墜ちた英雄が隠居したが...

キリ

文字の大きさ
19 / 46

報告と昇格

しおりを挟む
 すべてが終わって頭が冷えてくると、俺の目の前には、スノウが瀕死の重症で横たわっていた。
 俺は今までの経験から理解できた、これは数十分以内に治療しないと助からないということを。

「楽しかったか?」

 俺は返答は期待していなかったが、そう問いかける。意外にも、返事が返ってきた。

「…楽しかった…ですよ…」
「驚いたな、その傷でま喋れるのか」
「とてもそのような顔には見えませんね…」

 スノウは息絶え絶えで、今にも死にそうな重症なのに優しく微笑んだ。

「生きたくないのか?」
「死にたいわけでは…ありません。ただ、満足して…いる…だけです」

 スノウは、息を整えてから、最後の力を振り絞るように、語りだした。

「私は昔から今のような状態になっていました。何かを切りたくて切りたくて仕方がない、でも、いくら切っても満たされない、私の欲求はどんどん溜まっていきました」

 そして、俺の方を見ると。

「でも、あなたのおかげでスッキリしました。あなたと剣を交えている時は欲求なんて消えていって、ただ純粋にあなたに勝ちたいという感情で心が一杯になることができました」

 俺は何も言うことができなかった。ただ目の前でもうすぐ死ぬであろう悲劇の少女の言葉に耳を傾けることしかできなかったのだ。

「私は最期にお礼を言いたい、あなたは私の空っぽを埋めてくれました。
 感謝しています。ごほっ、ごほっ……もうお別れのようですね」
「ああ、そのよ…」

 俺が、そのようだな、と言う終わる前にスノウの体がどこからか出現した黒い球体に包まれた。

「ゴスペル……」

 スノウはそう言うと、黒い球と共に消えていった。

「空間転移か…」

 どうやら俺と同じ空間属性の人間がスノウをどこかに連れ去ってしまったようだ。
 行き先は十中八九、王都にある死の団の本部だろうが。

「ああ、疲れた…」

 みすみす逃したのはアレだが、後ろから迫ってくる奴らに俺がスノウを倒したところを見られるのは面倒だから、良かったのかもしれないな。

「フォルン、無事か!」

 ほら、来た。

「ああ、問題ない。見ての通り手酷くやられたがな」
「こりゃひどい、急いで治療しねえと!」
「そうしましょう」

 アレクとカゲミヤが皆に提案し、俺たちは任務をここまでにして、学園に帰ることにした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 理事長室で俺たちは今回のことを余すことなく報告した。魔獣が町に向かおうとしたため撃退したこと、森の中に謎の少女がいたことも全てだ。

「そう、大変だったのね…」

 それらを聞いたマーリンズは、そうこぼした。

「まずは感謝するわ、この街を救ってくれて」
「当然のことをしたまでです」

 ヴィランズがそう答えると、マーリンが話を続ける。

「あなたたちのことを上に伝えて、昇格に対する審議をしておくわね」

 その言葉を聞いて、ヴィランズたちがとても喜んでいる。
 実を言うと、Aクラスよりも上のSクラスというものがあり、そのクラスに入り、かつ卒業まで持ち込めた場合、王国騎士団に推薦で入ることができるのだ、ヴィランズたちは、それを狙っているのだろう。
 俺たちは一番下のクラスなので、上がったとしても、DかCだろうが、それでもEクラスよりはマシだろう。

「どうした?浮かない顔して」

 俺はさっきからずっと黙っているアレクたちに問いかける。

「いや、俺たちが上がれるのか不安でな…」
「私も同じです…」

 なるほど、そういうことか。

「大丈夫だ。今回、危険度Dの魔獣を何体も倒して、おまけに証人もいる、お前らが昇格しない訳はないさ」
「そ、そうだよな、考えすぎだった」
「心配しすぎでした」

 俺たちが問題を笑い飛ばしていると、マーリンが昇格の有無は、後日連絡するとして、俺たちは解散になった。

「ああ、グレイスくん、君だけ残って」

 その言葉を聞いて、俺に対してヴィランズは睨んできて、レイは訝しげな視線を、フラムは訳がわからないといったふうの顔をしている。(アレクたちは、いつものこと、という顔をしていた。)
 俺はそれらに、気にせず行け、と言ってその場を治め、
 俺は一人、理事長室に残った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...