婚約破棄された悪役令嬢、パンがなかったので貴族から菓子を奪って民衆に食べさせますわ! 馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい 1/4

鷹 綾

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第4話:初の配給と民衆の涙

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第4話:初の配給と民衆の涙

夜明け前の王都下町は、霧に包まれていた。  
アルキオーネは黒いマントを羽織り、フードを深く被って馬車から降りた。  
彼女の傍らにはクラリスと私兵数名が控え、  
三台の荷馬車には、昨夜の強奪で手に入れた材料と完成品の菓子が満載されていた。  
すべてを製粉場でクラッカーと乾パンに加工し、  
今朝、初めての配給に備えていた。

「クラリス。配給所は準備できた?」

「はい、お嬢様。  
下町の三地区に臨時配給所を設けました。  
民衆には『公爵家からの恵み』として広めていますが、  
まだ警戒している者も多いようです」

アルキオーネは、静かに頷いた。

「構いませんわ。  
最初は疑われてもいい。  
実際に食べてもらい、味を知ってもらえれば……  
彼らは自然と理解しますわ」

配給所は、簡素な木造の小屋だった。  
周囲にはすでに、飢えた民衆が列をなしていた。  
子どもたちは母親の裾を握り、  
老人たちは杖に寄りかかり、  
皆の目が虚ろだった。

アルキオーネはフードを外し、  
白い髪を朝の光にさらした。  
民衆が息を呑む。

「……あれは……公爵令嬢?」

「氷の薔薇……なぜここに……」

アルキオーネは、ゆっくりと手を挙げた。

「皆さん。おはようございますわ。  
今日は、フォーマルハウト家から、  
お菓子をお配りしますわ」

民衆の間に、ざわめきが広がった。

「お菓子……?  
貴族の菓子が、俺たちに?」

「馬鹿な……毒でも入ってるんじゃ……」

アルキオーネは、静かに微笑んだ。

「毒?  
いいえ。  
ただのクラッカーですわ。  
パンがないなら、お菓子を食べればいい……  
それを、本気で実行しますわ」

私兵たちが荷馬車から木箱を下ろし、  
焼きたてのクラッカーを並べ始めた。  
黄金色に焼けたクラッカーは、  
甘い香りを放ち、民衆の鼻をくすぐった。

子どもが一人、母親の裾を引っ張った。

「お母さん……お腹すいた……」

母親は、恐る恐る手を伸ばした。

「……本当に、ただでいいんですか?」

アルキオーネは、優しく頷いた。

「ええ。  
並ばなくても大丈夫ですわ。  
一人ひとり、確実にお配りしますので。  
ただし、お行儀よくお願いしますね?」

母親は、震える手でクラッカーを受け取った。  
一口かじると、涙が溢れた。

「おいしい……!  
ほんとに、おいしい……」

子どもも両手で抱きしめ、  
泣きながら頬張った。

「お母さん……ありがとう……」

周囲の民衆が、次々と手を伸ばす。  
老人は杖を置いて、  
職人は帽子を脱いで、  
皆がクラッカーを口に運んだ。

「こんなにおいしいもの、初めてだ……」

「公爵令嬢が……本当にくれた……」

アルキオーネは、静かに見守っていた。  
彼女の瞳には、冷たさではなく、  
優しい光が宿っていた。

一人の老婆が、アルキオーネに近づいた。

「お嬢様……ありがとうございます。  
私、昨日まで何も食べられなくて……」

アルキオーネは、優しく老婆の手を取った。

「もう、大丈夫ですわ。  
これからは、毎日配給します。  
パンがないなら、お菓子を食べていただくのです」

老婆は、涙を拭った。

「お嬢様は……悪役令嬢だなんて、嘘ですわね」

アルキオーネは、小さく笑った。

「悪役令嬢?  
あなた方の主観ですわ」

配給は続き、  
三地区すべてで1500枚以上のクラッカーを配り終えた。  
民衆の列は長く続き、  
「クラッカー様!」という呼び名が、自然と広がっていった。

しかし、その場に、貴族のスパイが紛れ込んでいた。  
彼は、配給の様子を馬車で王宮に報告した。

「王太子殿下。  
フォーマルハウト令嬢が、下町でクラッカーを配っています。  
しかも、昨夜ローレンス伯爵の菓子工房を強奪したとの情報が……」

セドリックは、顔を歪めた。

「馬鹿な女が……  
菓子を奪って民に配る?  
そんなことで、民の心を掴めると思っているのか?」

貴族たちが嘲笑した。

「高級菓子を、ただで配るなんて馬鹿げてるわ」  
「貴族の菓子は高額だから価値があるのに、  
庶民に渡すなんて、価値が下がるだけよ!」

セドリックは、冷たく命じた。

「監視を続けろ。  
あの女が本気で革命を起こすなら、  
すぐに叩き潰す」

一方、配給を終えたアルキオーネは、  
馬車の中でクラリスに言った。

「クラリス。民衆の反応は?」

「皆、喜んでいました。  
『クラッカー様』と呼ぶ者も出てきました」

アルキオーネは、満足げに頷いた。

「ふふ……貴族たちは、菓子が高額だからこそ自分たちのものだと思い込んでいる。  
けれど、今朝からその幻想は崩れ始めましたわ。  
次は、もっと大規模に配給します。  
そして、貴族たちの菓子工房を、次々と奪いますわ」

クラリスが心配そうに言った。

「お嬢様……貴族たちの反発が、激しくなるのでは……」

アルキオーネは、冷たく微笑んだ。

「構いませんわ。  
馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。  
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」

馬車は、朝の光の中を走った。  
配給所の周りでは、  
民衆がクラッカーを分け合い、  
笑顔で語り合っていた。

「公爵令嬢は、本当に私たちを救ってくれた……」

「馬鹿な女なんて、嘘だわ」

アルキオーネの逆襲は、  
静かに、しかし確実に広がり始めていた。
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