播磨の美しい姫

阿弖流為

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真宵の先に

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 村上の城で過ごす日々が続く中、蘭姫の心には未だに決して解消できない問いが渦巻いていた。戦いを終え、彼女は自分が守りたいものを見つけたつもりだった。しかし、それでも何かが足りないと感じていた。

 城の中でひとり、蘭姫は静かに歩いていた。人々の歓声や、戦後の喧騒が遠くから聞こえてくる。だが、それらの音が彼女には届かない。彼女の心の中には、重い闇が広がっていた。

 戦いを通して守りたかったもの、そしてそれを守り抜いたはずの自分。しかし、なぜかその先に進む力が湧いてこない。彼女の目に映るのは、ただ破壊された世界の残骸と、戦の中で失われた命の影ばかりだった。

 歩きながら、蘭姫は足を止めた。目の前に広がる庭の中、一本の木が目を引いた。それは、先代の城主が植えたとされる樹木で、その枝葉が今は薄暗くしおれていた。

 「……何もかも、すぐに変わるわけではない」

 蘭姫は呟き、その木を見つめ続けた。たとえ戦いが終わっても、すべてがすぐに元に戻るわけではない。村の人々も、自分も、心の中で何かを抱えたまま歩き続けるしかないのだろうか。

 その時、突然、背後から声がかかった。

 「蘭姫」

 振り向くと、橘がそこに立っていた。彼はいつものように静かな目で蘭姫を見つめている。

 「……橘」

 蘭姫はしばらく黙って彼を見つめ、やがて口を開いた。

 「私、まだ分からない。どうしても、心の中の何かが埋まらない」

 橘は少し考えた後、ゆっくりと歩み寄り、蘭姫の隣に立った。

 「蘭、戦いが終わったからと言って、すべてが解決するわけではない。お前が抱えているその思いは、ただ戦ったからといって消えるものじゃない」

 「でも、私は……」

 「お前は、その心の中の闇をどうにかしようとしている。その気持ちが大切だ」

 橘の言葉に、蘭姫は目を伏せた。

 「私は、この場所を守るために戦った。でも、それだけでは私自身の中の空虚さは満たされない。私は、私を……誰かに理解してほしいと思っているのかもしれない」

 蘭姫の言葉に、橘はほんの少しだけ口角を上げた。

 「蘭、誰かに理解されることがすべてではない。それでも、お前が今こうして悩み、考え続けていることこそが大切なんだ」

 「でも、何をどうすれば、私は満たされるんだろう?」

 「お前が自分自身をどう思い、どう歩んでいくか。それが最も重要だ。誰かに依存することなく、少しずつでも前に進むことだよ」

 蘭姫はその言葉に少し驚き、そして深く頷いた。

 「前に進む……」

 橘の言葉が、蘭姫の心に響いた。それはまるで、彼女の内なる闇を振り払うかのように感じられた。

 「蘭、お前が抱えるものは、お前だけのものだ。それを解決するのは、お前自身しかいないんだ」

 その言葉が、蘭姫の心に光を灯した。

 「私は、私のために歩んでいこう。それが、私が守りたいものを守るために必要なことだ」

 その瞬間、蘭姫の胸の中で、何かが解けるような感覚が広がった。

 そして、心に浮かんだのは、橘の言葉を受けて再び決意を固める自分の姿だった。

 蘭姫は静かに、けれど力強くその木を見つめた。

 「もう、迷わない。私は、私の道を歩む」

 その言葉が彼女の中で、はっきりとした意味を持った。

 「ありがとう、橘」

 橘は微笑んだ。

 「お前が決めたことなら、俺も見守るよ」

 蘭姫は橘に軽く頭を下げ、深呼吸をひとつした。

 そして、足元をしっかりと踏みしめると、静かに歩き始めた。

 その歩みが、もう迷いを含んでいないことを、彼女自身が感じ取っていた。

 今まで背負っていたもの、失ったもの、そして守りたかったもの。それら全てを背負いながら、蘭姫は歩みを進めていった。

 彼女の前に広がる未来に、恐れるものはもう何もない。
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