沈黙の人形師

阿弖流為

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春を見た

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扉の向こうに立っていたのは、冬の冷たい空気とは対照的な、白いコートを羽織った少女だった。

彼女の髪は黄金色で、上品にまとめられている。
深い青の瞳が、興味深げにエドワールを見つめていた。

「あなたが……この工房の職人?」

透き通るような声だった。
エドワールは戸惑いながらも頷く。

「……そうですが、何かご用でしょうか」

少女は微笑んだ。
「私だけの特別な人形を作ってほしいの」

エドワールは思わず息を飲んだ。
この工房を訪れる客などもう何年もいなかった。

「特別な……人形?」

「ええ。私の姿を映した、世界にただ一つの人形を」

少女はそう言って、スカートの裾をつまみながら軽く一礼した。
その所作はまるで宮廷の淑女のようだった。

「……あなたは?」

「私はイザベル・ド・モンタルー。モンタルー伯爵の娘よ」

貴族の娘……。

エドワールは驚いた。
かつてこの工房は貴族の顧客を多く抱えていたが、最近はすっかり縁が切れていた。

「どうして私の工房に?」

「あなたの人形は……とても美しいから」

イザベルは、工房の棚に並んだ人形たちを見つめながら言った。

「まるで……生きているみたい。私、ずっとあなたの人形が欲しかったの」

エドワールは息をのんだ。

誰からも忘れ去られたと思っていた。
誰にも理解されないと思っていた。
けれど、まだ自分の人形を求めてくれる者がいる。

「……お受けします」

エドワールは静かに告げた。

その瞬間、胸の奥に、久しく感じたことのない熱が灯るのを感じた。
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