人の感想です)
「緑にさりげなく花の色を溶け込ませるのも心地よいですね」
「ファルム様に褒めてもらえたことは、伝えておきますわ」
知り合いなのか。
レニフェル様は大胆な行動も多いが、普通の人が見落としがちなところも拾って話題に上げてくる。周囲をよく見ているのだろう。
見聞きしたことを自分の知識に落とし込めるのは素晴らしい努力と才能のマリアージュ。
そしてあっという間に相手の懐に詰め寄ってご自身の要望を叩きつけるパワーもある。
なので、レニフェル様の交友関係が半端なく広そうだと予測済な俺はこのレベルではもう驚かないぞ。
「能力が高い権力者って凄いですよね」
「ほ…褒めても何も出しませんわよ!」
褒めと嫌味を半々にして言葉に乗せたら、デレられてしまった。
それはそれでありということにしよう。
整えられているとはいえ、外は外。王女をそのまま座らせる訳にはいかない。
ハンカチを座面に置いて「おかけ下さい」とやったところ「ファルム様も紳士なのですね」と感心された。
俺の事何だと思ってるんですか?
そうこうしているうちに、東屋に頼んでいたティーワゴンが到着した。
これは学内の至る所で行われるお茶会に対応するために学食が提供しているデリバリーサービス(当然有料。その分魔道具で保温された質の高いものがくる)だ。
魔研を離れる前に依頼をしておいたものだ。場所を確定させる前でも頼めるのですごく便利。
ティーワゴンを受け取ったラッ君が慣れた手つきで紅茶を入れてくれる。え?近衛騎士ってそんなこともするの?
「………美味しい」
ハイスペック過ぎでは?とラッ君を見たら、嬉しそうにはにかんだ。可愛いも過ぎるのかよ!(相手は成人男性)
これは完全にモテる男のムーブ。俺も習得できるものはしておこう。
「色々ありましたが、何のお話でしたか?」
そういえばレニフェル様が待ち伏せした目的を聞いていない。
「あの子の事ですわ」
「……ああ」
バルロ君の事か。そういえば何やら吹き込まれたそうですね。
「いつお話されたのですか?」
「あの子が寮を出る時に捕まえましたのよ」
王女が早朝から出待ちしていた件。
思わずラッ君を見ると、そっと目を伏せられた。そうか。付き合わされたのか。可哀想に…
「一国の王女が学生を確保するのはおやめ下さい」
寮出たら王女いるとか、一般学生に迷惑ですからね?
「昨日は意識がない状態で解散でしたでしょう?落ち着いて話すなら朝しかありませんわ」
当然でしょ?みたいな顔するのやめて下さい。
「わたくしのおかげであの子が聖協会に朝イチで突撃するという無駄足を止められましたのよ」
「それはありがとうございます」
バルロ君…外でまでやらかそうとしてたのか。なんてやつだ。そのエネルギーは別の方向で活かしてもらいたい。
聖協会の平和を守ったレニフェル様には、俺の分のフィナンシェをお贈りさせていただきます。
せめて建物の中に入れてあげましょうよルキスラ教授…
王族の扱いに一言は後で言っておくとして、これ以上レニフェル様をここに留めるのは魔研のメンバーのメンタルに響くから移動しなくては。
レニフェル様が入口前に陣取る→メンバー(の心)に継続ダメージが入って研究の効率が落ちる(主に卒論にダメージ)→そのしわ寄せが俺に来そうな気がする。
あれでしょ?ちょっと居ない間に厚くなる「やって欲しいことリスト」が更に厚くなるやつでしょ?嫌だよめんどくさい。精査する側も大変なんだよ?
今日はもうレニフェル様とお茶して帰るよ。
レニフェル様は俺の移動の提案にごねるかと思ったが、あっさりついてきた。
「わたくしはファルム様に用があるのであって、研究員に囲まれに来たのではないんですのよ」
ド正論かまされてしまった。おっしゃる通りです。
「本で床が抜けたら見に来ますわ」
これは前科があると聞いた。イニフィリノリス王女が月単位で引きこもるレベルの資料庫な時点で「ですよね」ってなる。2階以上に書庫作ったら予算カットらしいですね(これも聞いた話)
床が抜けるほど積むのも迷惑ですが、石造りが基本の建物の床が抜けるとか下の層にいる人の命が危ないのでマジやめて欲しい。
本(紙や羊皮紙)は重いからまとめて降ってこられたら石造りじゃなくてもヤバい。
「そうならないようにして欲しいですね」
ルキスラ教授の部屋がリーチ…というか、見られたらアウトなんだよなぁ…などと資料が床に積まれた光景を思い出しながら答える。
少なくとも俺の在学中にはやらかさないで頂きたい。
マッチェレル学園は王都の学術機関を集約していると言われており、敷地も広く建物も多いが庭も多い。
魔研から少し離れた、緑豊かな庭園。点在する東屋の一つをレニフェル様との会談に使用することにした。
何が(レニフェル様から)飛び出すかわからないので、なるべく一般学生と職員が通りがからない(と思われる)場所をキープする。
流石は王立。学内の清掃もこまめに行われており、多少人目を避ける場所であっても手抜きなく綺麗に整えられている。
「この辺りは園芸クラブが植物の手入れをしていますのよ」
レニフェル様が豆知識を披露してくれる。園芸クラブも複数あると聞いているので、その一つがこの辺りを縄張りにしているのだろう。
確かにここまで敷地が広いと管理も大変だ。クラブ活動の名目でやる気のある学生に任せるのは上手いやり方だ。
レニフェル様は「園芸クラブ」と一纏めにしたが、活動内容と方向性は多岐にわたる。花をメインに据えるとしても推しカラー別で活動している所もあるし、樹木にこだわりを持つ一派もいる。
薬学のラブレ教授も園芸関連のクラブを一つ担当してるとか言ってたな。まあ、ラブレ教授は自分の薬草園と薬の森が縄張りだから、ラブレ教授のクラブもそのエリアで活動しているはず。
この辺りを縄張りにしている園芸クラブは調和をテーマにしているのかもしれない(個人の感想です)
「緑にさりげなく花の色を溶け込ませるのも心地よいですね」
「ファルム様に褒めてもらえたことは、伝えておきますわ」
知り合いなのか。
レニフェル様は大胆な行動も多いが、普通の人が見落としがちなところも拾って話題に上げてくる。周囲をよく見ているのだろう。
見聞きしたことを自分の知識に落とし込めるのは素晴らしい努力と才能のマリアージュ。
そしてあっという間に相手の懐に詰め寄ってご自身の要望を叩きつけるパワーもある。
なので、レニフェル様の交友関係が半端なく広そうだと予測済な俺はこのレベルではもう驚かないぞ。
「能力が高い権力者って凄いですよね」
「ほ…褒めても何も出しませんわよ!」
褒めと嫌味を半々にして言葉に乗せたら、デレられてしまった。
それはそれでありということにしよう。
整えられているとはいえ、外は外。王女をそのまま座らせる訳にはいかない。
ハンカチを座面に置いて「おかけ下さい」とやったところ「ファルム様も紳士なのですね」と感心された。
俺の事何だと思ってるんですか?
そうこうしているうちに、東屋に頼んでいたティーワゴンが到着した。
これは学内の至る所で行われるお茶会に対応するために学食が提供しているデリバリーサービス(当然有料。その分魔道具で保温された質の高いものがくる)だ。
魔研を離れる前に依頼をしておいたものだ。場所を確定させる前でも頼めるのですごく便利。
ティーワゴンを受け取ったラッ君が慣れた手つきで紅茶を入れてくれる。え?近衛騎士ってそんなこともするの?
「………美味しい」
ハイスペック過ぎでは?とラッ君を見たら、嬉しそうにはにかんだ。可愛いも過ぎるのかよ!(相手は成人男性)
これは完全にモテる男のムーブ。俺も習得できるものはしておこう。
「色々ありましたが、何のお話でしたか?」
そういえばレニフェル様が待ち伏せした目的を聞いていない。
「あの子の事ですわ」
「……ああ」
バルロ君の事か。そういえば何やら吹き込まれたそうですね。
「いつお話されたのですか?」
「あの子が寮を出る時に捕まえましたのよ」
王女が早朝から出待ちしていた件。
思わずラッ君を見ると、そっと目を伏せられた。そうか。付き合わされたのか。可哀想に…
「一国の王女が学生を確保するのはおやめ下さい」
寮出たら王女いるとか、一般学生に迷惑ですからね?
「昨日は意識がない状態で解散でしたでしょう?落ち着いて話すなら朝しかありませんわ」
当然でしょ?みたいな顔するのやめて下さい。
「わたくしのおかげであの子が聖協会に朝イチで突撃するという無駄足を止められましたのよ」
「それはありがとうございます」
バルロ君…外でまでやらかそうとしてたのか。なんてやつだ。そのエネルギーは別の方向で活かしてもらいたい。
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