この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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「なんで居ないの?」
 本日も穏やかに授業を…と思っていた朝。バルロ君が涙目で突撃してきた。
「……は?どういうこと?」
 俺はちゃんと家から通学してるが?
 それとバルロ君が涙目なのは何か関係があるの?
「僕が突き止めたアジトにいるべきだろ?」
「そこは合わせられない」
 バルロ君に見つかる時点でアジト失格なのだが、そもそも俺は隠れ住む様な拠点を持ってないし持つ気もない。
 堂々と我が家から通学している善良な俺に濡れ衣を着せようとするのはやめたまえ。
 どこを俺のアジトに決め打ちしたかは、今は聞かないし聞く気もない。大体予想できるからね。

「あっ、バルロ君だ!」
「おはようバルロ君」
「今日早くない?」
「どんな夢見た?」
「王族コラム読んだ?王太子殿下の聖獣様可愛いよね」
 バルロ君が俺に対して「黒ずくめ」だの「秘密結社」だの喚いてると、またクラスメイト達が集まってきた。
 俺?勿論蚊帳の外に躍り出たよ?付き合う理由もないし。
 普段渦中に引きずり込まれてるんだから、こんな時くらい傍観側に回るのもいいでしょ?
 でもまぁ、どんな話してるか位は近いから嫌でも聞こえてくる。耳に入っちゃうのは仕方がないよね。

「なになに?なんの話?」
「面白いことならオンステで聞くよー」
「黒ずくめのアジトがいくつもあるんだ」
「どことどことどこ?」
「………は?」
 あ、フリーズした。どのワードで止まった?
「冒険者ギルドの掲示板に合言葉を貼ると凄腕のハンターに会えるらしいよ?バルロ君知ってる?」
「修行に出されてた富豪の私生児が帰ってくるらしいよー」
「僕は黒ずくめが情報を集めているアジトに潜入しなければならないんだ!」
「どことどことどこの?」
「……えっ…と…」
 アジトの場所聞いた時フリーズした?まさか知らない?それとも組織の拠点が一箇所だと思っていたのか?
 コナードでも「ここが拠点の一つ…」ってシーンあったでしょ?
 しかも、アジトが複数だと脳が処理落ちする?バルロ君のCPU軽すぎでは?もっとメモリ積まなきゃダメでしょ?

「学園と聖協会とメロディアス侯爵家?」
「………それだ!」
 それだ!じゃないが?
「超解釈してない?」
 思わず参戦してしまった。
「いや、バルロ君にとってはこれが最適解だろ?」
「そうだ!」
 嘘では?
「「今気づいた」って顔してたよね?」
 最適解って言われてる時点で駄目でしょ?
「組織の幹部は心も読むのか…」
「「この程度は予測の範囲内だろ?」」
 複数のクラスメイトにハモられてはさすがのバルロ君もぐうの音も出せない。まあ、「ぐぅ…」という呻きは出たのだが。そのうち「ぎゃふん」も自ら言いそうだ。
 転校してそこまで経ってないはずなのに、思考が予測できるレベルまで攻略されたと…これがマインスイーパ爆弾探しゲームの成果!クラスメイトが優秀で俺は嬉しい。

「僕は繊細かつ複雑な思考を持っているんだぞ?」
 自分で言うのか…
「バルロ君はわかりやすいから、誘導もしやすいもんな」
「そうそう。コナード読んでたら大体わかる」
「「それなー」」
「素直なのはいい事だけど、騙されやすいって事でもあるから気をつけなきゃダメだよ?」
 言われたい放題である。
「楽しいおしゃべりはその位にして、授業始めるぞー。バルロ君は廊下で待ち人(本日の補講担当)の指示に従うように」
「なっ…!またか!なんという卑劣な犯行!」
「教員の負担を増やしている君には言われたくないなぁー。さ、出なさい」
 こうして本日も先生のおかげで平穏な時間を過ごす事ができた。ありがとうございます。
 ところでいつその流れる様なバトンタッチのやり方を教えて貰えるんですか?
 職員になったら?今すぐ知りたいんですけど?

「ファルム君はどこかで誰かに恨まれる事やったのかい?」
 本日の魔研ランチにはアスベル君も急遽参戦。ルキスラ教授も我が家の味に魅了されたのか、研究を止めて輪に加わっている。
 魔研メンバーに限った話ではなく、研究者は自分の寝食を忘れて没頭する傾向が強いから昼だけでも食べる様になったルキスラ教授はまだマシな方だろう。
 お弁当、昨日より多めに頼んでてよかった。
「兄上の俺コレクションをいくつか破棄したので、戻ってきた兄上には恨まれるかもしれない」
 何故俺が捨てたはずの服が額装されて飾られていたのか…しかも俺と兄上の部屋の前の廊下に並べて設置とか…一つじゃないのがなんとも言えない恐ろしさを感じたので、全部回収&廃棄。前帰った時はなかったよね?
 あと、兄上の部屋の扉に御子の姿絵が飾ってあったのも即廃棄。
 お願いだから怖いことをしないで欲しい。
「その感覚はよくわからないな」
 俺も。理解しなくていい世界ってあるよね。
「世には人が踏み込んではならない領域というものが幾つも存在している。我が魔研は魔法の領域の禁忌に触れたいと願う者が道を拓く場所でもある…」
 ローストビーフサンドをもぐもぐしながら、ルキスラ教授が呟く。どうやら「他者が理解できない感覚性癖」の部分に思う所があったようだ。なくてもいいんですよ?

「…ファルム様がどなたかに恨まれることなどあるのでしょうか?」
 イニフィリノリス王女がだし巻き風玉子(出汁はまだ未入手なのでコンソメで代用した。細切りの鶏肉を芯にして巻いている)を飲み込んでから聞いてくる。この上品さは流石上流階級。
「……(かっわ!)…っ……(コテンって顔を傾けるの最高!!)……」
 アスベル君がイニフィリノリス王女の可愛らしさに悶えている。副音声は想像だが、多分間違ってない。
 落ち着け。そして俺の足を蹴るのを止めろ。本人にぶつけられない感情のやり場を俺に向ける(しかも物理)のはやめるんだ。せめて見えるところでやってくれ。

「………(コホン)。暫く前から初等部で私物の紛失が続きまして」
 落ち着いたアスベル君が話し始める。
 その話は聞いた気がする。学園側が調査に入ったとか。
「一部の学生の間で、ファルム君が犯人だという噂が流れているんですよ」
 は?
「まあ!」
「ファルム君は魔研うちにいるのだから完全無罪」
 そうですね。俺はやってません。
「そもそもファルム君が学園を離れていた時も起こっていたので、グループの犯行であったとしてもファルム君の関与が無いことは明白なのです」
 アスベル君の話は眼鏡をクイッと上げながら続く。
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