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遂に到着
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あれから俺も眠ってしまったようだ、うっすらと目を開け、隣で静かな寝息を立てているレイを起こさないように、その場で伸びをする。洞窟の中のなので時間はわからないが、おそらく3時間くらいは立っているだろう。
そろそろ、王都まで行かなければならないので、レイを起こすことにする。
「おい、起きろ、出発だ」
彼女の頭をポンポン叩いて、起こしにかかる。
「………う……ん、もう少し……」
そう言って、また夢の世界に入ろうとする彼女にデコピンをかます。
「イタッ!、何するの!?」
「起きたな、王都へ行くぞ」
「いきなりね……、どうやって行くの?」
「これを使う」
俺はポーチの中から、無色透明の石を取り出し、彼女の前に差し出す。
「これって、転移結晶よね、どこでこれを?」
「俺は空間属性持ちだ。時間さえかければ作れないものじゃない」
俺は通信石で、アレクたちに連絡を取る、意外にも返事は早くきた。
"俺だ。無事だったか、今どこにいる"
「今は森の中の洞窟に隠れている、お前らはどうだ」
"今は王国騎士団に救出されて、後数分で王都に着くところだ"
王国騎士団という言葉に少し表情が暗くなり、レイが安否を確認してくるが、大丈夫だと、言い、通信を続ける。
「そうか、こっちは転移結晶を使って、そっちに行く、その通信石を今から離すなよ、それを頼りに飛ぶから」
"分かった、今ちょうど検問の列で引っかかっているところだ。待ってるぜ"
俺は通信を終了し、例の方に向き直る。
「さて、俺の手をつかめ」
「分かったわ」
彼女は俺の横に立つと、俺の手を握った。
それを確認すると、結晶に魔力を込め、アレクが持っている通信石の魔力をたどり、そこに飛ぶ。
一瞬で、薄暗い洞窟から、明るい日に光が当たる、王都の凱旋門の前に立っていた。そして、目の前にはカゲミヤがいた。
「よお、戻ったぞ」
俺はいきなり目の前にカゲミヤがいたことに驚いたが、一応挨拶だけはしておく。
すると彼女は驚いたような顔が、プルプルと震えて、その鮮やかな紫色の目にジワリと涙が溜まっていき、
「フォリゅンざぁーーん!」
とんでもなく溜まっていた涙の塊が遂に決壊し、それと同時に俺に向かってカゲミヤが飛びついて、急には反応できなかったため、そのまま後ろに倒されてしまう。
彼女はそのまま俺の胸板に顔を擦り付け、泣き続けた。
「馬鹿野郎!、俺たちがどんだけ心配したと思ってんだ」
アレクが物凄い形相で、押し倒されている俺の肩を蹴ってくる。やめろ、マジで痛いから。
「レイ!、ほんどに心配したんだよ!」
フラムも涙声になりながら、レイに泣きつき、ポカポカと殴っている。
俺はまだぐずっているカゲミヤを起き上がらせると、頭を撫でながらあやす。すると、すらりとした長身の男が近付いてきた。
「騎士団長のジンクス・フリードマンだ。君達が、グールを足止めしていたおかげで生徒たちは助かった。誇っていい、よく頑張った」
その男はかつての俺の親友であった。どうやら俺の後を継いで、立派に団長をやっているらしい。昔よりも身長が伸び、見た目ではあまりわからないが、がっしりとした体格になっている。
彼は俺とレイの肩に手を置くと、そう言い放った。
「お褒めの言葉、感謝します」
「恐縮です」
すると、俺が言葉を放ったと同時に彼は一瞬驚いたような顔をした。やばいばれたか。
「君、どこかで……いや、すまない。知人によく似ていたものだから」
「そうなんですか、別に構いませんよ」
「そう言ってくれると、助かる」
それっきり俺とジンの会話はなくなり、俺たちは生き残った生徒ともに王都の検問を通過し、中に入った。生徒が数人死んだにもかかわらず、研修を中止しないあたり、相変わらずマーリンはスパルタのようだ。
それでもマーリンも鬼ではないらしく、女王に掛け合って、研修日程を1日延ばしてもらったらしい。よって見学は明日の午前7時ということになった。俺たちは、とりあえず今日は王都一の大きさを誇る『神鳥の落し物亭』という宿に泊まることになった。
俺たちは騎士団の面々と別れ、地図を頼りに宿に向かった。正直に言うと、俺はここに8年住んでいたので、場所は知っている。
宿に着くと、俺たちは中に入った。
「ようこそ、神鳥の落し物亭へ!」
齢14歳ほどの少女が俺たちを出迎える。彼女の名前はルナ・フェニックス、この宿の看板娘だ。なぜ、この子のことを知っているかというと、ここがある意味で一番馴染みのある宿だからだ。この宿は普通の宿にしてはとんでもない広さで、一階に100人ほど入る酒場と、二、三、四階に合計で70部屋ある。
「とりあえず22人、1人一部屋で頼む」
「はい、ちょうど空いていますよ。今鍵を渡すので待っていてください」
彼女はトテトテと可愛らしい音を出してカウンターの裏に走っていった。彼女の姿に大抵の男子生徒が見惚れてしまっている。無理もないだろう、彼女は昔よりは成長したとはいえ、とても小柄で、かつ、後ろでポニーテールにした赤毛の髪が愛らしい、小動物のような子なのだ。あの姿に保護欲が掻き立てられない男はいないだろう。
「お待たせしました、これが鍵です。シャワーや食事は料金に混みですので、自由に使ってください。全部込みで、金貨11枚です」
「これを」
先頭に立っていたヴィランズが、経費として貰っていた麻袋の中から金貨を取り出し、ルナに支払う。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言うと彼女は、カウンターの裏に走っていった。
「1人1つずつ取っていくんだ、各自食事とシャワーは適切な時間にしておいてくれ、再集合は朝の6時40分にここに。各自解散、部屋に行ってくれ」
俺たちはそれぞれが貰った鍵に書いてある番号の階に向かって行った。俺の階は二階、アレクたちは四階だった。もうここまでくると、悪意を感じる。ちなみにレイとフラムは三階だ。
俺は二階に上がり、部屋に入ると、早速ベッドにダイブした。
「ああー、疲れたー」
腰につけているポーチを外し、机に投げ捨て、ブレザーを脱いでワイシャツになり、ネクタイを外す。大きく息を吐くと、開放感を噛みしめる。
「今日は散々だったな………まったく、つかれる1日だ」
俺はそのまま瞼を閉じると、眠りについた。
目が覚めると、もう夜の1時になっていた。起きたら飯を食べようと思っていたが、この時間帯になれば誰も起きていないだろう。だが、カウンターに置いてある酒を飲むのは自由なので(あまり飲みすぎると、料金が発生する)飲みにいくとしよう。
あまり周りの人を起こさないように廊下を歩き、階段を降りていくと、一階に着く。あかりはもう所々にあるランプの明かりだけでかなり薄暗い。俺の場合はこれが心地いい。
「確か、この欄に……あった、これこれ」
カウンターの内側にはキープしてある酒が置かれている、その数は無数にあるが、俺が2年前に置いていった酒がちゃんと保管してあったようだ。今がちょうど飲み頃だろう。
カウンターの下に置いてあるグラスを取り、座って、グラスに酒を注ぐ。綺麗な琥珀色の液体が、ランプの光にさらされて目の保養にもなる。一口酒をあおると、体の芯からあったまっていく感覚に襲われる。
「…うまい。なんか、ツマミでもあればな」
発想が完全におっさんだが、現役時代のストレス発散はこれしかなかったのだ、仕方がない。
1人でチビチビと酒を飲んでいると、不意に隣から皿が差し出される。その上には、スモークチーズとカリカリに焼かれたベーコンが乗っている、どちらもおれがよくツマミとして食べていたものだ。
「俺の好物じゃないか、覚えててくれたのか、女将さん」
「やっぱりあんただったんだね、まさか生きてるとは驚きだよ」
「俺がそう簡単にくたばるわけないだろう」
「それもそうだ。あはははっ!」
彼女は豪快に笑うと、俺の横に座り、グラスを差し出してくる。
「客に注がせるのか?」
「あんたと私の仲だろ、黙って注ぎなよ。飲むために、ツマミも作ってきたんだから」
彼女はそう言うと、スモークチーズを口に運ぶ。
「お前が食うのかよ、相変わらずだな」
相変わらずの女将のグラスに酒を注ぐ、彼女はそれを一気に飲み干した。その空のグラスにまた、酒を注いでおく。
「ルナ、あんたもこっちに来な!」
「え、お母さん………そ、その………」
彼女は可愛らしい犬耳が折りたたまれ、尻尾は落ち着かないと言うふうに、小さく揺れている。女将さんにも、犬耳と尻尾が生えている。
この表現でも分かるように、この親子は犬の獣人、この国が同盟を結んでいる数少ない魔族の1つだ。普段は無駄な注目を避けるために、魔法で隠しているが、知っている俺の前では隠さないでいるわけだ。
「さっさと来な、グレイに酒でもついでやるんだよ」
「うぅーー、もう分かったよ」
彼女は少しばかり抵抗していたが、すぐに折れて、右隣に座った。そして、酒瓶を持って、グラスに注いでくれる。
「ありがとな、ルナ」
「え、えっと、そ、その、どういたしまして」
彼女は顔を赤くして、尻尾を千切れんばかりに振っている。
「そういえば、なんで俺だと分かったんだ?、見かけをだいぶ誤魔化してるはずだったんだが」
「えっとそれは、グレイさんの匂いがしたので……」
「ああ、獣人って鼻がいいからか」
「グレイぃー、この子はね、あんたが死んだって聞いて、床に染み込むくらい泣きまくったんだよ、ギャハハっ!」
いつの間にか酒瓶を5本も開けていて、とんでもなく酔っ払っている。
「お母さん!そのことは誰にも言わないって約束でしょ!」
「ごめんごめん、つい可笑しくなっちゃてさ」
「別にいいじゃないか、そんだけ心配してくれたんだろう?」
「え、そ、それは、グレイさんが、恩人だから………その、ごめなさあぁぁい!」
彼女は恥ずかしくなったのか、そのまま駆け出し、自分の部屋に閉じこもってしまった。
「あはははっ!すまないね、うちの子はシャイで。ところであんた、姿を消してから何をしてたんだい」
「田舎の教会で神父をやりながら、孤児の面倒をみてたよ」
「あんたが神父かい、似合わないもんだねぇ、神に祈るタイプでもないだろう」
「それもそうだが、俺が世話になった所なんでな、仕方ない」
ふと時間を確認すると、時計の針が3時を指していたので、ここで切り上げておく。
「ツマミ美味しかったよ、じゃあ俺は部屋に戻る。後、俺が生きてることは内緒にしといてくれよ。さっきの話の後じゃ、信用はできなさそうだがな」
「安心しな、あたしは本気で漏らして欲しくない情報はけっして漏らさないよ。さっきみたいにバラしても問題がない奴は軽々しく話すけどね」
「なら問題ないな、お休み」
「お休み、いい夢見な」
俺は部屋に戻ると、シャワーを忘れていたことに気づき、シャワールームに行ってシャワーを浴びると、もう集合時間まで2時間しかなかった。幸い睡眠はさっき取っておいたので、あまり眠くはなかったが、念のため仮眠はとっておこうと、椅子に座り目を閉じた。
おれは仮眠を取るときは、大抵座る。
そろそろ、王都まで行かなければならないので、レイを起こすことにする。
「おい、起きろ、出発だ」
彼女の頭をポンポン叩いて、起こしにかかる。
「………う……ん、もう少し……」
そう言って、また夢の世界に入ろうとする彼女にデコピンをかます。
「イタッ!、何するの!?」
「起きたな、王都へ行くぞ」
「いきなりね……、どうやって行くの?」
「これを使う」
俺はポーチの中から、無色透明の石を取り出し、彼女の前に差し出す。
「これって、転移結晶よね、どこでこれを?」
「俺は空間属性持ちだ。時間さえかければ作れないものじゃない」
俺は通信石で、アレクたちに連絡を取る、意外にも返事は早くきた。
"俺だ。無事だったか、今どこにいる"
「今は森の中の洞窟に隠れている、お前らはどうだ」
"今は王国騎士団に救出されて、後数分で王都に着くところだ"
王国騎士団という言葉に少し表情が暗くなり、レイが安否を確認してくるが、大丈夫だと、言い、通信を続ける。
「そうか、こっちは転移結晶を使って、そっちに行く、その通信石を今から離すなよ、それを頼りに飛ぶから」
"分かった、今ちょうど検問の列で引っかかっているところだ。待ってるぜ"
俺は通信を終了し、例の方に向き直る。
「さて、俺の手をつかめ」
「分かったわ」
彼女は俺の横に立つと、俺の手を握った。
それを確認すると、結晶に魔力を込め、アレクが持っている通信石の魔力をたどり、そこに飛ぶ。
一瞬で、薄暗い洞窟から、明るい日に光が当たる、王都の凱旋門の前に立っていた。そして、目の前にはカゲミヤがいた。
「よお、戻ったぞ」
俺はいきなり目の前にカゲミヤがいたことに驚いたが、一応挨拶だけはしておく。
すると彼女は驚いたような顔が、プルプルと震えて、その鮮やかな紫色の目にジワリと涙が溜まっていき、
「フォリゅンざぁーーん!」
とんでもなく溜まっていた涙の塊が遂に決壊し、それと同時に俺に向かってカゲミヤが飛びついて、急には反応できなかったため、そのまま後ろに倒されてしまう。
彼女はそのまま俺の胸板に顔を擦り付け、泣き続けた。
「馬鹿野郎!、俺たちがどんだけ心配したと思ってんだ」
アレクが物凄い形相で、押し倒されている俺の肩を蹴ってくる。やめろ、マジで痛いから。
「レイ!、ほんどに心配したんだよ!」
フラムも涙声になりながら、レイに泣きつき、ポカポカと殴っている。
俺はまだぐずっているカゲミヤを起き上がらせると、頭を撫でながらあやす。すると、すらりとした長身の男が近付いてきた。
「騎士団長のジンクス・フリードマンだ。君達が、グールを足止めしていたおかげで生徒たちは助かった。誇っていい、よく頑張った」
その男はかつての俺の親友であった。どうやら俺の後を継いで、立派に団長をやっているらしい。昔よりも身長が伸び、見た目ではあまりわからないが、がっしりとした体格になっている。
彼は俺とレイの肩に手を置くと、そう言い放った。
「お褒めの言葉、感謝します」
「恐縮です」
すると、俺が言葉を放ったと同時に彼は一瞬驚いたような顔をした。やばいばれたか。
「君、どこかで……いや、すまない。知人によく似ていたものだから」
「そうなんですか、別に構いませんよ」
「そう言ってくれると、助かる」
それっきり俺とジンの会話はなくなり、俺たちは生き残った生徒ともに王都の検問を通過し、中に入った。生徒が数人死んだにもかかわらず、研修を中止しないあたり、相変わらずマーリンはスパルタのようだ。
それでもマーリンも鬼ではないらしく、女王に掛け合って、研修日程を1日延ばしてもらったらしい。よって見学は明日の午前7時ということになった。俺たちは、とりあえず今日は王都一の大きさを誇る『神鳥の落し物亭』という宿に泊まることになった。
俺たちは騎士団の面々と別れ、地図を頼りに宿に向かった。正直に言うと、俺はここに8年住んでいたので、場所は知っている。
宿に着くと、俺たちは中に入った。
「ようこそ、神鳥の落し物亭へ!」
齢14歳ほどの少女が俺たちを出迎える。彼女の名前はルナ・フェニックス、この宿の看板娘だ。なぜ、この子のことを知っているかというと、ここがある意味で一番馴染みのある宿だからだ。この宿は普通の宿にしてはとんでもない広さで、一階に100人ほど入る酒場と、二、三、四階に合計で70部屋ある。
「とりあえず22人、1人一部屋で頼む」
「はい、ちょうど空いていますよ。今鍵を渡すので待っていてください」
彼女はトテトテと可愛らしい音を出してカウンターの裏に走っていった。彼女の姿に大抵の男子生徒が見惚れてしまっている。無理もないだろう、彼女は昔よりは成長したとはいえ、とても小柄で、かつ、後ろでポニーテールにした赤毛の髪が愛らしい、小動物のような子なのだ。あの姿に保護欲が掻き立てられない男はいないだろう。
「お待たせしました、これが鍵です。シャワーや食事は料金に混みですので、自由に使ってください。全部込みで、金貨11枚です」
「これを」
先頭に立っていたヴィランズが、経費として貰っていた麻袋の中から金貨を取り出し、ルナに支払う。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言うと彼女は、カウンターの裏に走っていった。
「1人1つずつ取っていくんだ、各自食事とシャワーは適切な時間にしておいてくれ、再集合は朝の6時40分にここに。各自解散、部屋に行ってくれ」
俺たちはそれぞれが貰った鍵に書いてある番号の階に向かって行った。俺の階は二階、アレクたちは四階だった。もうここまでくると、悪意を感じる。ちなみにレイとフラムは三階だ。
俺は二階に上がり、部屋に入ると、早速ベッドにダイブした。
「ああー、疲れたー」
腰につけているポーチを外し、机に投げ捨て、ブレザーを脱いでワイシャツになり、ネクタイを外す。大きく息を吐くと、開放感を噛みしめる。
「今日は散々だったな………まったく、つかれる1日だ」
俺はそのまま瞼を閉じると、眠りについた。
目が覚めると、もう夜の1時になっていた。起きたら飯を食べようと思っていたが、この時間帯になれば誰も起きていないだろう。だが、カウンターに置いてある酒を飲むのは自由なので(あまり飲みすぎると、料金が発生する)飲みにいくとしよう。
あまり周りの人を起こさないように廊下を歩き、階段を降りていくと、一階に着く。あかりはもう所々にあるランプの明かりだけでかなり薄暗い。俺の場合はこれが心地いい。
「確か、この欄に……あった、これこれ」
カウンターの内側にはキープしてある酒が置かれている、その数は無数にあるが、俺が2年前に置いていった酒がちゃんと保管してあったようだ。今がちょうど飲み頃だろう。
カウンターの下に置いてあるグラスを取り、座って、グラスに酒を注ぐ。綺麗な琥珀色の液体が、ランプの光にさらされて目の保養にもなる。一口酒をあおると、体の芯からあったまっていく感覚に襲われる。
「…うまい。なんか、ツマミでもあればな」
発想が完全におっさんだが、現役時代のストレス発散はこれしかなかったのだ、仕方がない。
1人でチビチビと酒を飲んでいると、不意に隣から皿が差し出される。その上には、スモークチーズとカリカリに焼かれたベーコンが乗っている、どちらもおれがよくツマミとして食べていたものだ。
「俺の好物じゃないか、覚えててくれたのか、女将さん」
「やっぱりあんただったんだね、まさか生きてるとは驚きだよ」
「俺がそう簡単にくたばるわけないだろう」
「それもそうだ。あはははっ!」
彼女は豪快に笑うと、俺の横に座り、グラスを差し出してくる。
「客に注がせるのか?」
「あんたと私の仲だろ、黙って注ぎなよ。飲むために、ツマミも作ってきたんだから」
彼女はそう言うと、スモークチーズを口に運ぶ。
「お前が食うのかよ、相変わらずだな」
相変わらずの女将のグラスに酒を注ぐ、彼女はそれを一気に飲み干した。その空のグラスにまた、酒を注いでおく。
「ルナ、あんたもこっちに来な!」
「え、お母さん………そ、その………」
彼女は可愛らしい犬耳が折りたたまれ、尻尾は落ち着かないと言うふうに、小さく揺れている。女将さんにも、犬耳と尻尾が生えている。
この表現でも分かるように、この親子は犬の獣人、この国が同盟を結んでいる数少ない魔族の1つだ。普段は無駄な注目を避けるために、魔法で隠しているが、知っている俺の前では隠さないでいるわけだ。
「さっさと来な、グレイに酒でもついでやるんだよ」
「うぅーー、もう分かったよ」
彼女は少しばかり抵抗していたが、すぐに折れて、右隣に座った。そして、酒瓶を持って、グラスに注いでくれる。
「ありがとな、ルナ」
「え、えっと、そ、その、どういたしまして」
彼女は顔を赤くして、尻尾を千切れんばかりに振っている。
「そういえば、なんで俺だと分かったんだ?、見かけをだいぶ誤魔化してるはずだったんだが」
「えっとそれは、グレイさんの匂いがしたので……」
「ああ、獣人って鼻がいいからか」
「グレイぃー、この子はね、あんたが死んだって聞いて、床に染み込むくらい泣きまくったんだよ、ギャハハっ!」
いつの間にか酒瓶を5本も開けていて、とんでもなく酔っ払っている。
「お母さん!そのことは誰にも言わないって約束でしょ!」
「ごめんごめん、つい可笑しくなっちゃてさ」
「別にいいじゃないか、そんだけ心配してくれたんだろう?」
「え、そ、それは、グレイさんが、恩人だから………その、ごめなさあぁぁい!」
彼女は恥ずかしくなったのか、そのまま駆け出し、自分の部屋に閉じこもってしまった。
「あはははっ!すまないね、うちの子はシャイで。ところであんた、姿を消してから何をしてたんだい」
「田舎の教会で神父をやりながら、孤児の面倒をみてたよ」
「あんたが神父かい、似合わないもんだねぇ、神に祈るタイプでもないだろう」
「それもそうだが、俺が世話になった所なんでな、仕方ない」
ふと時間を確認すると、時計の針が3時を指していたので、ここで切り上げておく。
「ツマミ美味しかったよ、じゃあ俺は部屋に戻る。後、俺が生きてることは内緒にしといてくれよ。さっきの話の後じゃ、信用はできなさそうだがな」
「安心しな、あたしは本気で漏らして欲しくない情報はけっして漏らさないよ。さっきみたいにバラしても問題がない奴は軽々しく話すけどね」
「なら問題ないな、お休み」
「お休み、いい夢見な」
俺は部屋に戻ると、シャワーを忘れていたことに気づき、シャワールームに行ってシャワーを浴びると、もう集合時間まで2時間しかなかった。幸い睡眠はさっき取っておいたので、あまり眠くはなかったが、念のため仮眠はとっておこうと、椅子に座り目を閉じた。
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