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異常事態

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 その頃、ニア達は帝国の異常な変貌に驚いていた。

「ニア隊長、兵士がどこにも居ませんね」
「うむ、だが油断するな」

 ニア達は市民の遺体が転がっている都市の内部を進みながら調査を続けていた。

 ニアには直感で判った。自分たちがかつて倒した大量の武装アンデッドが帝国兵士の成れの果ての姿だったのだろうと。

 それで、どこの都市も兵士が全く居なく暴徒を抑制する事は不可能になっている。

「しかし、おかしい……」

 口数の少ないニアが愚痴る。
 帝都から少し離れた地方都市をいくつも調査しているのだが、生存している者が一人もいない。
 それどころか、ネズミや猫、カラスすらいないのだ。

 人が自分達の都合で都市を去ることはあり得るが、野生の動物まで居なくなるのは直感的に凄く気分が悪いものがあった。

「これは非常にまずい、帝都まで全力で移動して離脱するぞ」

 ニアが自分のベテランスカウトとしての勘に従って命令を下し、即行動に出た。

 帝都は比較的王国に近い場所に位置していたので王国へ帰還のついでに寄るのはそれほど問題がない。



 そして不眠不休で2日移動していると、ニア達は獣人の軍勢に出くわして驚く。

 丘の上から俯瞰すると、遥か遠くに軍旗を掲げた一団が帝都を目指して猛進しているのが見える。

「隊長、あれはバーサーカーではないでしょうか?」

 元々ニア達は各国へ潜入調査をしているので、その獣人の軍勢がどこに所属するものなのか旗印を見て直ぐにわかる。

「そうだな、それも精鋭部隊だ」

 ニアは驚くと共に少し嬉しくなっていた。
 暴虐な抑圧を続けていた帝国に対して、ついに獣人国が立ち上がり噛みついたのだ。

 彼等バーサーカーの精鋭部隊は猛然と帝都を目指して爆走している。
 総勢500人程で少数だけど、戦力は一般兵の数万に匹敵すると思われた。

「よし、彼等の後をついて行こう」

 ニアが言うと彼等は馬よりも早い速度で奔り追跡を開始した。


 半日後、ニア達がバーサーカーの軍に追いつくと速度を緩め後方から追走していく。

 すると、帝都を目前にしてバーサーカーの軍が突然進行を止めた。
 一体何が起こったのかと思い、少し離れた場所に立っている巨木に上って観察してみると異常なものが見えた。

「は……?」

 ニアはそれまで色々おかしな物を見て来たがこれ程の物は見たことが無かった。

 帝都全体が暗黒に沈み、そこには何か呪術的な暗黒の文字の形をした瘴気が漂い帝都全体を覆っている。
 更に遠視のスキルで良く観察してみると帝都の地面にも召喚陣のような印が付いているように見えた。

「不味い、離脱するぞ」

 ニアは寒気がして直感的に逃げるべきだと判断し、ニアと共に巨木に上ってそれを見ていた全員に号令をだした。

 それで、バーサーカーの軍団の横をすり抜けて全力で王都を目指して走りだす。

 するとバーサーカーの調査班がニア達に気が付いたが、追ってはこなかった。

 少しして、ニア達が離脱するのとは逆にバーサーカーの軍勢が帝都に突撃していくのが見えた。

 ニアはバーサーカー軍のその後が気になったが、今は全力で逃げるのが正しいという自分の勘に従い王都を目指して走り続けた。


 最後に小高い丘の上からニアが目にしたのは、バーサーカー軍が帝都に突撃していく姿だけだった。

「……行くぞ」

 小休止したニア達は直ぐに走り出して帝国を抜けた。
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