緋の英雄王 白銀の賢者

冴木黒

文字の大きさ
11 / 67

滅びの呪い

しおりを挟む
「服脱いで、ちょっと胸のとこ見せてみなさい」

 翌朝、ルフスらの部屋を訪ねてきたグルナが真っ先に言った言葉がそれだった。
 戸惑うルフスだったが、グルナは問答無用とばかりに服の裾を掴むと、ためらいもなく引き上げる。それから思いきり顔をしかめた。

「やっぱり……」

 嘆息と共に言われ、ルフスはつい目を逸らす。
 ティランが何事かと覗き込み、眉をひそめる。

「なんやそれ」

 ルフスの胸にあったのは奇妙な形の痣だった。小さな種から双葉の芽が出たような、そんな形をしていた。
 ルフスは目を逸らせたまま、ぼそぼそと言う。

「なんか、あの時多分何かされて、でもその後から痛みとかもなかったし別にそんな大したことじゃ……」
「何言ってんのよ大したことよ! 戻ってくる時なんか妙に胸の辺り気にしてるし、何かあるんだろうなとは思ってたけど、まーあたしもあの時かなり疲れててすぐに確認しなかったから責任あるわけなんだけど、ほんっともー」
「すみません……」
「それで一体なんなんやこれ」

 ティランが不安そうに痣とグルナを交互に見やり、グルナは目を細めて告げる。

「呪いよ。それも強力な」

 ルフスとティランは息を呑む。

「対象を跡形もなく消し去る、滅びの呪い。それもじわじわ時間をかけて殺してやろうって趣味の悪いやつよ」
「解く方法は? というかなんならあんたなら解けるんやないか?」

 ティランがルフスを押しのけて言った。
 昨夜のことは既に聞いていた。どうやら眠っている間に操られていたらしく、ティラン自身に一切の記憶はなかった。
 だが、前回もそして今回も怪異を招いたのは自分だ。
 自分が妙な連中に目をつけられたことで、ルフスが巻き込まれ、そのせいで呪いを受けたのだと思うと、居ても立っても居られなかった。
 掴みかからんばかりの勢いのティランに、しかしグルナは無情にも首を横に振る。

「ごめんなさい……あたしには無理」
「なんでや。呪いを解くのも祓い屋の仕事のうちだったはずやろ!」
「軽いものなら、そりゃあたしでもどうにかできるわよ。でもその子のそれは……」

 グルナは中途半端に言いかけて、口を閉ざす。
 その意図を、聡明なティランは瞬時に理解する。
 原因はまた自分だ。ティランの内に在るという、何かの力。自覚はない。それ故に、狙われやすいのだという。
 今回もその隙をつかれ、力を利用された。
 ルフスに掛けられた呪いが強力なのは、そこにティランの力が加わったせいだ。
 ぎりと奥歯を噛む。怒りのあまり、頭がぐらつく。
 片目の下に皺が刻まれる。
 宥めるように肩を叩かれた。ルフスだった。
 ルフスはグルナに向かって言う。

「今ここでどうにかできなくても、呪いを解く方法自体は、探せばどこかにあるんでしょうか?」
「………神様方か、或いは神に近い存在であれば可能かもしれない」
「神に近い存在っていうのは?」
「そうね……たとえばその力を分け与えられたか、後は神々に仕える人々なんかはそう呼ばれるけど」
「それだったら、おれの村にも巫女様がいたけど……」
「……悪いけど、そんじょそこらの巫女さんじゃその呪いはどうにもならないと思う」

 言われて、ルフスは首を傾げる。

「でも、神様の声を聞くってすごいことじゃないんです? 少なくともふつうの、おれたちのような人間にはできませんよ」
「それはまあそうなんだけど、それって結局あちら側の声を一方的に聞くだけじゃない、あの人たちは基本的に。巫女さん側からの神様へのアクセス権はないわけよ。そうなると巫女さん頼って神様にあんたのことをお願いしてもらうってのもできないわけで」
「そしたらどないせぇ言うんや」

 苛々と、吐き捨てるティランの目を見つめ、グルナは真剣な顔で言った。

「あのね。ルフスの呪いのことも、もちろんそうなんだけど、あんたの力もできるだけ早くどうにかした方がいいと思う。でないとまた昨日みたいに付け込まれて、もっと悪い事態を引き起こす可能性だってある」
「わかっとる、けど……」

 ティランはちらりと横目にルフスを見る。
 巻き込んでしまったことはもちろんのこと、自分の力が使われたというのが何よりきつい。
 できれば呪いを解く手立てを自分が見つけて、どうにかしてやりたいと思うが、自分の力のことも放置するわけにはいかないから、そうすると同時進行する方法を考えなくてはいけなくなる。
 ティランが頭を悩ませていると、隣でルフスが声を上げた。

「そっか、そうだ。なあティラン。おまえが訪ねようとしてるメルクーアの魔法使いに、おれのことも相談してみるってのはどうだろ。ねねグルナさん、どうですか? いい案だと思いません?」

 明るく言われてグルナは目を瞬かせ、その後で小さく唸った。

「そうねえ、あたしは魔法のことはわかんないから、何とも言えないけど……確かにまあ呪術も魔法も術の一種ではあるといえばその通りなんだけどさ」
「いいよ、行ってみる価値はあると思う。ソレイユの王立研究所にいたっていうし、なんかすごい人っぽいだろ。なあ、おれもおまえのことは気になってたとこだし、ちょうどいいや。一緒に行けば二人まとめてどうにかしてもらえるかもしれないぜ?」
「おまえ……」

 ティランはぐっと眉間に皺を寄せる。
 気を使われているのだとわかって、腹立たしさが増す。腹立たしいのは自分自身に対してだ。
 その様子を見ていたグルナが短く息を吐いて言った。

「そうね、それもいいかもしれない。まだ呪いが完全になるまで時間はあるし、あたしも他になにか手だてがないか調べておくわ。もしね、その魔法使いの所に行って、どうにもならなさそうだったらあたしのとこにいらっしゃい。ホオシンってここからずっと東の村にいるから」
「はい、ありがとうございます」

 ルフスはもう一度、ティランの肩を軽く叩く。
 ティランは何も言わず、黙って俯いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...