婚約破棄されたので回復クッキーでスイーツ店始めました~義妹の阻害を解いて真の聖女覚醒、世界に甘い奇跡を~

鷹 綾

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第2話 冷たい実家と、追放の言葉

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第2話 実家への帰還と、冷たい言葉

婚約破棄の宣言から一夜明けた朝、私は王宮の客室で荷物をまとめていた。

昨夜の舞踏会は、まるで夢のように感じられた。  
いや、悪夢だ。

使用人たちが同情の目を向けながら、私の荷物を馬車に運ぶ。

王都の街並みを眺めながら、馬車はエルグランド公爵邸へと向かった。

実家は、王都の外れに広大な領地を有する荘厳な屋敷だ。  
高い石壁に囲まれ、庭園には季節の花が咲き乱れ、噴水が優雅に水を舞わせる。

かつては、私の安らぎの場所だった。

馬車が正門をくぐり、玄関前に停まる。

使用人たちが私を出迎えたが、その表情はどこかぎこちない。

「お帰りなさいませ、アプローズお嬢様……」

執事の声に、いつもの温かみがない。

私は静かに頷き、屋敷の中へ足を踏み入れた。

父の執務室へと案内される。

扉を開けると、そこに父がいた。

エルグランド公爵、ガルハルト・フォン・エルグランド。  
厳格で威厳のある人物。かつては私を優しく抱きしめてくれた父だった。

だが、今の父の隣には――義母とアルテアが並んでいた。

義母は父の再婚相手で、アルテアの実母。  
優雅な笑みを浮かべているが、目は冷たい。

アルテアは、昨夜の舞踏会と同じピンクのドレスを纏い、勝ち誇ったような表情で私を見ていた。

「アプローズ、戻ったか」

父の声は低く、重い。

私は静かに膝を折った。

「お帰りなさいませ、お父様。昨夜は……ご心配をおかけしました」

父はため息をつき、机の上に置かれた婚約破棄の正式文書を指で叩いた。

「心配? いや、恥をかかせたと言ってほしい。レグナム殿下に婚約を破棄され、しかもその場でアルテアが後任に指名された。お前は我が家の恥さらしだ」

胸が、鋭く痛んだ。

「……申し訳ございません」

「申し訳ないで済む話ではない」

父は立ち上がり、私に近づいた。

「教会も動き始めている。アルテアに神の加護が宿っていると公言し、王太子妃としてふさわしいと認めている。お前にはその素養がなかった。それがすべてだ」

アルテアが、くすりと笑った。

「お姉様、昨夜は本当に残念でしたわね。でも、レグナム様は私の加護をちゃんと認めてくださったんですのよ」

義母も口を添える。

「アプローズ、あなたはもうこの家に必要ないわ。アルテアが王太子妃になるのですから」

私は、ゆっくりと顔を上げた。

「お父様……実家のスイーツ店で、私が作っていたクッキーは――」

父が苛立たしげに手を振った。

「あれは家伝の秘伝だ。お前個人の力ではない。教会のポーションを上回る効果があったのは、わが家の名声のおかげだ。お前がいなくなっても、アルテアが引き継げば問題ない」

――そう、思っているのだろう。

私が作るクッキーは、アルテアが近くにいるときでさえ、教会のポーションを明らかに凌駕していた。

それなのに、誰も私の力に気づこうとしなかった。

気づきたくなかったのだろう。

アルテアを、王太子妃に据えるために。

「お前は明日、この屋敷を出ろ。辺境のルヴェリアに別荘を与えてやる。それで十分だろう」

追放――。

それは、事実上の勘当だった。

私は、静かに立ち上がった。

「……わかりました、お父様」

アルテアが、にこやかに言った。

「お姉様、今までお店のお手伝い、本当にありがとうございました。これからは私が家族を支えますわね」

その笑顔の奥に、冷たい嘲笑が見えた。

私は、執務室を出た。

自室に戻り、荷物をまとめる。

使用人たちは同情の目を向けるが、誰も口を挟まない。

夜、窓辺に座り、王都の灯りを眺めた。

実家のスイーツ店は、私がいなくなったらどうなるのだろう。

アルテアが作っても、あの効果は出ないはずなのに。

でも、もういい。

私は、自分の力を隠す必要がなくなった。

明日から、私は自由だ。

辺境の街で、小さな店を開こう。

そこで、私の本当のクッキーを作ろう。

きっと、誰かが喜んでくれるはず。

私は、静かに荷物を閉じた。

涙は、もう出なかった。

代わりに、胸の奥に小さな炎が灯っていた。

(第2話 終わり)

次回、第3話「別荘への旅と、過去の回想」

拡張版第2話完成!  
家族の冷遇シーンを詳しく描き、感情移入を深めました。  
第3話に進みますか? 調整ありますか?  
全40話、着実に進めましょう♪
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