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対決
しおりを挟む翌日、僕がサムを連れてセスの所に行き紹介を終えると、僕の引っ越しの仕事はほぼ全て終わった。
そしてホッとしていると屋敷にセスの部下のニアがやって来た。
「やぁ久しぶりだね」
「はい、お知らせがございます」
ニアは折角来たのにすぐに用件を切り出す、それがまた彼らしいと思った。
「何かあったのかい?」
「帝国の勇者カレンのパーティーが国境警備を振り切りこちらへ向かっております」
カレン?一体何の用だろう。
今は帝国とは紛争状態であるので簡単には王都にすら入れて貰えないはずだ。
「ありがとう」
それで僕は王子の所に相談に行く。
「帝国の勇者カレンがこちらへ向かっているようですが、王子は何か心当たりはありませんか?」
「ふむ……なくもないが」
「というと?」
「以前ここに、君を返せとやって来た話をしただろう?」
「ええ」
「その時に私が思わず帰れと怒鳴ってしまったのだ……私とした事が」
王子は少し後悔して言う。
「ですがその仕返しで来るとも思えませんが」
「そうなのか?」
皇帝の命令で王子を暗殺しに強行突破で来たか……どちらにしろ、半分は僕のせいだと感じる。
「この件は僕個人の問題のような気がします、カレンには僕が直接話をしましょう」
「だが早まらないで欲しい」
「それは大丈夫ですよ、僕は帰るつもりもないですし」
それに仮に実力行使で来ても負ける気がしない。
「ふむ……少し心配であるが、任せよう」
「はい、お任せください」
王子は心配してくれたが僕には策があった。
◆
カレン達がやってきている裏街道に先回りして待ち構えていると、猛スピードで馬車がやってきて僕の少し前で止まる。
「カレン、いい加減にしてくれないか?」
僕が大声で怒鳴る。
鑑定の結果、御者の男はパーティーメンバーではないようで、フードを深く被ったままで僕を睨みつける。
「ニースか!」
カレンが急停止した馬車から飛び降りて来た。
「ニース!貴様、何をしてる!?」
ギーグがいつもの調子で怒鳴りながら降りてくるとカレンが手を横に出して制止する。
「私に任せろ」
「大体の用件は判っているつもりだ」
冷静なカレンへ僕が適当に吹く。
「よし、ならば一緒に帝国へ来て貰おう」
「断る」
「なに!?」
カレンはいつも通り僕を見下した顔で言う。自分の所有物が自分に逆らうなど許さない、そういう態度だ。
「僕はカレンの犬じゃないぞ」
「あーっはっは、犬だろうが」
僕が抗議するとスカウトのサイファがあざ笑う。本当にムカつく奴だ、犬はお前だろうが。
「黙れ!」
「な……」
カレンはしかしサイファを怒鳴りつけた。
「私は本気で言っているのだ、私の元に帰って来てくれニース、な?」
カレンは少し切ない顔になって訴えるようにして言った。それが僕の胸に刺さる。
こんなカレンは初めて見た。その必死な顔は美しいとさえ思ってしまった。
「けど無理なんだ」
「なぜだ?」
「僕はもう帝国とは決別したんだ」
「ニースちゃん……」
カレンの後ろにいるリーサが僕を心配そうにして呟いた。
「悪いけど、そういう事だから帰ってくれ、そしてもう来ないでくれ」
「……ニース、やめてくれ、私に力を使わせないでくれ」
僕がキッパリと断るとカレンは震えながら言う。目が充血していて、怒っているのかと思ったら泣いているようだった。
「あ、いや、そんなつもりじゃないけど……」
「どうしても私の元に戻らないというのなら……力ずくでも行くぞ!」
「やめようよ」
だがカレンはもう決意したようでいきなり飛び掛かって来る。
しかし、それは剣で切り結ぶという事ではなくて鞘ごと僕を殴りつけて気絶させようとするものだ。
神威の服を着こんだ僕はそれを簡単にかわす。
「え!」
驚くカレンが徐々に本気で剣を振り回すといつしか抜剣していて、割と本気で何度も攻撃してきたが全てが空を切る。
ヒュンヒュン!ヒュヒュン!
「無駄だよ」
「なに!このこの!」
カレンの剣技の全てを紙一重でかわし続ける。
「調子に乗るなよ」
カレンが攻撃する合間を縫ってサイファがスカウト最速の武技で飛び込んできて僕に必殺の暗殺技を繰り出すが、それも簡単に避け、逆に彼の首に手刀をお見舞いするとあっさり気絶した。
ドス!
「ぐぅ……」
カレンはそれで完全にキレてしまい必殺の雷神剣を唱えて僕にブチかました。
「雷神剣!」
ドドーン!
「いやぁあ!ニースちゃん!」
カレンの剣から雷が迸り僕に命中すると、リーサが泣き叫んでいた。
が、全員の想定を覆し僕は平然と立っている。
「効かないよ」
神威の服が雷属性の攻撃を吸収していた。少しピリピリと皮膚に障るけどダメージは皆無だった。
「なに!雷神剣!雷神剣!雷神剣!雷神剣!」
ドドドドーン!
カレンが全ての魔力を使い果たし肩で息をしている。
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
「無駄だ」
「ほぅ、やるじゃねーか!」
それを見ていたギーグが何かをラッパ飲みしてから僕に言った。
「もうお前は死ぬしかない」
「はぁ?」
偉く自信たっぷりでギーグが宣言すると同時に彼の身体が黒く膨れ上がるのが見える。
「うぉおおおおおおお」
気持ちの悪い叫び声を上げるとギーグの白目が黒く染まり不気味な顔になっている。
「うわ……」
「ふん!」
ギーグがサイファを超える速度で僕に飛び掛かってきて一瞬驚いたが、彼のパンチを神威の服が紙一重でかわす。
ドヒュ!ボボッ!ボボボボボ!
それは人類を遥かに超える速度で、少し危機感を覚えた僕はギーグの隙をついて膝裏に蹴りを叩き込み、バランスを崩した奴の後頭部に回し蹴りをぶちかました。
ドボ、ドドーン!
その一撃でギーグが頭から地面に倒れ込み口から泡を吹いていた。
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