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追放したのが運のつき

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「ニース、これとこれを鑑定してくれ」

 ガラン、ゴロンゴロン……

 いつものように洞窟の奥で、カレンがモンスターからドロップしたアイテムを僕に放って寄越す。カレンは伝説級の英雄と持てはやされている女勇者だ。僕の事を便利屋程度にしか思って居なく、いつも態度が悪い。

「はいよ」

 高ランククエストの洞窟でドロップするアイテムは高品質であることが多いが、なぜかカレンが拾うとゴミである事が良くある。決して僕が無能だから誤鑑定したという事はない。

「うーん、これもゴミだね」 
「そんな事はないでしょう!」

 僕が鑑定結果を伝えるとカレンがムカッとして言う。

 折角高難度のモンスターを倒したのにゴミばっかりドロップするのはおかしいと感じているのだろう。
 だけど、事実僕が鑑定する限りそれはゴミだった。

「おい、アイテムをゴミ認定してこっそり自分の懐に入れているのか?」

 スカウトのサイファが猜疑の目で僕を見ておかしなことを言い僕を責める。サイファはカレンに好意があるので、彼女の番犬のように良く吠える。

「やめてくれ、僕がそんな事をしないのは知っているだろう」

 僕はこのパーティーの中で一番身なりが貧しい。勿論、前線で戦わないというのがあるがそれ故に配当が他のメンバーよりも一桁低いのだ。アイテムがゴミであれば僕の配当も当然下がる。

「もし、そんな高価なアイテムを横流ししているならこんなボロ装備なんて捨てているよ」

 何度目かの言いがかりに僕も切れかけて反論してしまう。

「なんだと……聞いていれば鑑定屋の癖に調子にのって……」

 元々短気なモンクのギーグがイラつきながら僕に怒る。

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて、冷静に冷静に……」

 そこで回復魔法専門のリーサがいつも通り仲裁に入る。とても優しく気の良い子で僕の好みだった。

「チッ」

 ギーグがつばを吐き捨て、それで終わりとしたようだ。

 僕は内心腹が立っていたが、リーサの温かい気持ちが伝わってきてそれだけで少し癒された。



 その後、無事にクエストを完了してギルドに戻って再鑑定してもらうと鑑定ミスが見つかる。

「これは生命の指輪ですね、Sランクのアイテムでとても価値が有るものです」

 ギルドの専属鑑定師が指輪を見て言う。それは僕がゴミだと鑑定した指輪だ。
 疑い深いサイファが捨てずに持ち帰ってきていたのである。

「なんだと!」

 それを訊いたギーグが怒鳴り声をあげて僕を睨みつける。

「え?そんな訳はないよ……」
「やっぱりかぁ……もう良いよ、お前の言い訳なんて聞きたくない……ニース!お前は今日限りで首だ!」

 僕が抗議しようとすると、それに被せるようにカレンが冷たく言い放つ。
 カレンは怒っているような、それでいて突き刺すような冷たい目で僕を見ていた。

「……はぁ」

「それと、ワザと誤鑑定して俺達を裏切った罪でギルドからも追放してやる」
「はは、そうだぜニース今のうちに逃げた方が良いぞ」

 怒り心頭のギーグが顔を真っ赤にしていうと、番犬のサイファがいつものように調子に乗る。

「……判ったよ、僕のミスだった……悪かったよ」

 どう考えてもミスのはずがないのだが、僕は自分のミスを認めてギルドから出ていく。

「へへっ」

 僕の背中からサイファがあざ笑う声がして居たたまれなくなり、最後は走ってギルドを出た。

 ダダダダダダダ……

「クソ!クソ!僕のミスのわけが無いのに!」

 僕は走りながら涙を浮かべていた。鑑定ミスだとか絶対にありえないと確信しているの、無理やりに汚名を着せられて僕はみじめで耐えられなかった。

「待って!ニース!」

 後ろから僕を呼ぶリーサの声がする。僕を追いかけてギルドから出て来たのだ。
 だけどもう首になった僕にどんな慰めの言葉を掛けても無意味だ。たとえリーサの言葉であっても汚名は雪がれない。

 リーサに慰めて貰うと余計に自分がみじめに思えるだけだ。

「まってぇええ」



 僕はリーサを振り切って走り、町を遠く離れて一人で歩いていた。後ろを振り向いてももうリーサは追いかけてこない。

「良いんだどうせ、誰も理解なんてしてくれっこない」

 僕は心の痛みを覚えて歩き疲れ、道端に立っていた巨木に背中を預けて座り込んだ。

「鑑定」

 いつもの癖でその巨木を鑑定すると、Sランクのアイテムがそこに埋まっている事が判る。

「木の下か……いや、違うな」

 精密に再度鑑定をしてみると、そのSランクアイテムは木の根に引っかかり地表に近い所にあるようだ。僕はそれを持っていた清掃用具で掘り出した。

「ふむ、これは!生命の指輪!」

 飛んだ偶然があるものだと思いそれを自分の指に嵌める。

 するとグングンと体力が回復し、さっと立ち上がり又歩き出した。

「ほらね、やっぱり僕は間違っていない、ただ理解者がいないだけだ」 

 少しだけ自分のプライドが回復するのを感じていた。
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