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第14話「伯爵家の反撃」
しおりを挟む王都・貴族評議会本部。
そこに届いた一通の“公式声明”が、王都の貴族界隈をざわつかせた。
差出人は――アイザック伯爵家。
内容は、実に端的かつ厳格だった。
---
『王太子アルヴィス殿下が我が婚約者リオネッタ・エルバーナ嬢に対し、不正確な情報を流布し、名誉を著しく毀損した件について、正式に抗議の意を表します。
このまま悪質な噂の拡散が継続された場合、我が家は名誉毀損に基づく告訴および、外交的抗議措置を講じる準備があります。』
---
「……あの伯爵家が、ついに動いたか」
「しかも“外交的抗議”とまで……。隣国との繋がりが強いあの家が本気を出したら、下手すれば国際問題ですよ?」
評議会の老人たちは頭を抱え、
側近たちは、さっそく王太子の執務室へ駆け込んだ。
「殿下! またしても貴族評議会が動きました!」
「また? 何の話だ。リリィが泣かされた件か?」
「……その件ですが……どうやらリリィ様は、リオネッタ様と和解し、感謝すらしているとの情報が」
「は? だが、俺はこの耳で聞いたんだぞ! 使用人が“リリィ様が泣いていた”って!」
「それは……感動で、かと……」
「だとしても! 泣かせたのは事実だろう!」
――この人、本当に話が通じない。
側近たちは一斉に胃痛を覚えながら、提出された抗議文を机に叩きつけた。
「これをご覧ください。アイザック伯爵家は、貴族の中でも極めて影響力が高く、しかも隣国との通商も管轄しています。これはただの抗議文ではなく、“圧力”です!」
「っ……ぐぬ……!」
王太子の顔が真っ赤になる。
(アイツ……伯爵家の令息風情が、調子に乗りおって……!)
その頃、伯爵家の執務室では――。
報告書を読み終えたクリスが、静かに紅茶を口に運びながら言った。
「一応、牽制にはなったかな」
「伯爵様、よくお出しになりましたね。まさか“外交的抗議”の文言まで盛り込むとは……」
「事実だからね。あのまま彼の言動を放置すれば、我が家の“婚約者の安全”を守れない。外交的信用にも関わる」
まさに、“王族だから”といって好き勝手に振る舞う男への、貴族からの正統なる反撃だった。
そして――リオネッタにも、そのことは伝えられた。
「“名誉毀損による告訴および外交的抗議措置”……って、なんだかすごいワードが並んでますけど……?」
「ふふ。要は、“これ以上バカな真似をしたら、貴族社会からも外交の席からも黙ってない”って意味ですわね」
ミーナが、紅茶を注ぎながらにやっと笑った。
「さすが伯爵家。スカッとしますわ」
「……けれど、どうしてそこまでしてくれるのかしら」
リオネッタがぽつりとつぶやくと、クリスは微笑んで答えた。
「それは契約だから。僕たちは婚約者同士――君の名誉を守るのは、当然の義務だよ」
――それは、あくまで契約の範囲内のはずなのに。
どうしてこんなにも、心強く、あたたかく感じてしまうのだろう。
(……おかしいな。白い結婚のはずなのに)
胸の奥で、少しだけ甘くくすぐったい感情が芽生えたことを――
この時のリオネッタは、まだ自覚していなかった。
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