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第四話 国は俺だ
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第四話 国は俺だ
王城大広間。
諸侯と高官が集まる月例評議。
壇上中央に立つのは、王太子アレス・ヴァルディオン。
その一歩後ろ、やや斜めに控えるのが、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
王の体調不良により、評議はアレスが主宰している。
だが、議題整理も資料作成も、すべてレイナが整えたものだ。
大蔵卿が進み出る。
「国家債務再編の進捗についてご報告を」
アレスが腕を組む。
「順調だ」
それだけ言って、黙る。
場が止まる。
大蔵卿が戸惑い、レイナに視線を送る。
レイナは一歩前に出る。
「第一段階の保証移行は完了いたしました」
「市場の信用は安定しております」
軍務卿が続ける。
「軍費配分については」
アレスが遮る。
「任せてある」
「俺の判断だ」
再び沈黙。
レイナが補足する。
「軍費は段階的縮減を実施」
「同時に負債圧縮を進行中でございます」
諸侯たちがざわめく。
ある伯爵が声を上げる。
「保証主体の変更について、王太子殿下のご英断と聞きましたが」
アレスは満足そうに笑う。
「ああ。俺が決めた」
レイナは視線を落とす。
伯爵がさらに問う。
「個人保証は、殿下のご負担が大きいのでは」
アレスは不快そうに眉をひそめる。
「国は俺だ」
広間が静まり返る。
アレスは続ける。
「俺が背負うのは当然だ」
「俺が王になる」
「だから問題ない」
その言葉は、自信というより、思い込みに近い。
レイナは静かに言う。
「保証条項は合法でございます」
「履行責任は明確です」
大蔵卿が慎重に口を開く。
「履行不能時の対応は」
アレスが苛立つ。
「不能などない」
「俺は失敗しない」
レイナは、わずかに目を細める。
「ご確認いただければ幸いです」
アレスは振り返り、低く言う。
「疑うな」
「俺を支える立場だろう」
レイナは一礼する。
「はい、殿下」
評議は形式的に終了した。
諸侯たちは退出しながら、ざわついている。
広間に残ったのは、アレスとレイナだけ。
アレスが玉座の階段に腰を下ろす。
「どうだ」
「俺は堂々としていただろう」
レイナは書類をまとめながら答える。
「ご立派でした」
アレスは満足そうに笑う。
「国は俺だ」
「俺が決めれば、それでいい」
レイナは静かに視線を上げる。
「その通りでございます」
「すべて、殿下のご決断です」
アレスはそれを褒め言葉と受け取る。
「だからお前は裏で支えろ」
「俺の名を汚すな」
レイナは一礼する。
「承知いたしました」
アレスは広間を出ていく。
足音が遠ざかる。
やがて静寂。
レイナは壇上にひとり残る。
玉座を見上げる。
そこに座るべき者の責任。
それを理解していない者。
彼は言った。
国は俺だ、と。
レイナは静かに呟く。
「国は、契約でございます」
誰も聞いていない。
だが書類は残る。
署名も残る。
条文も残る。
国が誰であろうと。
契約は消えない。
彼が背負うと言ったのだから。
その通りに、処理されるだけだ。
大蔵卿が困惑した声で言う。
「殿下は……本日もご欠席で?」
レイナは書類を閉じる。
「体調が優れないとのことです」
嘘ではない。
退屈という意味では、確かに優れないのだろう。
軍務卿が眉をひそめる。
「国家債務の再編は、王太子殿下ご本人の承認が必要でございます」
レイナは静かに答える。
「最終決裁は、すでにいただいております」
彼女は一枚の書類を差し出す。
王太子アレスの署名。
国璽の印。
大蔵卿が目を見開く。
「これは……保証主体変更条項?」
「はい」
レイナは淡々と説明する。
「国家保証の一部を、王太子殿下個人保証へ移行」
「暫定措置でございます」
会議室がざわめく。
軍務卿が声を荒げる。
「個人保証ですと?」
レイナはうなずく。
「殿下が“全て任せる”とおっしゃいました」
「ご確認をお願いしましたが、委任されました」
沈黙が落ちる。
大蔵卿が慎重に問う。
「殿下は、内容をご理解なさっておいでで?」
レイナは一瞬だけ視線を伏せる。
「ご署名は、いただいております」
それが答えだった。
軍務卿が低く言う。
「危険では」
レイナは書類を揃える。
「短期的には信用維持に有効です」
「王家保証の縮小により、市場は安定いたします」
理路整然とした説明。
誰も反論できない。
やがて大蔵卿が深く息を吐く。
「……承認いたします」
レイナは小さく頭を下げる。
会議は終了した。
官僚たちが退出していく。
誰もが不安を抱えたまま。
レイナはひとり、書類をまとめる。
その時、背後から声がした。
「勝手に決めるな」
振り返ると、アレスが立っていた。
いつから聞いていたのかは分からない。
「殿下」
レイナは立ち上がる。
アレスは机の書類を手に取る。
「女は裏で支えろと言ったはずだ」
「表で仕切るな」
レイナは落ち着いて答える。
「表の責任は、殿下にございます」
「私は補佐に過ぎません」
アレスは鼻で笑う。
「お前が全部やっている顔をするな」
「俺の名があれば足りる」
レイナは書類を差し出す。
「では、最終確認をお願いいたします」
アレスはちらりと見ただけで、書類を机に叩きつける。
「面倒だ」
「任せると言っただろう」
「俺のために働け」
その言葉は、命令だった。
レイナは一礼する。
「承知しております」
アレスは背を向ける。
「俺は王になる男だ」
「細かい数字はお前の仕事だ」
扉が閉まる。
静寂。
レイナはゆっくりと椅子に座る。
机の上には、王太子個人保証条項。
彼女はそれをもう一度確認する。
条文は正確。
合法。
問題はない。
ただひとつを除いて。
本人が理解していないこと。
レイナは小さく呟く。
「ご確認を、と申し上げました」
それでも任せると言った。
彼の言葉通りに処理するだけだ。
彼女は働きたくない。
だが、任された。
ならば正確に。
女は裏で支えろと言われたのだから。
その通りに、裏から。
静かに、確実に。
王城大広間。
諸侯と高官が集まる月例評議。
壇上中央に立つのは、王太子アレス・ヴァルディオン。
その一歩後ろ、やや斜めに控えるのが、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
王の体調不良により、評議はアレスが主宰している。
だが、議題整理も資料作成も、すべてレイナが整えたものだ。
大蔵卿が進み出る。
「国家債務再編の進捗についてご報告を」
アレスが腕を組む。
「順調だ」
それだけ言って、黙る。
場が止まる。
大蔵卿が戸惑い、レイナに視線を送る。
レイナは一歩前に出る。
「第一段階の保証移行は完了いたしました」
「市場の信用は安定しております」
軍務卿が続ける。
「軍費配分については」
アレスが遮る。
「任せてある」
「俺の判断だ」
再び沈黙。
レイナが補足する。
「軍費は段階的縮減を実施」
「同時に負債圧縮を進行中でございます」
諸侯たちがざわめく。
ある伯爵が声を上げる。
「保証主体の変更について、王太子殿下のご英断と聞きましたが」
アレスは満足そうに笑う。
「ああ。俺が決めた」
レイナは視線を落とす。
伯爵がさらに問う。
「個人保証は、殿下のご負担が大きいのでは」
アレスは不快そうに眉をひそめる。
「国は俺だ」
広間が静まり返る。
アレスは続ける。
「俺が背負うのは当然だ」
「俺が王になる」
「だから問題ない」
その言葉は、自信というより、思い込みに近い。
レイナは静かに言う。
「保証条項は合法でございます」
「履行責任は明確です」
大蔵卿が慎重に口を開く。
「履行不能時の対応は」
アレスが苛立つ。
「不能などない」
「俺は失敗しない」
レイナは、わずかに目を細める。
「ご確認いただければ幸いです」
アレスは振り返り、低く言う。
「疑うな」
「俺を支える立場だろう」
レイナは一礼する。
「はい、殿下」
評議は形式的に終了した。
諸侯たちは退出しながら、ざわついている。
広間に残ったのは、アレスとレイナだけ。
アレスが玉座の階段に腰を下ろす。
「どうだ」
「俺は堂々としていただろう」
レイナは書類をまとめながら答える。
「ご立派でした」
アレスは満足そうに笑う。
「国は俺だ」
「俺が決めれば、それでいい」
レイナは静かに視線を上げる。
「その通りでございます」
「すべて、殿下のご決断です」
アレスはそれを褒め言葉と受け取る。
「だからお前は裏で支えろ」
「俺の名を汚すな」
レイナは一礼する。
「承知いたしました」
アレスは広間を出ていく。
足音が遠ざかる。
やがて静寂。
レイナは壇上にひとり残る。
玉座を見上げる。
そこに座るべき者の責任。
それを理解していない者。
彼は言った。
国は俺だ、と。
レイナは静かに呟く。
「国は、契約でございます」
誰も聞いていない。
だが書類は残る。
署名も残る。
条文も残る。
国が誰であろうと。
契約は消えない。
彼が背負うと言ったのだから。
その通りに、処理されるだけだ。
大蔵卿が困惑した声で言う。
「殿下は……本日もご欠席で?」
レイナは書類を閉じる。
「体調が優れないとのことです」
嘘ではない。
退屈という意味では、確かに優れないのだろう。
軍務卿が眉をひそめる。
「国家債務の再編は、王太子殿下ご本人の承認が必要でございます」
レイナは静かに答える。
「最終決裁は、すでにいただいております」
彼女は一枚の書類を差し出す。
王太子アレスの署名。
国璽の印。
大蔵卿が目を見開く。
「これは……保証主体変更条項?」
「はい」
レイナは淡々と説明する。
「国家保証の一部を、王太子殿下個人保証へ移行」
「暫定措置でございます」
会議室がざわめく。
軍務卿が声を荒げる。
「個人保証ですと?」
レイナはうなずく。
「殿下が“全て任せる”とおっしゃいました」
「ご確認をお願いしましたが、委任されました」
沈黙が落ちる。
大蔵卿が慎重に問う。
「殿下は、内容をご理解なさっておいでで?」
レイナは一瞬だけ視線を伏せる。
「ご署名は、いただいております」
それが答えだった。
軍務卿が低く言う。
「危険では」
レイナは書類を揃える。
「短期的には信用維持に有効です」
「王家保証の縮小により、市場は安定いたします」
理路整然とした説明。
誰も反論できない。
やがて大蔵卿が深く息を吐く。
「……承認いたします」
レイナは小さく頭を下げる。
会議は終了した。
官僚たちが退出していく。
誰もが不安を抱えたまま。
レイナはひとり、書類をまとめる。
その時、背後から声がした。
「勝手に決めるな」
振り返ると、アレスが立っていた。
いつから聞いていたのかは分からない。
「殿下」
レイナは立ち上がる。
アレスは机の書類を手に取る。
「女は裏で支えろと言ったはずだ」
「表で仕切るな」
レイナは落ち着いて答える。
「表の責任は、殿下にございます」
「私は補佐に過ぎません」
アレスは鼻で笑う。
「お前が全部やっている顔をするな」
「俺の名があれば足りる」
レイナは書類を差し出す。
「では、最終確認をお願いいたします」
アレスはちらりと見ただけで、書類を机に叩きつける。
「面倒だ」
「任せると言っただろう」
「俺のために働け」
その言葉は、命令だった。
レイナは一礼する。
「承知しております」
アレスは背を向ける。
「俺は王になる男だ」
「細かい数字はお前の仕事だ」
扉が閉まる。
静寂。
レイナはゆっくりと椅子に座る。
机の上には、王太子個人保証条項。
彼女はそれをもう一度確認する。
条文は正確。
合法。
問題はない。
ただひとつを除いて。
本人が理解していないこと。
レイナは小さく呟く。
「ご確認を、と申し上げました」
それでも任せると言った。
彼の言葉通りに処理するだけだ。
彼女は働きたくない。
だが、任された。
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その通りに、裏から。
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