あなたまるで鬼みたい

阿弖流為

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迎えに来る

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 私は、震える指先で障子を閉じた。

 足元に残る、濡れた足跡――あれは、確かに”誰か”のもの。

 だが、この宿には、私と鬼以外に泊まる客などいないはずなのだ。

 ならば、今のは一体……?

 嫌な汗が、背を伝う。

 私は、おそるおそる布団に戻ったものの、もはや眠るどころではなかった。

 この島で、何かが起きている――

 それだけは確かだった。

 翌朝、私は宿の主人を問い詰めることにした。

 「……おかしなことを聞くようですが、この宿には、“私以外の宿泊客”がいるのではありませんか?」

 主人は、目を丸くした。

 「お嬢さん、何を仰る。昨晩から、あんた一人しか泊まっとらんですよ」

 「では、夜中に歩き回る者がいたとしたら?」

 主人は、怪訝そうな顔をしたが、やがて、深いため息をついた。

 「……この宿はな、昔、ある者を匿っとったことがあるんじゃ」

 「匿う?」

 「異国の者を、な。」

 その言葉に、私は息を呑んだ。

 異国の者――つまり、“鬼”と呼ばれた者たち。

 「ここがまだ旅籠だったころの話じゃ。嵐の夜、異国の者がこの宿へ逃げ込んできたそうな。追っ手から逃げるためにな。だが、宿の主人は、それを見過ごせんかった」

 「……なぜです?」

 「鬼を匿えば、この島の人間に何をされるか分からん。それで……夜のうちに、“手をかけた”らしい」

 私は、ゾクリと背筋が冷たくなった。

 「その後、この宿には奇妙なことが続いた。夜な夜な、誰もいない廊下を、足音が歩く。障子の影に、“人影”が浮かぶ。最初は気のせいかと思うたが、次第に、宿に泊まった者たちが……消えるようになったんじゃ」

 「消える……?」

 「ええ、誰かが”迎えに来る”らしい」

 宿の主人は、どこか遠くを見るような目をした。

 「だから、この宿も長いこと客を取らんようになったんじゃが……あんたが来たとき、少しでも宿の気を変えられるかと思うたんじゃがな」

 私は、沈黙した。

 つまり、この宿に現れた”影”は――。

 宿で殺された異国の者の怨念? それとも、未だに何かを探している亡霊?

 だが、どちらにせよ、私の身に危険が迫っていることは間違いない。

 「宿の中を探らせていただいても?」

 主人は驚いた顔をしたが、やがて、静かに頷いた。

 「……あまり、深入りせんことじゃな」

 私は、小さく頷いた。

 これ以上、ただ怯えているだけでは済まされない。

 私自身の手で、この”怪異の正体”を突き止めねばならぬ。

 そうでなければ、私は”迎えに来る者”の標的になってしまう――。
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