「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾

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第12話 王太子の焦り 〜プライドの壁と、後悔の始まり〜

第12話 王太子の焦り ~プライドの壁と、後悔の始まり~

王都オルティアの謁見の間は、重苦しい空気に満ちていた。  
夜が明けても、魔物の咆哮は止まない。  
城壁の外では、衛兵たちが必死に防衛線を張っていたが、次々と倒れていく。  
街中では、市民の悲鳴が響き、火事が広がっていた。

ヴァレンティン・オルティア王太子は、玉座に座ったまま、額に手を当てていた。  
その手は、微かに震えていた。  
プライドの高い彼が、こんなに弱々しく見えるのは、初めてのことだった。

フィオナ・セレナは、玉座の足元に跪き、青ざめた顔で言った。

「ヴァレンティン様……使者が戻ってきました。  
アリシア様からの返事です」

ヴァレンティンは、ゆっくりと顔を上げた。

「……何と言っている?」

使者が、震える声で報告した。

「アリシア様は……助ける用意はあると。  
ですが、条件を突きつけられました。  
契約金1000万ゴールド。  
そして、王太子殿下の謝罪文を、全国の街に公開するよう……  
内容は『アリシア・ルナミアを偽りの聖女と罵り、婚約破棄したのは誤りだった』と明記せよ、と」

謁見の間に、静寂が広がった。  
貴族たちが、息を呑む。  
フィオナの瞳が、驚きと怒りで見開かれた。

「そんな……! 王太子様に、そんな屈辱を!」

ヴァレンティンは、拳を握りしめた。  
指の関節が白くなるほど強く。

「1000万ゴールド……謝罪文……」

彼の声は、低く震えていた。  
プライドが、激しく抵抗する。  
王太子として、国民の前に土下座するような屈辱など、受け入れられない。  
だが、同時に、後悔が胸を刺した。

『アリシア……お前は、本当に無能だったのか?  
俺が、勘違いしていたのか?』

ヴァレンティンは、立ち上がり、窓辺へ歩いた。  
外では、魔物が街を蹂躙し、炎が上がっていた。  
市民の叫びが、耳に突き刺さる。

「使者に、返事を待てと言え。  
……もう少し、考える」

使者は、頭を下げて退室した。  
フィオナが、慌ててヴァレンティンの袖を掴んだ。

「ヴァレンティン様! そんな条件を受け入れるわけには……  
アリシアは、恨みを抱いているのです。  
彼女を呼べば、王都を呪いで滅ぼすかもしれません!」

ヴァレンティンは、フィオナの手を振り払った。

「黙れ!  
お前の癒しが効かない以上、他に方法がない!」

フィオナは、唇を噛み、涙を浮かべた。  
心の中で、嫉妬が燃え上がる。

『アリシア……あなたが、すべてを壊そうとしているのね。  
絶対に、許さないわ』

ヴァレンティンは、玉座に戻り、座った。  
頭を抱え、静かに呟いた。

「アリシア……お前は、俺をどう思っている?」

幼い頃から婚約者として育ったアリシア。  
いつも穏やかに微笑み、ヴァレンティンのわがままを許してくれた。  
だが、あの宴の夜、彼女は静かに婚約破棄を承諾した。  
泣き叫ぶこともなく、ただ、去っていった。

『俺は……本当に、偽りの聖女だと信じていたのか?  
それとも、ただ、フィオナに心を奪われただけか?』

後悔が、胸を締めつける。  
だが、プライドが、それを認めさせない。

「もう少し……もう少し耐えられるはずだ」

しかし、外の魔物の咆哮は、ますます激しくなっていた。

一方、ルミナス領の丘の上。  
アリシアは、朝霧の中で、村人たちと朝食を取っていた。  
シルヴァン・レイヴンが、静かに隣に座っていた。  
ガレン・ブライトは、村の警備を続けながら、遠くから見守っていた。

村の子供が、アリシアに花を差し出した。

「アリシアお姉ちゃん、王都へ行くの?」

アリシアは、優しく微笑んだ。

「ええ、行かなきゃいけないかも。  
みんなが苦しんでいるなら、助けたいの」

シルヴァンが、冷たく言った。

「条件を飲まなければ、助けない。  
王太子が土下座するまで、待つ」

アリシアは、シルヴァンの手を握った。

「シルヴァン様……ありがとう。  
でも、私はみんなを救いたいだけよ」

シルヴァンの瞳が、わずかに揺れた。

「わかっている。  
だからこそ、俺がお前の代わりに、厳しくする」

ガレンが、近づいてきた。

「アリシア様……王都からの使者が、また来るかもしれません。  
どうか、気をつけてください」

アリシアは、頷いた。

「ええ。  
みんなの笑顔を守るためなら、何でもするわ」

村人たちは、アリシアを囲み、祈るように手を合わせた。

王都では、ヴァレンティンが一人、玉座に座っていた。  
窓から差し込む朝陽が、彼の顔を照らす。  
その瞳には、初めての迷いが宿っていた。

『アリシア……俺は、お前を間違えていたのかもしれない』

プライドの壁が、静かに、崩れ始めていた。
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