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ピカピカのニース
しおりを挟む「こんにちわ」
「いらっしゃい……ませ」
僕が服屋に入ると女店員は僕の貧乏な身なりで声のトーンが下がる。
「最高級の服をくれ」
「はは、ご冗談を」
女店員が僕を見下す態度が気にいらなかったのでカウンターの上に金貨一枚を置く。
「これで足りるかな?」
「は!はい、今すぐにお持ちします」
金貨を見た瞬間、店員の態度が急変してあわただしく店の奥に飛び込んで行って倉庫から特上の服を沢山手に持ちやってくる。
「どんなものをご入用でしょうか?」
「そうだな、旅人の服で一番上質なもの、それと丈夫なコートとブーツを貰おうか」
服屋の店員は沢山持っている中で僕の要望にピッタリの物を見繕ってくれた。流石プロという事か。
早速店員のおすすめの服一式に着替える。
「これならば、高級なショップにも行けそうだね」
「ええ、勿論ですよ」
シックな濃紺主体のデザインで僕の細身の体形にピッタリだった。
「とてもお似合いです」
それがお世辞だと分かっていても嬉しかった。外見で褒められた事は子供の頃以来だ。
「うん、それではこれを一式貰うよ、それとその古いのは処分してください」
店員がおつりを渡そうと銀貨を沢山持ってくると僕はそれを断った。
「いいよ、釣りは取っておいてくれ」
「毎度ありがとうございましたー!」
店に入るときと真逆の対応で清々しく送り出してくれる。
さて、次は散髪だ。もう貧乏な冒険者ではないのだからオシャレに金を使ってもいいのだ。
「こんちわ」
「どうぞ座って」
「さっぱりとした髪型に頼む」
「いいよ」
散髪屋の親父はぶっきらぼうだったが腕は確かなようだ。ものの数十分で僕はすっきりとした髪型に仕上がった。
「どうもありがとう、それじゃこれ」
そういうと金貨一枚を親父に手渡して店を出る。
「……」
散髪屋の親父は初め金貨が何か良くわからなくて、それをしげしげと眺めてから悲鳴を上げる。
「えええ!」
おそらく人生で初めて金貨を手に入れたのだろう。
僕はピカピカのいい男に生まれ変わり、気分良く王都を目指した。
村の馬屋で馬を買い、それで一路王都へ街道を走る。
アルカ国は背後には大きな山岳地帯に囲まれ、人が住める土地が狭くて人口も少ない。長年帝国から朝貢で搾取されているので財政的にも発展の余地はないように思われていた。
アルカの王都は僕の所属していた帝国の大都カーズと比べたら小さくて城壁も貧弱だ。その変わり帝国への朝貢関係で外敵に襲われる要素は少なく、城門の番兵ものんびりと座って寛いでいるようすである。
「どうも」
「……どちらから?」
僕は馬を降りて番兵の所に行くと、それでも一応は番兵らしく僕の身分調査を始める。
「帝国のカーズから商売に来ました」
僕が鑑定士のバッジを見せてやると番兵は「良いぞ」と面倒臭そうに言い僕を通してくれた。
王都に入ると、弱小国家でも一応は首都らしく都市の中は石畳で綺麗に舗装されており、住人もボロを纏っていたりはしない。教育も行き届いており、あちこちで商店が開き活発に人々の生活が営まれている様子がうかがえる。
「へぇ、良いではないか」
弱小国だけど王都なのだ。
「商業ギルドはどこにあるのかな?」
そう呟いた瞬間に王都のマップが頭に浮かびギルドの場所が判る。大地の精霊の神眼力は非常に便利だった。
「凄いな……」
でも、その力を意識すると建物の中に誰がいるのか、何をしているのかすら手に取るように判ってしまう。
「ああ、これは……今後コントロールしないとまずいな」
僕は都市の中の人たちが何をしているのか判ってしまい……それは要らない情報で困惑してしまう。
「こんな力、誰にも話すわけにはいかないな」
それを再認識して、力をコントロールしながらギルドに向かった。
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