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第22話「王宮での対面」
しおりを挟む「リオネッタ様、お迎えの準備が整いました」
ミーナの声に、リオネッタはゆっくりと立ち上がった。
本日、国王陛下からの“正式な要請”により、彼女は証言のため王宮に出向くことになっている。
もちろん単独ではない。アイザック伯爵家の使節団が同行し、万全の護衛体制が敷かれていた。
「……戻ってくるなんて、夢にも思わなかったわね。この場所に」
馬車の窓から見える王宮の正門を見つめながら、リオネッタはそっと笑う。
(でも、今日は“戻る”ためじゃない。“決着”をつけに行くのよ)
* * *
玉座の間。
王都の中心、かつてリオネッタが“完璧な妃候補”として立ち続けた場所。
だが、そこにいた王太子アルヴィスは、かつての威厳も気品も微塵も感じさせなかった。
――跪いて、額を床にこすりつけている。
「リオネッタ……戻ってきてくれ!」
場内がざわついた。廷臣たちはざまあと思いつつも、その展開に一様に驚いている。
リオネッタは、そんな空気をものともせず、静かに一歩、また一歩と進み――
王太子の前でぴたりと足を止めた。
「……お顔をお上げください、殿下」
「……っ!」
顔を上げたアルヴィスの頬には、涙の跡があった。
「私は……間違っていた。あの時、君を失ってから、初めて気づいたんだ。君がどれだけ完璧で、理想の妃だったか……」
「……“完璧すぎて可愛げがない”と言われたの、覚えておりますわ」
リオネッタの声は、冷たくも怒りに満ちてもいなかった。ただ、澄んでいた。
「そしてその後、“恋に落ちた”と仰って、私を捨てました。今さら……何を仰るのですか?」
「リリィにはもう幻滅した! やはり君が――!」
「……その発言、リリィ様の名誉を著しく損ねるものでございます」
冷静に口を挟んだのは、クリスだった。
「先ほどのすべての発言は、使節団の記録官が記録済みです。必要であれば外交文書として提出いたしましょう」
「お前……!」
「殿下」
リオネッタが、まっすぐにアルヴィスを見た。
「私は、もうあなたの“飾り”ではありません。過去の婚約者でも、候補者でもない。――ただの、自由な一人の令嬢です」
「……っ、戻ってきてくれさえすれば、すべて元通りに……!」
「“元通り”に戻りたいのは、殿下だけでしょう」
その一言に、王太子の顔が真っ青になる。
「私はもう、王家とは縁のない人生を歩むと決めました。伯爵家の婚約者として、誇りと敬意をもって生きていきます」
玉座の間に沈黙が広がった。
誰もが、“終わったのだ”と感じた瞬間だった。
王太子の涙も懺悔も、もう何の意味も持たなかった。
* * *
「お嬢様、素敵でした!」
帰路の馬車で、ミーナが感極まったように拍手を送った。
「ふふ、緊張したわ……でも、言いたいことは言えた」
「はい。ざまぁ、でしたね!」
「……ミーナ、それは少し口が悪いですわよ?」
リオネッタは微笑みながらも、ほんの少しだけ――喉の奥で、くすりと笑った。
(でも、ほんとに……ざまぁ、ですわね)
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