アイテムマイスター物語〜ゴミスキルで能無し認定された主人公はパーティーから追放され好き勝手に生きる事に決めました

すもも太郎

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 闘技場では先客がいたが、王子がやってくると皆順番を譲り闘技場を開けた。

「それを使え」

 王子は護衛に指示して護衛の所持していた剣をラセルに手渡させた。

 ラセルはパッシブスキルで剣の性質を感知する。

 なかなかの良剣であったが、ラセルが打ち直した風の剣より質は低いと思った。

 ヒュンヒュン……

 軽く左右に振って剣のバランスを見る。

「ククク、いいぞ」

 それを見た王子は満面の笑顔で嬉しそうに言う。

 戦いを前にした彼はさらに闘気が漲り、頭髪が逆立つように見えるほどである。

 「剣王」だとかいう噂は、過小評価ではないのか?とラセルは感じ始めた。

 寧ろ戦闘狂とでも言った方がしっくりくる。

 この王子はいざ戦争が始まったら狂喜して先陣を切るような男に違いなかった。

 根っから戦いが好きなのだ。

「いつでもいいですよ」

 ラセルは静かに審判役の男に言った。

「では、両者初め」


「どれ、味見してやるかククク」

 王子は嬉しそうに笑いながら剣技を繰り出してくる。

 バヒュヒュ!

 早くて重い二段切りが飛んできて、それをラセルは余裕を持って躱す。

「では少し本気を出すぞ」

 ラセルに軽く避けられたのが意外であったようで笑顔が消える。

「ふん!」

 ドババババ

 的確に急所を狙ってくる五段連続斬りを、ラセルは無表情で躱し続けた。

「そんなものか?」

「言いやがる……ならば秘技千獄衝!」

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 王子は剣技を発動し超速の連衝がラセルを襲い掛かった。

 一突きごとの速度も超人的な速度があったが、それ以上にラセルを関心させたのは躱した先に次の衝きがとんでくるように計算されつくされていることだった。

 王子の技の動きに全く無駄がなく、達人の域に達している技術の高さはタイマン勝負ならSランク冒険者といい勝負か、それを上回るのではないかとすら感じる。

 だが、人間の速度域を遙かに超えているラセルは確実に避け続けて掠りもしなかった。

 その動きは傍目には幻のようにすら見えていた。

 動きが早すぎて実体がないかのように見えるのだ。

「あれは武神転舞!?王子、そいつは化け物です!」

 側近の一人が堪らずそう叫んでいた。

「ぐぉお!なぜ当たらん!」

「そろそろ本気を出していいか?」

 剣技の最中に余裕を持ってラセルが静かにいうと王子はそれを中断し、初めて後ろに下がった。

 ラセルの冷静で鋭い言葉に畏怖を覚えていた。

「よしこい!闘神防御壁!」

 バババババ!

 それでも王子はなおも勝ち気で受けの武技を唱えて手を素早く左右上下に動かすと空中に魔法陣に似た円弧が現れる。

 すると、ゲルとの戦闘の時に見たような結界防壁がうっすらと現れた。

「なるほど、ガントレットハンド」

 ドゴ!ガシャーン!

 バヒュ!

 ラセルは瞬間に迫りパンチでその防壁を破壊して横に回り込み剣を王子の喉元に突きつけていた。

 観衆には一瞬何が起こったのかすら分からず、勝負はついていた。


「……俺の負けだ」

 おおおおおおおおおお……

 闘技場全体からどよめきが湧き起こる。


 審判が勝敗を宣言するまでもなく王子が降参して勝負はついた。




「これをやろう」

 闘技場を出た後に、王子は護衛から刀を受け取りそれをラセルに手渡した。

「これは俺の一番の宝の剣、次元の剣だ、約束だからお前にやる」

「そうですか、ありがたく頂戴します」

 ラセルはそれを受け取ると異常なものを感じた。

 通常の6属性魔法だとかそういう種類の範囲には収まらないものだ。

「それで斬れぬものはこの世にないと言われる剣だ」

 王子が簡単に説明をしてくれる。

「だが、当たらなければ意味がない……それが今回分かった、その剣はお前にこそ相応しい」
 

 王子は自らの腕をグッと握り、拳を残念そうに見て言った。


「大切に使わせていただきます」

「うむ、俺の代わりに外の世界で使ってやってくれ」


 ……きっと王子は帝宮から自由に出歩くことすら難しいのだろう。

 そう感じたら、ラセルは少し王子に同情する気になった。

 
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