アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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魔人

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 山城は地上三階建てだが、地下部分が本体である。

 大昔に魔人が城を乗っ取り改造し、その山ごと地下の大部分がダンジョン化している。

 そのため、地下に降りるほどダンジョンは末広がりに拡大していくありさまだった。

「一体どこまで続いているんだ……?」

 陽気なラセルも呆れるほど広大なマップであった。

「こんなものを作るとは、魔人は相当に暇だったのだろうな……」

 ラセルは入り組んだダンジョンを左手法で虱潰しに歩いてマップを書いていった。

 この方法は片手で壁を触りながらそれが途切れるまで歩き回るという攻略法である。

 ほぼ迷うことがない必勝法だがやたらと時間がかかるのが難点であった。

「入ってからどれだけ経ったかな」

 ダンジョンノートを胸ポケットから取り出して眺める。

 記録ノートは白の牙の時代からラセルの仕事であったので既に習慣となっていた。

 使用した松明の記録を見たら10本は超えている。

 途中でエルダーリッチからドロップしたレアアイテムのエターナルライトという散光魔法石のおかげでそれ以降は松明に頼らず進むことが出来ていた。

「コイツのおかげで楽に進めたけれど松明法で時間経過をカウント出来ないし」

 指輪の回復効果でどれだけ歩いても疲労もしないので時間経過が不明になっていた。

 ただ、入り口付近1フロアに松明法で一時間程度掛かっていた事から推測すると大雑把には解る。

「上の方でワンフロア一時間、今は地下20階だから……面積からして三日以上……かな?」

 ラセルはその事実に少し驚く。

「ふ~ん、全く眠くならないのは凄いな」

 いくらタフな冒険者でも二日完徹程度が限界である。

 ラセルはそれを超えて全く疲労を感じずに進んでいた。
 
 ついでページをめくり道中で撃破してきた魔物のリストを眺める。

「アンデッド系5種、ゴースト系4種、リッチ2種……全部で11種類か……そろそろ不死系は飽きてきたな」

 炎の剣で素振りするだけで全て吹き飛んで行ってしまうのだ。

 全く手応えも危機感も感じず単調過ぎると飽きるという事に気がついたのは収穫ではあった。

「ここのトラップも大した事がないし、このままでは時間ばかり掛かって仕方ない……よし、適当に勘だけたよりに進んでみるか」

 既に大量の魔石や宝石を収集したのでチマチマとやる意味を感じなくなっていたラセルは遂にダンジョンの攻略法を変えた。

 それでも記録だけは取りながらひたすら前進していった。

「あ~なんか来たね」

 ボッ!ボボボボ!ドーン!

 既に相手がどんな魔物か種類を確認するまでもなく炎の剣を振り回す。

 ドロップした宝石や魔石も大きく価値のあるもの以外は全て無視して先を急いだ。

 それからは勘だけで面白いように正解を引いて進んでいく。

 そして数時間後に最下層と思われる大空洞に出た。

 地下39階である。

 そこは最下層に相応しく地下神殿のような作りをして居た。

 巨大な柱がズラリと立ち並び、最奥には神殿らしきものが聳えている。

 そこでは……魔物一匹現れずあまりにも静か過ぎて気味が悪い。


「おーい……誰かぁ……」

 オーイ……オーイ……ダレカ……ダレカ……

 ラセルが叫ぶ声が大空洞にこだまして反響する。

 返事はなく静穏そのものだった。


「おーい!」

 オーイ……オーイ……オーイ……

「誰かあ!」

 ダレカ……ダレカ……ダレカ…… 

「煩いなぁ」

 その返事は唐突に神殿の上の方からあった。

「これは失礼しました」

 ラセルは神殿入り口の方から現れた影にニコニこしながら謝った。

「煩いのは嫌いなのでね……おっとヤバい奴が来たな」

 彼はラセルを見ると少し身構えた。

「ところで、貴方が魔人ですか?」

「魔人……なつかしい響きだな」

 魔人の彼の声から20歳くらいの若者に感じた。

「僕はラセル、ラセル・ナイトハルトです」

「そうか、だがそれを知っても意味はない」

「ふ~ん……根暗なのか?」

「な!そんなことはないぞ」

「でもこんなところに住んでいるなんて暗いよね」

「私は静かなのが好きなのだ」

「そう?ところで悪いのだけど僕に倒されて欲しい」

「お前、ニコニコしながら物騒なことを言うのだな……答えはノーだ」

 魔人はゆっくり建物の影から歩み出てきてようやく顔が見えた。

 歳はラセルの予想通り二十歳くらいで、黒髪で古風な服装の平民といった出で立ちである。

 常人と異なるのは額に生えた大きな角ぐらいなものだ。

 武具の類も帯びて居ない。

「……それでは計画が狂ってしまう」

「どんな計画か知らないけど殺されたくはないがな」

「魔人は討伐対象なので、倒されてください」

「何故?」

「討伐対象だから」

「だから何故?」

「う~ん……それは知らないな」

「知らないのか」

「知らん」

「やはりな……20年くらい前に来たオッサンも知らなかったぞ」

「……そうなんだ、それで?」

「それでって……結局返り討ちにしたが」

「死んだのか?」

「いや、仲間と逃げ帰った」

「でも僕は少し強いぞ」

「みたいだな……その、あれ、光っているの聖光氣っていうのか?限界突破している人間は久しぶりに見たよ」

「光……限界突破?よく知らないけど」

「おかしな奴だな、ラセルだっけか」

「まあ、そう言うわけで覚悟してください」

「やめておくよ」

「それは困る」

「勝てそうもないのは判ったから、とっとと帰ってほしい」

「だからそれでは困るのだ」

「……魔人を倒した証を手に入れたら良いのか?」

「それ……でも良いかな」

「ならばこれを持っていけ」

 魔人はそう言うと額の角を手で掴んで踏ん張った。

 ボギ!

「痛え……」

「うわ……」

「これで勘弁してくれ」

 そう言いながらもぎたての角をそっと下手投げでラセルによこす。

「でもなぜこんな……」

 ラセルは受け取った角を手に訊く。

「言ったろ……ただ静かに暮らしたいだけだ」

「上の魔物は?」

「あれは勝手に住み着いてるだけだよ」

「……あんたが兵士を倒してお城ごと盗んだのではないのか?」

「それは私ではない別の奴がやった、しかもやったのは人間だぞ、私は地下を改装して住んでいるだけで」

「なんだって」

「100年前の事だし誰も知らないかもな」

「それを信じろと?」

「事実なのだから仕方ない」

 その言葉の響きにラセルの超感覚が反応した。

「……どうやら本当らしいね」

「そうだよ、私は角が無くなると起きていられないので眠るよ……それでは」

 魔人はそう言うとフラつきながら踵を返す。

「最後に名前を教えてくれないか?」

「私はテスタだ……またな」

 それっきり魔人は神殿に引き込んでしまい、また静寂が大空洞を支配する。

「仕方ない、帰るか」

 ラセルは呆れた顔で角をカバンにしまい神殿を後にした。
 
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