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監視
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「しかしオメェは酒も強えな」
「あははそうかそうか」
その晩は賭博に勝った客の奢りで、ラセルは浴びるほど酒を飲まされたが殆ど酔わなかった。
それも呪いの指輪のせいなのだがそれには殆ど誰も気が付かない。
一部気づいてる白の牙のメンバーはニコル共々引き上げている。
今回の件でニコル達がラセルを多少は見直した……かどうかは不明であるが。
指輪の効果で上機嫌になってるラセルにはどうでも良かった。
一つ気がかりなのは、いつまでも自身に付き纏う視線だ。
何処からともなく纏わり付くかのような視られている感覚は指輪をしていてさえ不快なものがあった。
明け方朝日が昇る前、酒場の客は皆酔いつぶれている中、ラセルは静まった店を出て宿に向う。
その時もずっと視られている感覚を紛らわすようにラセルは手で額を抑えた。
……………………………………………………………………
「アイテムマイスター……と申したのか?」
「はい、確かに」
王宮の別館で特務室長のレガーはリーナからの報告を受けて短く綺麗に狩り揃えた顎髭をゴツゴツした手で撫でた。
レガーは困惑すると眉をひそめ顎髭をイジる癖がある。
リーナはそれがとても気に入っていた。
「そうかご苦労だった、明日また詳しく聞かせてくれ」
「はい」
彼はリーナを短く労い退室させた。
彼の見た目はリーナと親子程も歳が離れていたが、リーナは室長にどこか惹かれるものを感じていた。
リーナは、それを所属する特務室の仲間の女子に話したら「オジサン趣味である」とドン引きされた事を思い出していた。
「室長ってかわいいわよね」
「あたしはあまり……」
「あのおヒゲはとても良いものじゃない?」
「……分からなくないけどねぇ……でもオジサンじゃない……あ、ごめ」
リーナからの思わぬ告白に同僚のセレナは少々呆れ顔で口籠った。
「確かにオジサンかも知れないけど……室長おいくつなのかしら?」
「え~~止めときなよ~~、確か今の国王が30歳の生誕祭の年に宮仕えに入ったと聞いたから……それから15年+16歳で31歳くらい?」
「ほらぁ、案外お若いでしょ?」
「まぁ……見た目の割にはね、でもやっぱりオジサン趣味よね」
「へへへ……」
リーナが宮殿に仕えて直ぐに配属された特務室は、様々な仕事をこなしている諜報部門である。
国王直属の機関で、内務大臣や外務大臣などからも独立しているため、各権力機構からも疎まれがちである。
特に国王と対等な権限をもつ教皇とは犬猿の仲であった。
だが、それこそが国王の狙いの一つなのだ。
権力は時が経てばどんな崇高なものでも腐敗する……それが国王の持論の一つである。
内部から腐敗し崩壊することを防ぐには常に監視して緊張感を与えれば良い。
そんな政治哲学があったのだ。
…………………………………………………………………
翌昼、ラセルがギルドに出向くとシンと静まり返る。
昨晩ニコルと決闘して一撃で勝利した事がギルド中に知れ渡っていたのである。
ラセルは皆の注目を浴びながら、ゆっくり歩いてカウンターに向った。
「よお、人気者だな」
「やめてくれよ」
ラセルを見つけたギルマスがカウンターにやってきて茶化すように言う。
「おめえ、どうやって勝ったんだ?コッソリ教えてくれよ」
ギルマスは相変わらず憎めない顔でニコニコしながら、それでも比較的真面目に訊いてきた。
「……う~ん、実力?」
「たはは、なわけねーだろ」
「嘘だよ、実はこれのお陰だ」
ラセルは誤魔化すのを諦めてポケットから呪いの指輪を一つ取り出して見せる。
「ほ~、これって……いや普通に無理だろ、道理に合わねえや」
「それが出来るんだよ、僕ならね」
「本当か?……信じられねえな」
冒険者攫いから冒険者を連れ戻した時にも同様の事を取り調べ官に話したが誰も取り合おうとはしなかった。
「だがよ、効果はわからねえがそれを自由につけ外し出来るってことか?」
「そう、僕ならね」
「それは凄いことじゃねーか」
「そう……だな」
通常は、呪いのアイテムの取り外しは教会での特殊なミサによる奇跡が必要である。
「ふ~ん……まだ信じられねえがな……おっと、今日はギルドにどんな用だったんだ?」
それでもギルマスは無理矢理自分を納得させて仕事に戻った。
「うん、高難度のクエストに挑戦してみたくなってさ」
「そうだなぁ……Bランクなら北方のホブゴブリン討伐とか丁度いいがな」
「そうじゃなくて、そこにあるギルドクエストをやってみたい」
「んん?」
ギルマスは後ろを振り返りカウンターの後ろの壁に貼り付けてあるギルド直接のクエストを見つけた。
それは長年だれも攻略出来ていない難攻不落の魔人が出ると言われる古城の探索である。
「ふはっ!おめえそれは幾らなんでも無理だろうよ」
「だから挑戦してみたいんだよ」
「……今まで何度もAランクパーティーを退けてきたクエストだぞ?」
「そうだな」
「まさか……一人で行く気か?」
「ああ」
「ちょっと待てよ、昨日なにがあったか知らねえが……自殺しに行くようなもんだぞ」
「それでも行く」
「はぁ……これだけ言っても……どうしても行くというのなら、ちょっと待ってろ」
ギルマスはそう言うと呆れた顔つきをしながらカウンター奥の部屋に引っ込んで、デカい袋を持って戻ってきた。
「あははそうかそうか」
その晩は賭博に勝った客の奢りで、ラセルは浴びるほど酒を飲まされたが殆ど酔わなかった。
それも呪いの指輪のせいなのだがそれには殆ど誰も気が付かない。
一部気づいてる白の牙のメンバーはニコル共々引き上げている。
今回の件でニコル達がラセルを多少は見直した……かどうかは不明であるが。
指輪の効果で上機嫌になってるラセルにはどうでも良かった。
一つ気がかりなのは、いつまでも自身に付き纏う視線だ。
何処からともなく纏わり付くかのような視られている感覚は指輪をしていてさえ不快なものがあった。
明け方朝日が昇る前、酒場の客は皆酔いつぶれている中、ラセルは静まった店を出て宿に向う。
その時もずっと視られている感覚を紛らわすようにラセルは手で額を抑えた。
……………………………………………………………………
「アイテムマイスター……と申したのか?」
「はい、確かに」
王宮の別館で特務室長のレガーはリーナからの報告を受けて短く綺麗に狩り揃えた顎髭をゴツゴツした手で撫でた。
レガーは困惑すると眉をひそめ顎髭をイジる癖がある。
リーナはそれがとても気に入っていた。
「そうかご苦労だった、明日また詳しく聞かせてくれ」
「はい」
彼はリーナを短く労い退室させた。
彼の見た目はリーナと親子程も歳が離れていたが、リーナは室長にどこか惹かれるものを感じていた。
リーナは、それを所属する特務室の仲間の女子に話したら「オジサン趣味である」とドン引きされた事を思い出していた。
「室長ってかわいいわよね」
「あたしはあまり……」
「あのおヒゲはとても良いものじゃない?」
「……分からなくないけどねぇ……でもオジサンじゃない……あ、ごめ」
リーナからの思わぬ告白に同僚のセレナは少々呆れ顔で口籠った。
「確かにオジサンかも知れないけど……室長おいくつなのかしら?」
「え~~止めときなよ~~、確か今の国王が30歳の生誕祭の年に宮仕えに入ったと聞いたから……それから15年+16歳で31歳くらい?」
「ほらぁ、案外お若いでしょ?」
「まぁ……見た目の割にはね、でもやっぱりオジサン趣味よね」
「へへへ……」
リーナが宮殿に仕えて直ぐに配属された特務室は、様々な仕事をこなしている諜報部門である。
国王直属の機関で、内務大臣や外務大臣などからも独立しているため、各権力機構からも疎まれがちである。
特に国王と対等な権限をもつ教皇とは犬猿の仲であった。
だが、それこそが国王の狙いの一つなのだ。
権力は時が経てばどんな崇高なものでも腐敗する……それが国王の持論の一つである。
内部から腐敗し崩壊することを防ぐには常に監視して緊張感を与えれば良い。
そんな政治哲学があったのだ。
…………………………………………………………………
翌昼、ラセルがギルドに出向くとシンと静まり返る。
昨晩ニコルと決闘して一撃で勝利した事がギルド中に知れ渡っていたのである。
ラセルは皆の注目を浴びながら、ゆっくり歩いてカウンターに向った。
「よお、人気者だな」
「やめてくれよ」
ラセルを見つけたギルマスがカウンターにやってきて茶化すように言う。
「おめえ、どうやって勝ったんだ?コッソリ教えてくれよ」
ギルマスは相変わらず憎めない顔でニコニコしながら、それでも比較的真面目に訊いてきた。
「……う~ん、実力?」
「たはは、なわけねーだろ」
「嘘だよ、実はこれのお陰だ」
ラセルは誤魔化すのを諦めてポケットから呪いの指輪を一つ取り出して見せる。
「ほ~、これって……いや普通に無理だろ、道理に合わねえや」
「それが出来るんだよ、僕ならね」
「本当か?……信じられねえな」
冒険者攫いから冒険者を連れ戻した時にも同様の事を取り調べ官に話したが誰も取り合おうとはしなかった。
「だがよ、効果はわからねえがそれを自由につけ外し出来るってことか?」
「そう、僕ならね」
「それは凄いことじゃねーか」
「そう……だな」
通常は、呪いのアイテムの取り外しは教会での特殊なミサによる奇跡が必要である。
「ふ~ん……まだ信じられねえがな……おっと、今日はギルドにどんな用だったんだ?」
それでもギルマスは無理矢理自分を納得させて仕事に戻った。
「うん、高難度のクエストに挑戦してみたくなってさ」
「そうだなぁ……Bランクなら北方のホブゴブリン討伐とか丁度いいがな」
「そうじゃなくて、そこにあるギルドクエストをやってみたい」
「んん?」
ギルマスは後ろを振り返りカウンターの後ろの壁に貼り付けてあるギルド直接のクエストを見つけた。
それは長年だれも攻略出来ていない難攻不落の魔人が出ると言われる古城の探索である。
「ふはっ!おめえそれは幾らなんでも無理だろうよ」
「だから挑戦してみたいんだよ」
「……今まで何度もAランクパーティーを退けてきたクエストだぞ?」
「そうだな」
「まさか……一人で行く気か?」
「ああ」
「ちょっと待てよ、昨日なにがあったか知らねえが……自殺しに行くようなもんだぞ」
「それでも行く」
「はぁ……これだけ言っても……どうしても行くというのなら、ちょっと待ってろ」
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