13 / 40
第13話 王都到着と、予想外の再会
しおりを挟む
第13話 王都到着と、予想外の再会
五日間の旅を終え、私たちの馬車は正午の陽光の下、王都の巨大な門をくぐった。
門番の兵士たちは、ギルド公認の護衛旗を見て通路を空けたが、視線は明らかに警戒に満ちていた。
「審問の関係者か……」
小さな呟きが聞こえた。
王都は、変わらず華やかだった。
石畳の大通りには豪華な馬車が行き交い、貴族たちの屋敷が立ち並ぶ。
だが、私の店とクッキーの噂が王都にも広まっているらしく、通りすがりの人々が馬車をちらちらと見ている。
ライアンが、低い声で言った。
「緊張するな。俺たちがついている」
私は頷いた。
「大丈夫です」
馬車は教会大聖堂近くの指定宿に到着した。
審問は明後日。
今日は休養と情報収集の日だ。
宿のロビーに入ると――予想外の人物が待っていた。
父だった。
エルグランド公爵、ガルハルト・フォン・エルグランド。
厳しい表情で、私の前に立っている。
侍女や使用人を従え、威圧感を放っていた。
「アプローズ、ようやく来たか」
父の声は、低く抑えられていた。
ライアンたちが、即座に私の前に壁を作った。
エレナが、鋭く睨んだ。
「何の用だ?」
父はそれを無視し、私に近づいた。
「審問などに出る必要はない。今すぐ店を閉め、レシピを教会に献上しろ。アルテアが……家が、困っている」
私は、静かに父を見上げた。
「お父様……実家のスイーツ店は、もうクッキーが作れなくなったんですよね?」
父の顔が、わずかに歪んだ。
「……それは、お前のせいだ。お前がレシピを隠しているからだ」
私は首を振った。
「違います。私が作らなければ、あの効果は出ないんです。アルテアには……できません」
父の目が、怒りに燃えた。
「生意気言うな! お前はただの役立たず――」
ライアンが一歩前に出た。
「言葉を選んでください。彼女はもう、あなたの娘として扱われる必要はない」
父はライアンを睨んだが、護衛パーティーの威圧に気圧されたように口を閉じた。
「……審問で、すべてを終わらせる。お前が異端と認定されれば、強制的にレシピを没収できる」
父はそう言い残し、侍女たちを連れて去っていった。
宿の部屋で、私は窓から王都を見下ろした。
実家は近い。
アルテアも、レグナム王子も、ここにいる。
夕方、護衛パーティーと一緒に街へ情報収集に出た。
大通りを歩いていると、別の再会があった。
「あら……お姉様?」
振り返ると、アルテアが立っていた。
美しいドレスを纏い、数人の貴族令嬢と侍女を従えて。
だが、その表情には、疲れと焦りが隠せなかった。
目元に薄いクマができ、笑顔が少し引きつっている。
「アルテア……」
アルテアは、にこやかに近づいてきたが、目は冷たい。
「王都に帰ってきたのね。審問? ふふ、馬鹿らしいわ。お姉様のくだらないお菓子が、教会を怒らせたんですって?」
周りの令嬢たちが、くすくす笑った。
「早く店を閉めて、レシピを教会に渡したら? そうすれば、私も助かるわ」
私は、静かに聞いた。
「助かる? どうして?」
アルテアの笑みが、わずかに崩れた。
「……教会のポーションが売れなくなって、私の加護も疑われ始めているのよ。お姉様のせいで!」
その言葉に、私は初めて確信した。
アルテアは、私の力を阻害していたことを、薄々知っていたのかもしれない。
エレナが、アルテアを睨んだ。
「もう十分よ。出て行きなさい」
アルテアは唇を噛み、侍女たちを連れて去っていった。
部屋に戻り、私はマジックポッキーを手に取った。
明日、審問の準備を。
教会のポーションに触れ、私の本物の力を示す。
アルテアの偽りが、暴かれる瞬間を。
王都の夜空に、星が瞬いていた。
予想外の再会が、私の決意をさらに固くした。
審問の朝が、近づいている。
五日間の旅を終え、私たちの馬車は正午の陽光の下、王都の巨大な門をくぐった。
門番の兵士たちは、ギルド公認の護衛旗を見て通路を空けたが、視線は明らかに警戒に満ちていた。
「審問の関係者か……」
小さな呟きが聞こえた。
王都は、変わらず華やかだった。
石畳の大通りには豪華な馬車が行き交い、貴族たちの屋敷が立ち並ぶ。
だが、私の店とクッキーの噂が王都にも広まっているらしく、通りすがりの人々が馬車をちらちらと見ている。
ライアンが、低い声で言った。
「緊張するな。俺たちがついている」
私は頷いた。
「大丈夫です」
馬車は教会大聖堂近くの指定宿に到着した。
審問は明後日。
今日は休養と情報収集の日だ。
宿のロビーに入ると――予想外の人物が待っていた。
父だった。
エルグランド公爵、ガルハルト・フォン・エルグランド。
厳しい表情で、私の前に立っている。
侍女や使用人を従え、威圧感を放っていた。
「アプローズ、ようやく来たか」
父の声は、低く抑えられていた。
ライアンたちが、即座に私の前に壁を作った。
エレナが、鋭く睨んだ。
「何の用だ?」
父はそれを無視し、私に近づいた。
「審問などに出る必要はない。今すぐ店を閉め、レシピを教会に献上しろ。アルテアが……家が、困っている」
私は、静かに父を見上げた。
「お父様……実家のスイーツ店は、もうクッキーが作れなくなったんですよね?」
父の顔が、わずかに歪んだ。
「……それは、お前のせいだ。お前がレシピを隠しているからだ」
私は首を振った。
「違います。私が作らなければ、あの効果は出ないんです。アルテアには……できません」
父の目が、怒りに燃えた。
「生意気言うな! お前はただの役立たず――」
ライアンが一歩前に出た。
「言葉を選んでください。彼女はもう、あなたの娘として扱われる必要はない」
父はライアンを睨んだが、護衛パーティーの威圧に気圧されたように口を閉じた。
「……審問で、すべてを終わらせる。お前が異端と認定されれば、強制的にレシピを没収できる」
父はそう言い残し、侍女たちを連れて去っていった。
宿の部屋で、私は窓から王都を見下ろした。
実家は近い。
アルテアも、レグナム王子も、ここにいる。
夕方、護衛パーティーと一緒に街へ情報収集に出た。
大通りを歩いていると、別の再会があった。
「あら……お姉様?」
振り返ると、アルテアが立っていた。
美しいドレスを纏い、数人の貴族令嬢と侍女を従えて。
だが、その表情には、疲れと焦りが隠せなかった。
目元に薄いクマができ、笑顔が少し引きつっている。
「アルテア……」
アルテアは、にこやかに近づいてきたが、目は冷たい。
「王都に帰ってきたのね。審問? ふふ、馬鹿らしいわ。お姉様のくだらないお菓子が、教会を怒らせたんですって?」
周りの令嬢たちが、くすくす笑った。
「早く店を閉めて、レシピを教会に渡したら? そうすれば、私も助かるわ」
私は、静かに聞いた。
「助かる? どうして?」
アルテアの笑みが、わずかに崩れた。
「……教会のポーションが売れなくなって、私の加護も疑われ始めているのよ。お姉様のせいで!」
その言葉に、私は初めて確信した。
アルテアは、私の力を阻害していたことを、薄々知っていたのかもしれない。
エレナが、アルテアを睨んだ。
「もう十分よ。出て行きなさい」
アルテアは唇を噛み、侍女たちを連れて去っていった。
部屋に戻り、私はマジックポッキーを手に取った。
明日、審問の準備を。
教会のポーションに触れ、私の本物の力を示す。
アルテアの偽りが、暴かれる瞬間を。
王都の夜空に、星が瞬いていた。
予想外の再会が、私の決意をさらに固くした。
審問の朝が、近づいている。
8
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる