23 / 40
第23話 変わらない日常
しおりを挟む
第23話 変わらない日常
日常は、驚くほど変わらなかった。
朝は決まった時刻に始まり、
執務は淡々と進み、
食事は静かに取られる。
誰も声を荒げず、
誰も踏み込みすぎない。
――いつも通り。
だが。
(……いつも通り、ではないですわね)
エテルナは、書類に目を通しながら、
そう思っていた。
昨日から、
セーブルが相談を持ち込んでこない。
不自然なほど、
完璧に距離を保っている。
(気遣い、なのでしょう)
それは分かる。
分かるからこそ――
少し、落ち着かない。
午前の会議。
「本日の議題は以上です」
文官が締めくくる。
エテルナは、
自然にセーブルの方を見る。
――以前なら、
ここで視線が合い、
短い確認が交わされていた。
だが今日は。
「……では、次の案件へ」
セーブルは、
一拍置いてから話を進めた。
視線は合わない。
(……徹底していますわね)
そのことに、
なぜか胸が、
少しだけざわつく。
昼。
食堂で、
偶然、同じ時間になる。
「……」
「……」
向かいに座るが、
会話は最低限。
「午後の予定は?」
「領内の書簡整理です」
「そうか」
それだけ。
――問題はない。
なのに。
(……短すぎますわ)
以前なら、
業務連絡がもう一つは続いていた。
午後。
エテルナは、
一人で案件を処理する。
問題は、ない。
判断も、速い。
だが。
(……誰にも、
確認されていない判断)
その事実に、
ふと立ち止まる。
王宮では、
それが当たり前だった。
ここでも、
本来は同じはずだ。
それなのに。
(……少し、
物足りない、ですわね)
夕刻。
中庭で、
遠くからセーブルの姿を見かける。
使用人と話している。
――近づこうとして。
やめる。
(今は、
私が踏み込む番ではありません)
そう、理屈では分かっている。
だが、
感情は、
必ずしも理屈通りには動かない。
夜。
自室で、
本を開く。
文字を追っても、
内容が頭に入らない。
(……集中できませんわね)
ふっと、笑ってしまう。
白い結婚。
互いに干渉しない。
それが、
“楽”だったはずなのに。
(……静かすぎる)
その静けさが、
心地よくもあり、
少しだけ寂しい。
同じ頃。
セーブルもまた、
自室で書類を閉じていた。
(……今日は、
話しかけなかったな)
それを、
“正しい”と判断した自分。
だが。
(……彼女は、
どう思っているだろうか)
考え始めて、
苦笑する。
(考えるな、と決めたのは
自分だろう)
それでも。
(……変わらない日常、
のはずなのに)
何かが、
確実に足りない。
夜更け。
回廊で、
二人はすれ違う。
「あ……」
「……」
一瞬、立ち止まり――
「おやすみなさい」
エテルナが言う。
「ああ。
おやすみ」
それだけ。
扉が閉まる。
だが。
二人は同時に思っていた。
(……何も変わっていない)
そして同時に、
否定もしていた。
(……もう、
同じではない)
――変わらない日常。
だがその内側で、
確実に何かが育っている。
それは、
答えでも、決意でもない。
ただ。
互いを意識せずにはいられない、
ごく静かな変化だった。
---
日常は、驚くほど変わらなかった。
朝は決まった時刻に始まり、
執務は淡々と進み、
食事は静かに取られる。
誰も声を荒げず、
誰も踏み込みすぎない。
――いつも通り。
だが。
(……いつも通り、ではないですわね)
エテルナは、書類に目を通しながら、
そう思っていた。
昨日から、
セーブルが相談を持ち込んでこない。
不自然なほど、
完璧に距離を保っている。
(気遣い、なのでしょう)
それは分かる。
分かるからこそ――
少し、落ち着かない。
午前の会議。
「本日の議題は以上です」
文官が締めくくる。
エテルナは、
自然にセーブルの方を見る。
――以前なら、
ここで視線が合い、
短い確認が交わされていた。
だが今日は。
「……では、次の案件へ」
セーブルは、
一拍置いてから話を進めた。
視線は合わない。
(……徹底していますわね)
そのことに、
なぜか胸が、
少しだけざわつく。
昼。
食堂で、
偶然、同じ時間になる。
「……」
「……」
向かいに座るが、
会話は最低限。
「午後の予定は?」
「領内の書簡整理です」
「そうか」
それだけ。
――問題はない。
なのに。
(……短すぎますわ)
以前なら、
業務連絡がもう一つは続いていた。
午後。
エテルナは、
一人で案件を処理する。
問題は、ない。
判断も、速い。
だが。
(……誰にも、
確認されていない判断)
その事実に、
ふと立ち止まる。
王宮では、
それが当たり前だった。
ここでも、
本来は同じはずだ。
それなのに。
(……少し、
物足りない、ですわね)
夕刻。
中庭で、
遠くからセーブルの姿を見かける。
使用人と話している。
――近づこうとして。
やめる。
(今は、
私が踏み込む番ではありません)
そう、理屈では分かっている。
だが、
感情は、
必ずしも理屈通りには動かない。
夜。
自室で、
本を開く。
文字を追っても、
内容が頭に入らない。
(……集中できませんわね)
ふっと、笑ってしまう。
白い結婚。
互いに干渉しない。
それが、
“楽”だったはずなのに。
(……静かすぎる)
その静けさが、
心地よくもあり、
少しだけ寂しい。
同じ頃。
セーブルもまた、
自室で書類を閉じていた。
(……今日は、
話しかけなかったな)
それを、
“正しい”と判断した自分。
だが。
(……彼女は、
どう思っているだろうか)
考え始めて、
苦笑する。
(考えるな、と決めたのは
自分だろう)
それでも。
(……変わらない日常、
のはずなのに)
何かが、
確実に足りない。
夜更け。
回廊で、
二人はすれ違う。
「あ……」
「……」
一瞬、立ち止まり――
「おやすみなさい」
エテルナが言う。
「ああ。
おやすみ」
それだけ。
扉が閉まる。
だが。
二人は同時に思っていた。
(……何も変わっていない)
そして同時に、
否定もしていた。
(……もう、
同じではない)
――変わらない日常。
だがその内側で、
確実に何かが育っている。
それは、
答えでも、決意でもない。
ただ。
互いを意識せずにはいられない、
ごく静かな変化だった。
---
2
あなたにおすすめの小説
後妻の条件を出したら……
しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
分厚いメガネを外した令嬢は美人?
しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。
学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。
そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。
しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。
会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった?
この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。
一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。
しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。
そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。
ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。
その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる