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第3章‐2『剣と誇りと、居場所』
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第3章‐2『剣と誇りと、居場所』
中庭に、和やかな空気が流れていた。
勇者の帰還。
それだけで、この屋敷の空気はいつもより明るく、どこか弾んでいる。
フロンティアは、ファイエルのそばから一歩も離れようとしなかった。
「ねえ、ファイエル様……!」
遠慮がちに、しかし抑えきれない期待を滲ませた声。
「ぼ、僕……剣、強くなりたいんです」
その言葉に、ファイエルは少し驚いたように目を瞬かせた。
「剣?」
「はい! いつか領地を守れる当主になるために……それに、勇者様みたいに強くなりたくて!」
小さな拳を握りしめるその姿は、幼いながらも真剣そのものだった。
キクコは、その様子を少し離れた場所から見つめ、静かに目を細める。
(……あの頃のあなたに、よく似てるわね)
かつて、剣を握る理由もわからないまま、それでも必死に前を向いていた孤児の少年。
それが、今や“伝説の勇者”と呼ばれる男になっている。
ファイエルは少し考えたあと、柔らかく微笑んだ。
「いいよ。ほんの基礎だけだぞ? 振り回すんじゃなくて、立ち方と構えくらいだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
フロンティアの顔が、ぱっと花開いたように明るくなる。
彼はすぐに木剣を持ってきて、ファイエルの前に立った。
「まずは力を抜いて。剣は振り回すものじゃない。身体と一緒に動かすんだ」
「は、はい!」
ファイエルはゆっくりと剣を構え、その動きを見せる。
無駄のない重心移動、自然な呼吸。
それは派手さはないが、確かな実戦をくぐり抜けた者の剣だった。
フロンティアは真剣な目で、それを必死に真似る。
――そのとき。
空気を切り裂くような、低く鋭い声が響いた。
「おや。騒がしいと思ったら、勇者殿が帰っていたのか」
中庭の入り口に立っていたのは、一人の男。
長身、鍛え抜かれた体躯。
鋭利な刃のような眼差しを持つ、王国最強の剣士——ジャン・リヒターだった。
彼はファイエルを一瞥し、次にフロンティアへと視線を向ける。
「フロンティア様に、無断で剣を教えるとは……少々、出過ぎた真似では?」
その声音は静かだが、明確な非難を含んでいた。
「すまない」
ファイエルはあっさりと頭を下げる。
「頼まれて、ついな。基礎だけのつもりだった」
だが、ジャンの表情は和らがない。
「我流の剣など、癖になるだけだ。素人の手ほどきなど、百害あって一利なし」
その言葉に、キクコが小さく肩をすくめて笑った。
「ふふ。それ、私にも言ってるわね?」
「い、いえ! キクコ様のご指導は……」
「冗談よ。ジャン様の言うことももっともだわ」
扇子で口元を隠しながら、キクコは穏やかに続ける。
「あなたたちの剣は、まったく別物ですもの。勇者の剣と、王国騎士の剣ではね」
だが、ジャンはなおもファイエルから視線を外さない。
「……しかし、勇者殿。あなた、キクコ様と随分と親しいようだな?」
「そりゃあ、母上だからね」
「なっ……!」
ジャンの顔が、目に見えて強張る。
「年下の女性を“母上”と呼ぶとは……無礼ではないか!」
その瞬間、キクコの視線がぴたりとジャンに向けられた。
「年齢の話を持ち出すのは、禁句よ?」
「ひっ……! し、失礼しましたっ!!」
反射的に頭を下げるジャン。
その様子を見て、フロンティアが思わず吹き出す。
「ねえねえ、キクコ。ジャン様、顔真っ赤だよ」
「フロンティア、からかってはダメよ?」
だが、その直後。
ジャンは、すらりと剣を抜いた。
「勇者ファイエル! キクコ様にふさわしいのはどちらか——腕試しといこうじゃないか!」
「おいおい、俺はそんなつもりじゃ——」
「問答無用!」
勢いに押され、ファイエルは苦笑しながら剣を抜く。
「いいよ。ちょっとだけ付き合ってやる。ただし……覚悟はしておけ」
二人の剣士が向かい合う。
少し離れた場所で、キクコとフロンティアがそれを見守っていた。
「……ねえ、キクコ」
フロンティアが小声で囁く。
「あれ、ただの試合じゃなくて……勝った方が求婚しそうな勢いだよね」
「困った子達ね……」
そう言いながらも、キクコは扇子で口元を隠し、どこか楽しそうに目を細めていた。
春風が吹き抜ける中庭で、
剣と誇りと、そしてそれぞれの“居場所”を賭けた騒がしい時間が、静かに始まろうとしていた。
中庭に、和やかな空気が流れていた。
勇者の帰還。
それだけで、この屋敷の空気はいつもより明るく、どこか弾んでいる。
フロンティアは、ファイエルのそばから一歩も離れようとしなかった。
「ねえ、ファイエル様……!」
遠慮がちに、しかし抑えきれない期待を滲ませた声。
「ぼ、僕……剣、強くなりたいんです」
その言葉に、ファイエルは少し驚いたように目を瞬かせた。
「剣?」
「はい! いつか領地を守れる当主になるために……それに、勇者様みたいに強くなりたくて!」
小さな拳を握りしめるその姿は、幼いながらも真剣そのものだった。
キクコは、その様子を少し離れた場所から見つめ、静かに目を細める。
(……あの頃のあなたに、よく似てるわね)
かつて、剣を握る理由もわからないまま、それでも必死に前を向いていた孤児の少年。
それが、今や“伝説の勇者”と呼ばれる男になっている。
ファイエルは少し考えたあと、柔らかく微笑んだ。
「いいよ。ほんの基礎だけだぞ? 振り回すんじゃなくて、立ち方と構えくらいだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
フロンティアの顔が、ぱっと花開いたように明るくなる。
彼はすぐに木剣を持ってきて、ファイエルの前に立った。
「まずは力を抜いて。剣は振り回すものじゃない。身体と一緒に動かすんだ」
「は、はい!」
ファイエルはゆっくりと剣を構え、その動きを見せる。
無駄のない重心移動、自然な呼吸。
それは派手さはないが、確かな実戦をくぐり抜けた者の剣だった。
フロンティアは真剣な目で、それを必死に真似る。
――そのとき。
空気を切り裂くような、低く鋭い声が響いた。
「おや。騒がしいと思ったら、勇者殿が帰っていたのか」
中庭の入り口に立っていたのは、一人の男。
長身、鍛え抜かれた体躯。
鋭利な刃のような眼差しを持つ、王国最強の剣士——ジャン・リヒターだった。
彼はファイエルを一瞥し、次にフロンティアへと視線を向ける。
「フロンティア様に、無断で剣を教えるとは……少々、出過ぎた真似では?」
その声音は静かだが、明確な非難を含んでいた。
「すまない」
ファイエルはあっさりと頭を下げる。
「頼まれて、ついな。基礎だけのつもりだった」
だが、ジャンの表情は和らがない。
「我流の剣など、癖になるだけだ。素人の手ほどきなど、百害あって一利なし」
その言葉に、キクコが小さく肩をすくめて笑った。
「ふふ。それ、私にも言ってるわね?」
「い、いえ! キクコ様のご指導は……」
「冗談よ。ジャン様の言うことももっともだわ」
扇子で口元を隠しながら、キクコは穏やかに続ける。
「あなたたちの剣は、まったく別物ですもの。勇者の剣と、王国騎士の剣ではね」
だが、ジャンはなおもファイエルから視線を外さない。
「……しかし、勇者殿。あなた、キクコ様と随分と親しいようだな?」
「そりゃあ、母上だからね」
「なっ……!」
ジャンの顔が、目に見えて強張る。
「年下の女性を“母上”と呼ぶとは……無礼ではないか!」
その瞬間、キクコの視線がぴたりとジャンに向けられた。
「年齢の話を持ち出すのは、禁句よ?」
「ひっ……! し、失礼しましたっ!!」
反射的に頭を下げるジャン。
その様子を見て、フロンティアが思わず吹き出す。
「ねえねえ、キクコ。ジャン様、顔真っ赤だよ」
「フロンティア、からかってはダメよ?」
だが、その直後。
ジャンは、すらりと剣を抜いた。
「勇者ファイエル! キクコ様にふさわしいのはどちらか——腕試しといこうじゃないか!」
「おいおい、俺はそんなつもりじゃ——」
「問答無用!」
勢いに押され、ファイエルは苦笑しながら剣を抜く。
「いいよ。ちょっとだけ付き合ってやる。ただし……覚悟はしておけ」
二人の剣士が向かい合う。
少し離れた場所で、キクコとフロンティアがそれを見守っていた。
「……ねえ、キクコ」
フロンティアが小声で囁く。
「あれ、ただの試合じゃなくて……勝った方が求婚しそうな勢いだよね」
「困った子達ね……」
そう言いながらも、キクコは扇子で口元を隠し、どこか楽しそうに目を細めていた。
春風が吹き抜ける中庭で、
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