14 / 26
迎えに来る
しおりを挟む
私は、震える指先で障子を閉じた。
足元に残る、濡れた足跡――あれは、確かに”誰か”のもの。
だが、この宿には、私と鬼以外に泊まる客などいないはずなのだ。
ならば、今のは一体……?
嫌な汗が、背を伝う。
私は、おそるおそる布団に戻ったものの、もはや眠るどころではなかった。
この島で、何かが起きている――
それだけは確かだった。
翌朝、私は宿の主人を問い詰めることにした。
「……おかしなことを聞くようですが、この宿には、“私以外の宿泊客”がいるのではありませんか?」
主人は、目を丸くした。
「お嬢さん、何を仰る。昨晩から、あんた一人しか泊まっとらんですよ」
「では、夜中に歩き回る者がいたとしたら?」
主人は、怪訝そうな顔をしたが、やがて、深いため息をついた。
「……この宿はな、昔、ある者を匿っとったことがあるんじゃ」
「匿う?」
「異国の者を、な。」
その言葉に、私は息を呑んだ。
異国の者――つまり、“鬼”と呼ばれた者たち。
「ここがまだ旅籠だったころの話じゃ。嵐の夜、異国の者がこの宿へ逃げ込んできたそうな。追っ手から逃げるためにな。だが、宿の主人は、それを見過ごせんかった」
「……なぜです?」
「鬼を匿えば、この島の人間に何をされるか分からん。それで……夜のうちに、“手をかけた”らしい」
私は、ゾクリと背筋が冷たくなった。
「その後、この宿には奇妙なことが続いた。夜な夜な、誰もいない廊下を、足音が歩く。障子の影に、“人影”が浮かぶ。最初は気のせいかと思うたが、次第に、宿に泊まった者たちが……消えるようになったんじゃ」
「消える……?」
「ええ、誰かが”迎えに来る”らしい」
宿の主人は、どこか遠くを見るような目をした。
「だから、この宿も長いこと客を取らんようになったんじゃが……あんたが来たとき、少しでも宿の気を変えられるかと思うたんじゃがな」
私は、沈黙した。
つまり、この宿に現れた”影”は――。
宿で殺された異国の者の怨念? それとも、未だに何かを探している亡霊?
だが、どちらにせよ、私の身に危険が迫っていることは間違いない。
「宿の中を探らせていただいても?」
主人は驚いた顔をしたが、やがて、静かに頷いた。
「……あまり、深入りせんことじゃな」
私は、小さく頷いた。
これ以上、ただ怯えているだけでは済まされない。
私自身の手で、この”怪異の正体”を突き止めねばならぬ。
そうでなければ、私は”迎えに来る者”の標的になってしまう――。
足元に残る、濡れた足跡――あれは、確かに”誰か”のもの。
だが、この宿には、私と鬼以外に泊まる客などいないはずなのだ。
ならば、今のは一体……?
嫌な汗が、背を伝う。
私は、おそるおそる布団に戻ったものの、もはや眠るどころではなかった。
この島で、何かが起きている――
それだけは確かだった。
翌朝、私は宿の主人を問い詰めることにした。
「……おかしなことを聞くようですが、この宿には、“私以外の宿泊客”がいるのではありませんか?」
主人は、目を丸くした。
「お嬢さん、何を仰る。昨晩から、あんた一人しか泊まっとらんですよ」
「では、夜中に歩き回る者がいたとしたら?」
主人は、怪訝そうな顔をしたが、やがて、深いため息をついた。
「……この宿はな、昔、ある者を匿っとったことがあるんじゃ」
「匿う?」
「異国の者を、な。」
その言葉に、私は息を呑んだ。
異国の者――つまり、“鬼”と呼ばれた者たち。
「ここがまだ旅籠だったころの話じゃ。嵐の夜、異国の者がこの宿へ逃げ込んできたそうな。追っ手から逃げるためにな。だが、宿の主人は、それを見過ごせんかった」
「……なぜです?」
「鬼を匿えば、この島の人間に何をされるか分からん。それで……夜のうちに、“手をかけた”らしい」
私は、ゾクリと背筋が冷たくなった。
「その後、この宿には奇妙なことが続いた。夜な夜な、誰もいない廊下を、足音が歩く。障子の影に、“人影”が浮かぶ。最初は気のせいかと思うたが、次第に、宿に泊まった者たちが……消えるようになったんじゃ」
「消える……?」
「ええ、誰かが”迎えに来る”らしい」
宿の主人は、どこか遠くを見るような目をした。
「だから、この宿も長いこと客を取らんようになったんじゃが……あんたが来たとき、少しでも宿の気を変えられるかと思うたんじゃがな」
私は、沈黙した。
つまり、この宿に現れた”影”は――。
宿で殺された異国の者の怨念? それとも、未だに何かを探している亡霊?
だが、どちらにせよ、私の身に危険が迫っていることは間違いない。
「宿の中を探らせていただいても?」
主人は驚いた顔をしたが、やがて、静かに頷いた。
「……あまり、深入りせんことじゃな」
私は、小さく頷いた。
これ以上、ただ怯えているだけでは済まされない。
私自身の手で、この”怪異の正体”を突き止めねばならぬ。
そうでなければ、私は”迎えに来る者”の標的になってしまう――。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる