3 / 30
第3話 辺境の荒野 〜呪われた土地への到着〜
第3話 辺境の荒野 ~呪われた土地への到着~
馬車の車輪が、乾いた大地を軋ませながら進む。
王都から丸一日以上かけて到着したのは、ルミナス領の入り口。
かつては豊かな森と湖に恵まれた土地だったというが、今は違う。
空は灰色に曇り、風は枯れた草の匂いを運んでくる。
木々は黒く枯れ、地面には不気味な紫色の霧が薄く立ち込めていた。
馬車を降りたアリシア・ルナミアは、ゆっくりと周囲を見回した。
白いドレスは埃にまみれ、銀糸の刺繍がくすんでいた。
それでも、彼女の瞳は澄んでいた。
「ここが……私の新しい家」
荷物を下ろした御者が、恐る恐る声をかけた。
「アリシア様……本当に、ここでよろしいのですか?
この土地は、魔物の呪いで人が住めないと……」
アリシアは静かに微笑んだ。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。
私はここに来ることを選んだの」
御者は頭を下げ、馬車を引いて去っていった。
残されたアリシアは、荒れた道を歩き始めた。
足元に散らばる枯葉が、乾いた音を立てる。
少し進むと、小さな村が見えてきた。
木造の家々は半壊し、屋根は崩れ落ちている。
村人たちは、道端に座り込んでいた。
子供たちは痩せ細り、大人たちは咳き込み、肌は青白い。
誰もが、紫色の霧に覆われたように、苦しそうだった。
一人の老婆が、アリシアに気づいて立ち上がった。
杖をつきながら、震える声で言った。
「貴女は……王都から来た聖女様か?」
アリシアは首を横に振った。
「いいえ。
聖女ではありません。
ただの追放された者です」
村人たちがざわめいた。
老婆は、涙を浮かべて続けた。
「それでも……お願いです。
この土地は、10年前に魔物が現れてから呪われました。
作物は枯れ、子供たちは病に苦しみ……
癒しの聖女様が来てくれれば、きっと……」
アリシアは、静かに村の中心へ歩いた。
村人たちが、彼女の後ろについてくる。
中央に、古い井戸があった。
周囲の地面は、紫色の結晶がびっしりと生え、まるで呪いの象徴のようだった。
アリシアは、そっと膝をつき、手を井戸の縁に置いた。
心臓の奥で、何かが疼く。
それは、抑え込まれていた「呪い解き」の力。
今、静かに呼び覚まされる。
「この呪いは……古いものね」
彼女は目を閉じ、深く息を吸った。
紫色の霧が、アリシアの周囲に集まり始めた。
村人たちは息を呑む。
「アリシア様……危ない!」
誰かが叫んだが、アリシアは動かなかった。
霧が彼女の体に触れる瞬間――
アリシアの掌から、淡い銀色の光が溢れた。
光は霧を吸い込み、紫色の結晶を溶かしていく。
井戸の底から、黒い影のようなものが浮かび上がり、アリシアの手に吸い込まれていく。
それは、呪いの本体。
10年前に魔物が残した、強力な「腐敗の呪い」。
アリシアは、静かに呟いた。
「解け……」
銀色の光が爆発的に広がり、村全体を包んだ。
紫色の霧が一瞬で消え、枯れた木々がわずかに芽吹き始めた。
村人たちの肌色が、少しずつ戻る。
沈黙が広がった後、誰かが泣き出した。
「奇跡だ……!」
老婆が、アリシアの足元に跪いた。
「ありがとうございます……聖女様!」
アリシアは首を振った。
「私は聖女ではありません。
ただ、呪いを解くことができるだけです」
村人たちは、信じられないという顔でアリシアを見た。
子供の一人が、恐る恐る手を伸ばし、アリシアのドレスの裾に触れた。
「本当に……痛くなくなったよ」
アリシアは、優しくその子の頭を撫でた。
「よかった。
これで、少しは楽になるわね」
村人たちは、次々とアリシアに感謝の言葉をかけ始めた。
「ありがとうございます」「神様が遣わした人だ」「ここにいてください」
アリシアは、静かに微笑んだ。
「私は、ここに住むことにします。
この土地を、元に戻す手伝いをさせてください」
村人たちは、歓声を上げた。
誰かが、崩れた家の一角を指差した。
「アリシア様、まずはあの家に!
一番ましな部屋があります!」
アリシアは頷き、村人たちに導かれて歩き出した。
背後で、風が枯葉を舞わせる。
空はまだ灰色だが、少しだけ明るくなった気がした。
その夜、アリシアは簡素なベッドに横たわり、天井を見つめた。
手には、まだ銀色の光の余韻が残っていた。
『……これが、私の本当の力。
誰も信じてくれなかったけれど、
ここでは、証明できる』
遠く、王都では。
ヴァレンティン王太子が、フィオナと酒を酌み交わしていた。
「アリシアは、もう二度と戻れない。
これで、すべて完璧だ」
フィオナは、甘く微笑んだ。
「ええ……完璧ですわ」
だが、その時、窓の外から不穏な音が聞こえた。
魔物の咆哮。
王都近郊で、また新たな魔物が発生していた。
ヴァレンティンは眉をひそめた。
「フィオナ、お前の癒しの力で、すぐに退治してくれ」
フィオナは、優雅に頷いた。
「もちろんですわ」
しかし、心の中で、彼女は冷たく笑っていた。
『アリシアがいなくなった今、私の力がすべて……』
馬車の車輪が、乾いた大地を軋ませながら進む。
王都から丸一日以上かけて到着したのは、ルミナス領の入り口。
かつては豊かな森と湖に恵まれた土地だったというが、今は違う。
空は灰色に曇り、風は枯れた草の匂いを運んでくる。
木々は黒く枯れ、地面には不気味な紫色の霧が薄く立ち込めていた。
馬車を降りたアリシア・ルナミアは、ゆっくりと周囲を見回した。
白いドレスは埃にまみれ、銀糸の刺繍がくすんでいた。
それでも、彼女の瞳は澄んでいた。
「ここが……私の新しい家」
荷物を下ろした御者が、恐る恐る声をかけた。
「アリシア様……本当に、ここでよろしいのですか?
この土地は、魔物の呪いで人が住めないと……」
アリシアは静かに微笑んだ。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。
私はここに来ることを選んだの」
御者は頭を下げ、馬車を引いて去っていった。
残されたアリシアは、荒れた道を歩き始めた。
足元に散らばる枯葉が、乾いた音を立てる。
少し進むと、小さな村が見えてきた。
木造の家々は半壊し、屋根は崩れ落ちている。
村人たちは、道端に座り込んでいた。
子供たちは痩せ細り、大人たちは咳き込み、肌は青白い。
誰もが、紫色の霧に覆われたように、苦しそうだった。
一人の老婆が、アリシアに気づいて立ち上がった。
杖をつきながら、震える声で言った。
「貴女は……王都から来た聖女様か?」
アリシアは首を横に振った。
「いいえ。
聖女ではありません。
ただの追放された者です」
村人たちがざわめいた。
老婆は、涙を浮かべて続けた。
「それでも……お願いです。
この土地は、10年前に魔物が現れてから呪われました。
作物は枯れ、子供たちは病に苦しみ……
癒しの聖女様が来てくれれば、きっと……」
アリシアは、静かに村の中心へ歩いた。
村人たちが、彼女の後ろについてくる。
中央に、古い井戸があった。
周囲の地面は、紫色の結晶がびっしりと生え、まるで呪いの象徴のようだった。
アリシアは、そっと膝をつき、手を井戸の縁に置いた。
心臓の奥で、何かが疼く。
それは、抑え込まれていた「呪い解き」の力。
今、静かに呼び覚まされる。
「この呪いは……古いものね」
彼女は目を閉じ、深く息を吸った。
紫色の霧が、アリシアの周囲に集まり始めた。
村人たちは息を呑む。
「アリシア様……危ない!」
誰かが叫んだが、アリシアは動かなかった。
霧が彼女の体に触れる瞬間――
アリシアの掌から、淡い銀色の光が溢れた。
光は霧を吸い込み、紫色の結晶を溶かしていく。
井戸の底から、黒い影のようなものが浮かび上がり、アリシアの手に吸い込まれていく。
それは、呪いの本体。
10年前に魔物が残した、強力な「腐敗の呪い」。
アリシアは、静かに呟いた。
「解け……」
銀色の光が爆発的に広がり、村全体を包んだ。
紫色の霧が一瞬で消え、枯れた木々がわずかに芽吹き始めた。
村人たちの肌色が、少しずつ戻る。
沈黙が広がった後、誰かが泣き出した。
「奇跡だ……!」
老婆が、アリシアの足元に跪いた。
「ありがとうございます……聖女様!」
アリシアは首を振った。
「私は聖女ではありません。
ただ、呪いを解くことができるだけです」
村人たちは、信じられないという顔でアリシアを見た。
子供の一人が、恐る恐る手を伸ばし、アリシアのドレスの裾に触れた。
「本当に……痛くなくなったよ」
アリシアは、優しくその子の頭を撫でた。
「よかった。
これで、少しは楽になるわね」
村人たちは、次々とアリシアに感謝の言葉をかけ始めた。
「ありがとうございます」「神様が遣わした人だ」「ここにいてください」
アリシアは、静かに微笑んだ。
「私は、ここに住むことにします。
この土地を、元に戻す手伝いをさせてください」
村人たちは、歓声を上げた。
誰かが、崩れた家の一角を指差した。
「アリシア様、まずはあの家に!
一番ましな部屋があります!」
アリシアは頷き、村人たちに導かれて歩き出した。
背後で、風が枯葉を舞わせる。
空はまだ灰色だが、少しだけ明るくなった気がした。
その夜、アリシアは簡素なベッドに横たわり、天井を見つめた。
手には、まだ銀色の光の余韻が残っていた。
『……これが、私の本当の力。
誰も信じてくれなかったけれど、
ここでは、証明できる』
遠く、王都では。
ヴァレンティン王太子が、フィオナと酒を酌み交わしていた。
「アリシアは、もう二度と戻れない。
これで、すべて完璧だ」
フィオナは、甘く微笑んだ。
「ええ……完璧ですわ」
だが、その時、窓の外から不穏な音が聞こえた。
魔物の咆哮。
王都近郊で、また新たな魔物が発生していた。
ヴァレンティンは眉をひそめた。
「フィオナ、お前の癒しの力で、すぐに退治してくれ」
フィオナは、優雅に頷いた。
「もちろんですわ」
しかし、心の中で、彼女は冷たく笑っていた。
『アリシアがいなくなった今、私の力がすべて……』
あなたにおすすめの小説
「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった
歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。
病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も——
全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。
十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。
「もう用済みだ、出ていけ」
フィーネは静かに屋敷を去った。
それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。
「前のお嬢様を返してください」
『ブスと結婚とか罰ゲーム』と言われた商人令嬢ですが、結婚式で婚約者の不正を暴いたら幼馴染の騎士様が味方でした
大棗ナツメ
恋愛
「なんで、お前みたいなブスと結婚しないといけないんだ」
そう言い放ったのは、結婚を一週間後に控えた婚約者だった。
商人の娘エフィは、持参金目当ての政略結婚を受け入れていたが、彼からは日常的に「ブス」「価値がない」と罵られていた。
そんなある日、エフィは父の商会の帳簿から男爵家の不審な金の流れを発見する。
さらに婚約者が娼婦と歩いているところを目撃し――
「泣く暇があるなら策を考えなさい」
昔、自分が言った言葉を思い出したエフィは決意する。
結婚式の日、すべてを暴くと。
そして再会したのは、かつて「姉さん」と慕ってくれた幼馴染の騎士レオンだった。
これは、ブスと蔑まれた商人令嬢が、
結婚式で運命をひっくり返す逆転劇。
王妃なんてお断りです――不老不死の薬師は最果ての村で暮らしたい
七瀬ななし
恋愛
侯爵家の令嬢リゼットは、王太子妃候補として王城に上がることになっていた。
美貌、教養、魔力、そのすべてを備えた彼女が重宝される理由はただ一つ。彼女だけが作れる伝説級の秘薬――エリクサーの存在である。
傷を癒やし、病を祓い、肉体の衰えすら遠ざけるその薬は、王家にとって「国そのものを永らえさせる希望」だった。
だがリゼットは知っている。そんな力を差し出した瞬間、自分の人生は終わるのだと。王妃の座は栄誉ではない。王家に飼い殺される檻にすぎない。
そこで彼女は愚鈍で傲慢な悪役令嬢を演じ、婚約者候補である王太子と王妃の失望を買い、ついには辺境への追放処分を勝ち取る。
誰もが没落と笑ったその処分こそ、彼女にとっては望みどおりの自由だった。
最果ての寒村に身を寄せたリゼットは、名を変え、エルフの血を引くから老けにくいのだと村人に説明しながら、小さな診療所を開く。派手な奇跡は起こさない。ただ骨折を治し、熱病を抑え、難産の母子を助け、畑仕事で傷んだ手に薬草を配る。静かな日々。自給自足の暮らし。誰にも利用されない人生。
一方王都では、彼女を追放した代償がゆっくりと広がっていく。
王は病に伏し、王太子は治療法を求め、宮廷はかつて当たり前のように与えられていた奇跡が、二度と戻らぬものだったと知る。だがその頃、リゼットは辺境の村で、誰にも知られぬまま穏やかな百年目の春を迎えていた。
「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢リリアーナは幼い頃から薬草学に長け、領地の薬草園「星霜の庭」を管理し、
領民の病を治してきた。しかし新しい侍医マティアスが「あの令嬢の薬は怪しい。
毒が混じっているかもしれない」と讒言。婚約者の伯爵子息クラウスもそれを信じ、
「毒を扱う女とは婚約できぬ」と破棄を宣言。
追放されたリリアーナは辺境の村で細々と薬草を育て始める。
やがて季節の変わり目、領地に疫病が蔓延——しかし彼女が手入れしていた
薬草園はすでに枯れ果て、侍医の薬は効かず、領民は苦しむ。
一方リリアーナの辺境の村では、彼女の薬のおかげで誰一人倒れなかった。
新米侍女は魔塔主殿下のお気に入り ~なぜか初恋の天使様と勘違いされて寵愛されています~
朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
子爵家養女のリエルは、劣悪な家庭と悪評から逃れるため、家を出て王城住み込みの侍女になった。
「新しい環境で自立して幸せになってみせる!」
そう意気込んでいたら、なぜか魔塔の主である第二王子ハルティシオンに「初恋の天使様だ」と誤認されたようで、過剰な庇護と崇拝を受けることになり……⁉︎
秘密の多い魔塔主殿下×わけあり新米侍女のお仕事から始まる溺愛&救国シンデレラストーリー!
※他のサイトにも投稿しています
呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る
あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。
しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。
「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間
真岡鮫
恋愛
「完璧令嬢」と呼ばれ、女性達の憧れの的である公爵令嬢リリアージュ。
そんな彼女の唯一の欠点と噂されているのが、婚約者である第二王子のガブリエル。
それでも、不出来な彼を支えることが使命と信じ、日々努力を続けていた彼女だが、ある日ガブリエルの身勝手な裏切りを知ってしまう。
失意の中、家に戻ったリリアージュの前に現れたのは、優しい妹思いの兄とその友人である第一王子のアラン。
心配し寄り添う彼らだが、アランのある一言が、リリアージュの「完璧」を揺るがし、彼女のこれまでと未来を大きく変えていく——。
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。