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第十六話 廃嫡詔書作成
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第十六話 廃嫡詔書作成
王城・法務局執務室。
分厚い法典が机に積み上げられている。
燭台の火が揺れ、影が壁に長く伸びる。
法務卿は静かに口を開いた。
「文面は、これでよろしいかと」
向かいに座るのは王。
その表情に怒りはない。
あるのは、決断の重さだ。
机の上の一枚。
――王位継承権の剥奪。
――国家財務混乱の責任。
――保証主体変更による損害。
条文は冷たい。
感情は一切含まれていない。
王はゆっくりと頷いた。
「形式を整えよ」
「法的瑕疵は許されぬ」
法務卿が筆を取る。
言葉は慎重に選ばれる。
感情を排し、事実のみを並べる。
王は窓の外を見る。
遠く、王都の灯り。
かつては誇りだった城が、今は重い。
場面は変わる。
王城・応接の間。
アレスが呼び出される。
扉を開けると、机の上に書類が置かれている。
法務官が立っている。
「何だ」
アレスは苛立ちを隠さない。
「急用だと聞いた」
法務官は一礼する。
「署名をお願い申し上げます」
「何のだ」
「国家財務再建に伴う、権限整理書でございます」
アレスは鼻で笑う。
「また書類か」
「説明は簡潔にしろ」
法務官は条文を読み上げる。
だが早口ではない。
淡々と。
「王位継承権に関する調整条項」
「国家保証主体変更に伴う責任整理」
「財政混乱の収束を目的とする権限移譲」
アレスは苛立つ。
「要点だけ言え」
「一時的な権限整理でございます」
「国の混乱を鎮めるための形式措置」
“形式”。
その言葉に、彼は安心する。
「俺が王になるのは変わらんのだな」
法務官は一瞬だけ沈黙する。
「……現時点での混乱を収めるための処置でございます」
アレスは椅子に腰を下ろす。
書類をざっと眺める。
条文は長い。
専門用語が並ぶ。
「確認は必要か」
法務官は答える。
「ご確認の上、ご署名を」
アレスは苛立つ。
「時間がない」
「説明は済んだな」
「適当に押しておけと言っただろう」
その言葉が、静かに跳ね返る。
法務官は何も言わない。
ペンが差し出される。
アレスは署名する。
迷いなく。
インクが乾く。
法務官が印章を押す。
重い音が響く。
それは、確定の音だ。
アレスは立ち上がる。
「これで混乱は収まるのだな」
法務官は一礼する。
「法的には」
扉が閉まる。
静寂。
法務官は深く息を吐く。
補佐官が小声で言う。
「よろしいのですか」
「殿下は条文を読んでおりません」
法務官は淡々と答える。
「署名はある」
「確認を求めた」
それで足りる。
王城・執務室。
法務卿が書類を王に差し出す。
「署名、押印、完了いたしました」
王は目を閉じる。
「公示は明朝だ」
「王都全域に」
法務卿は深く一礼する。
場面はアルヴェルト公爵邸。
レイナ・アルヴェルトは報告を受ける。
「廃嫡詔書、作成完了」
「署名も確認済み」
レイナは静かに目を伏せる。
「そう」
怒りも喜びもない。
ただ、手順通り。
側近が問う。
「止めることはできましたか」
レイナは首を振る。
「確認は求めました」
「説明もしました」
「選択は、彼のものです」
窓の外、夜風が揺れる。
王城の塔は暗い。
王太子の名は、すでに過去形に近い。
王城・廊下。
アレスは歩く。
軽い。
書類は形式だ。
自分は戻る。
父も、やがて理解する。
そう信じている。
だが翌朝。
鐘が鳴る。
公示板に張り出される一枚。
――アレス・ヴァルディオン、王位継承権剥奪。
――国家財政混乱の責任を負う。
王都がざわめく。
商人が顔を見合わせる。
貴族が沈黙する。
兵が視線を逸らす。
署名はある。
確認は求められた。
読まなかったのは、本人。
廃嫡詔書は完成した。
それは陰謀ではない。
手続きだ。
冷たい。
正確な。
契約と同じように。
静かに、未来を決めた。
王城・法務局執務室。
分厚い法典が机に積み上げられている。
燭台の火が揺れ、影が壁に長く伸びる。
法務卿は静かに口を開いた。
「文面は、これでよろしいかと」
向かいに座るのは王。
その表情に怒りはない。
あるのは、決断の重さだ。
机の上の一枚。
――王位継承権の剥奪。
――国家財務混乱の責任。
――保証主体変更による損害。
条文は冷たい。
感情は一切含まれていない。
王はゆっくりと頷いた。
「形式を整えよ」
「法的瑕疵は許されぬ」
法務卿が筆を取る。
言葉は慎重に選ばれる。
感情を排し、事実のみを並べる。
王は窓の外を見る。
遠く、王都の灯り。
かつては誇りだった城が、今は重い。
場面は変わる。
王城・応接の間。
アレスが呼び出される。
扉を開けると、机の上に書類が置かれている。
法務官が立っている。
「何だ」
アレスは苛立ちを隠さない。
「急用だと聞いた」
法務官は一礼する。
「署名をお願い申し上げます」
「何のだ」
「国家財務再建に伴う、権限整理書でございます」
アレスは鼻で笑う。
「また書類か」
「説明は簡潔にしろ」
法務官は条文を読み上げる。
だが早口ではない。
淡々と。
「王位継承権に関する調整条項」
「国家保証主体変更に伴う責任整理」
「財政混乱の収束を目的とする権限移譲」
アレスは苛立つ。
「要点だけ言え」
「一時的な権限整理でございます」
「国の混乱を鎮めるための形式措置」
“形式”。
その言葉に、彼は安心する。
「俺が王になるのは変わらんのだな」
法務官は一瞬だけ沈黙する。
「……現時点での混乱を収めるための処置でございます」
アレスは椅子に腰を下ろす。
書類をざっと眺める。
条文は長い。
専門用語が並ぶ。
「確認は必要か」
法務官は答える。
「ご確認の上、ご署名を」
アレスは苛立つ。
「時間がない」
「説明は済んだな」
「適当に押しておけと言っただろう」
その言葉が、静かに跳ね返る。
法務官は何も言わない。
ペンが差し出される。
アレスは署名する。
迷いなく。
インクが乾く。
法務官が印章を押す。
重い音が響く。
それは、確定の音だ。
アレスは立ち上がる。
「これで混乱は収まるのだな」
法務官は一礼する。
「法的には」
扉が閉まる。
静寂。
法務官は深く息を吐く。
補佐官が小声で言う。
「よろしいのですか」
「殿下は条文を読んでおりません」
法務官は淡々と答える。
「署名はある」
「確認を求めた」
それで足りる。
王城・執務室。
法務卿が書類を王に差し出す。
「署名、押印、完了いたしました」
王は目を閉じる。
「公示は明朝だ」
「王都全域に」
法務卿は深く一礼する。
場面はアルヴェルト公爵邸。
レイナ・アルヴェルトは報告を受ける。
「廃嫡詔書、作成完了」
「署名も確認済み」
レイナは静かに目を伏せる。
「そう」
怒りも喜びもない。
ただ、手順通り。
側近が問う。
「止めることはできましたか」
レイナは首を振る。
「確認は求めました」
「説明もしました」
「選択は、彼のものです」
窓の外、夜風が揺れる。
王城の塔は暗い。
王太子の名は、すでに過去形に近い。
王城・廊下。
アレスは歩く。
軽い。
書類は形式だ。
自分は戻る。
父も、やがて理解する。
そう信じている。
だが翌朝。
鐘が鳴る。
公示板に張り出される一枚。
――アレス・ヴァルディオン、王位継承権剥奪。
――国家財政混乱の責任を負う。
王都がざわめく。
商人が顔を見合わせる。
貴族が沈黙する。
兵が視線を逸らす。
署名はある。
確認は求められた。
読まなかったのは、本人。
廃嫡詔書は完成した。
それは陰謀ではない。
手続きだ。
冷たい。
正確な。
契約と同じように。
静かに、未来を決めた。
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