墜ちた英雄が隠居したが...

キリ

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王城より

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 ウラジミール王国、人族が誇る最大の国である。
 そこで王都と呼ばれる場所に、立派な王城が建てられていた。
 そこの持ち主であり、その王国を統べるものは、カレン・フォード・ウラジーミルという女性であった。
 彼女は女神の生き写しと言われるほどの美貌と、2年前の最恐大戦より王位を継承されてから、その類稀なるカリスマ性と知力から、終戦後間も無くして国を再建、および統治を行い、民からも官僚からも信頼される賢王と称されていた。

 だが、彼女にも一つだけ、不満に思われていることがあった。
 それは、世継ぎの問題である。通常この国では14歳で婚約者を決め、16歳で婚姻を行い、世継ぎを作らなければならない。
 だが、カレンはすべての見合い話を蹴り、断固として夫を娶る意思がないのだ。
 たったそれだけの事と思うかもしれない、確かに彼女の時代でならば、特に気にすることもないだろう。だが、彼女が突然死んだりしてはどうだろう、そうでなくても、人には寿命がある。
 彼女がいなくてはこの国は成り立たない、この平和な国の次の世代、また次の世代と続かせるためには、どうしても世継ぎが必要なのである。

 そして、今もこの女王との交渉が行われている。

「女王様、またお見合い話を蹴ったそうですね!」

「ええ、そうです」

「前からも進言しているはずです、あなたが世継ぎを残さなければ、この国は本当に終わってしまいます!」

「それなら、養子を取ればいいでしょう」

「下手に養子を取るよりも、あなた様の優秀な血を引いた子の方が、この国のためになるのです!」

「私の意思は無視ですか?」

「国を統べる者の立場になった以上、こういった事は仕方がない事なのです。
 あなた様が王位の継承を望まれた時、それを承知で受けたはずです!」

「・・・・・・」

「黙っても無駄です。女王様!」

「・・・・・・」

「女王様!…………はぁ、わかりました。無理強いは、今は!しません。そのうち否が応でもご自分の立場がお分かりになるはずですので。
 では、これで失礼します」

 そう言って、部屋の外に出て行った臣下を見て、カレンはため息をついた。

「わかっているのです。私だってわかっているのです。でも、どうしても、それだけはダメなのです」

 彼女には愛する人がいる。
その人は2年前の大戦で、弱り切っていた騎士団の代わりに、私に黙ってたった1人で戦場に赴いた。
 表向きは、大戦で勝利したのは騎士団全員が奮戦した結果と記されているが、実際は違う。
 その人が、たった1人で戦った結果終戦することができたのである。
 2000のそれも魔族相手にたった1人で挑んでいった彼ような人のことを一般的には無謀というのだろう。だが、結果はどうだろう、2000の敵をボロボロになりながら倒し、敵の将を足止めしていたから、我が国は今でも存続していられる。彼がいなければこの国は2年前に滅んでいたはずだ。
 だが、私がいけなかった。当時、私と彼は仲が悪かったわけではなかったが、それでも当時の王女という立場から、どうしても彼との間に壁があった。
 そして、終戦の前夜、食事の時、私は彼と言い争いをして不仲になってしまった。その時の私はひどい奴だったと思う、特に非もないその人に罵詈雑言を浴びせ、挙げ句の果てには持っていた飲み物が入ったグラスを投げつけ、出ていけと言ってしまった。
 
 そして、次の日、朝早く誰も使用人すらも起きていない時間帯で部屋にノックをすることが響いた。
 ノックををしたのはその人で、彼は私に、昨日はすまなかった、と言ってきた。私は素直に許してもいいと思ったが、寝ぼけていたこともあり、

 許さない、絶対に

と言ってしまった。すると、彼は、わかった、というと廊下を歩く音が響いていった。
 私は少し怪訝に思い、扉を開け、外を覗くとそこには誰もいなかった。私は特に考えもせず、扉を閉じ眠りについた。
 その時、私は誰これ構わず叩き起こしてでも、彼を探すべきだった。そうすれば、彼を永遠に失うことなど、あり得なかった。

 そして起床時間の少し前、荒々しくドアを叩く音が聞こえ、目を覚ました。
 扉を開けると、血相を変えた騎士団員の1人が、私に報告してきた。
 なんでも、団長の装備が軒並み無くなっており、寝室には誰もいなく、しかも、王都から1キロほど離れた場所で激しい戦闘が行われているとか。
 その報告を聞き、私も血相を変え急いで着替え、制止すらも振り切り、見張り台に登って、彼を探した。
 私の莫大な魔力があれば、彼を魔術を使って彼を探すことも可能だ。そして、見つけた、血だらけになりながら襲い来る敵を切り倒し、魔銃で撃ち抜く彼の姿を。
 私は居ても立っても居られなくなり、彼と同じく幼少期から馴染みのある実力者を引き連れ、彼の元に向かった。
 だが、それがいけなかった。私が行った結果、戦局が傾いたのだ。彼は結局、敵を退けたのだが、私は敵に呪いをかけられ瀕死の重傷を負い、彼に伝えることを伝え、目を閉じた。

 目を覚ますと、そこはいつも通りの寝室の天井だった。私は自分が生きていたことに驚き、扉から出ると、たまたまきていた使用人に驚かれ、みんなを読んで来る、と言って去って行った。
 しばらくすると、戦場に一緒に行ってくれた幼少期からの友人が来た。だが、その中に彼の姿はなかった。
 私は、彼はどこにいるのか、と聞いたが、全員俯いて答えてくれない。
 ようやく口を開いた友人は、ついて来てくれ、と言うので私はついていくことにした。ついていった先には大きな棺が置いてあった。友人はそれを指し示すと、彼に挨拶してこい、と言った。
 私はしばらくその意味が理解できなかった。そして、理解した時にはすでに棺の前に立っていた。
 その中には目を閉じて、まるで眠ったように横たわる彼の姿があった。
 私はしばし呆然としたが、現実を理解し途端、大粒の涙が溢れて来た。情けなく、泣き叫び、棺にしがみつく、こんなに悲しんでも、彼は一切反応してくれはしない、なぜなら彼の魂はもうここにはないのだから。

 その日から、私は部屋に閉じこもり、ご飯もろくに取らず、ただ呆然と目の前の空間を見続けていた。
 すると、ある日私の部屋に友人が、これを読め、と言ってドアの隙間から手紙らしき物を入れてきた。
 私は無気力にそれを手に取り、宛名を見ると、私は今までの無気力が嘘のようにすごい速さで手紙を開いた。宛名に彼の名前が書いてあったのだ。
 読むと、確かにこれは彼の字だった。

"これを読んでいると言うことは、俺はもう死んでいるということだろう。
それに対して間接的にでも、お前が関わっているのだとしたら、何も負い目に感じることはない、お前に罪はない。むしろ、俺が弱かったのが原因だ。
 もしこれを読んでいる時に、ショックでふさぎ込んでいるようなら、今すぐ部屋を出て国の再建にできることをしろ、それだけが、俺の願いだ。 "

 私はその手紙を読んで、すぐさま行動に移した。単純な女だと笑われてもいい、でも私にとってはその手紙の内容は何よりも尊い物だったのだ。
 できることはなんでもした、そして王位を継承した後も、他国と同盟関係を取り付け、国も豊かにした。
 2年間、それを続けて行なっていき、遂に国を本当の意味で再現することに成功した。
 だが、それだけのことを成し遂げ、民からも官僚からも賢王と讃えられても、私には虚しさしかなかった。原因はわかっている、私が真に褒めて欲しいのは彼だけなのだ、あの無愛想だけど、どこか暖かい言葉で私をねぎらって欲しかった。
 
 その思いは16歳になった今でも、心に募っている。

「あなたは最強なんでしょう、なんで死んだのよ……」

 私は夜の寝室で1人でお酒を飲んでいた。もう、3本も開けてしまったからか、酔いが回っていて、本音を話してしまう。

「ジンから聞いたわよ、あなたは私を生き返らせる時に、私はこの国に必要だと、言ったそうじゃない。
 私の気持ちも考えてよ、バカ!」

 そう言って、私は壁にお酒の入ったグラスを壁に投げつけた。
 壁がまるで血のように赤く染まる。

「お願いだから戻ってきてよぉ、グレイがいなきゃ頑張った甲斐がないじゃない……」

 いつもでは考えられないほどの弱々しい声でそう呟き、私はひっそりと涙を流した。
 

     



 
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