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第1話: 王宮パーティーの予感
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第1話: 王宮パーティーの予感
夕刻の王宮は、華やかな灯火に包まれていた。
大理石の床に映る無数のシャンデリアの光。貴族たちの笑い声と、優雅な弦楽の調べが交錯する中、アプリリア・フォン・ロズウェルは静かに息を吸った。
黒髪を高く結い上げ、淡い水色のドレスに身を包んだ彼女は、今日も完璧な公爵令嬢だった。十八歳になったばかりのその容姿は、すでに王国で「黒薔薇の姫」と称されるほどに美しく、気品に満ちていた。
「アプリリア様、今日もお美しいですわ」
隣を歩くメイドのリオが、小声で囁く。茶色のポニーテールを揺らしながら、いつもの明るい笑顔を向けてくる。
「ありがとう、リオ。でも今日は少し緊張しているの」
アプリリアは微笑みながら答えた。
今日のパーティーは、彼女と第一王太子ルキノ・エドワードの婚約を祝うためのものだった。正式な婚約発表から一年。もうすぐ王太子妃として王宮に迎えられる日が近づいている。
ルキノは金髪に碧眼の、絵本から飛び出してきたような王子様だった。優しく、聡明で、国民にも人気がある。アプリリアは彼を愛していた。少なくとも、そう信じていた。
大広間に足を踏み入れると、貴族たちの視線が一斉に集まった。
「ロズウェル公爵令嬢のご到着です」
司会者の声が響き、アプリリアは優雅に一礼する。
ルキノがすぐに見つかった。
高台の玉座近くに立ち、周囲の令嬢たちに囲まれながら微笑んでいる。いつもの優しい笑顔だ。アプリリアの胸が温かくなった。
しかし――その笑顔のすぐ隣に、もう一人の少女がいた。
金髪を優美な巻き髪にまとめ、純白のドレスを纏ったエテルナ・フォン・ロズウェル。
アプリリアの異母妹。父レオンハルト公爵の妾腹の娘で、一年前に突然公爵家に迎え入れられた。
エテルナは最近、王宮で「聖女の候補」と噂されている。微弱ながら治癒の力を持っているらしい。その可憐な容姿と優しい物腰で、貴族たちの人気を集めていた。
アプリリアは少しだけ眉を寄せた。
エテルナの視線が、こちらを向いている。微笑んでいるようで、どこか冷たい光を宿しているように感じられた。
「アプリリア様、おはようございます」
エテルナが近づいてくる。優雅にスカートを摘んで礼をする姿は、完璧な貴族令嬢そのものだった。
「おはよう、エテルナ。今日も美しいわね」
アプリリアは穏やかに返した。血を分けた妹ではあるが、ほとんど会話したことがない。エテルナが公爵家に来てから、彼女はいつも距離を置いていた。
「ありがとうございます。お姉様こそ、王太子殿下に相応しいお姿ですわ」
エテルナの言葉は丁寧だったが、なぜかアプリリアの胸に小さな棘が刺さるような気がした。
その時、ルキノが二人に気づいて歩み寄ってきた。
「アプリリア、遅かったな」
ルキノはいつもの優しい笑顔で手を差し伸べる。アプリリアはその手を握り、軽くキスを交わす。周囲から拍手が起こった。
「ルキノ殿下、今日はお忙しい中ありがとうございます」
「君のためだよ。さあ、一緒に踊ろう」
ルキノにエスコートされ、アプリリアはダンスフロアへ。
優雅なワルツが始まる。ルキノの手は温かく、アプリリアは幸せに浸っていた。
しかし、視界の端でエテルナがこちらを見つめていることに気づいた。
その瞳には、明らかに嫉妬の色が浮かんでいた。
――なぜ、そんな目で私を見るの?
アプリリアは首を振った。考えすぎだ。きっとエテルナも、ただ緊張しているだけだろう。
ダンスが終わり、二人はテラスに出た。
夜風が心地よく、星空が美しかった。
「アプリリア、最近少し疲れているようだな」
ルキノが心配そうに言った。
「ええ、少しだけ。でもルキノ殿下がいてくださるから、大丈夫です」
アプリリアは微笑んだ。本当にそう思っていた。
ルキノは少し黙ってから、ふと視線を逸らした。
「……エテルナのことは、どう思う?」
突然の質問に、アプリリアは戸惑った。
「エテルナ? とても美しい子だと思うわ。聖女の力も持っているようだし……」
「そうか」
ルキノの返事は短かった。その声に、どこか迷いがあるように感じられた。
「ルキノ殿下?」
「いや、何でもない。さあ、戻ろう。パーティーも佳境だ」
ルキノは再び笑顔に戻ったが、アプリリアの胸に小さな不安が芽生えていた。
大広間に戻ると、エテルナがヴェゼル侯爵令嬢たちと一緒に立っていた。
アプリリアを見つけると、エテルナはにっこりと微笑んだ。
しかしその瞬間――
エテルナがルキノに近づき、何かを耳打ちする姿が見えた。
ルキノの表情が、わずかに曇る。
アプリリアの心臓が、どきりと鳴った。
――何を話しているの?
その答えは、すぐに明らかになることだった。
パーティーの終盤、王太子ルキノが壇上に立ち、全員の注目を集めた。
「皆さん、本日は我々の婚約を祝っていただき感謝する」
拍手が起こる。
「しかし――」
ルキノの声が、少し震えた。
「私は、ここで重要な発表をしなければならない」
アプリリアの背筋に、冷たいものが走った。
ルキノの視線が、こちらに向けられる。
その瞳には、いつもの優しさがない。
「アプリリア・フォン・ロズウェルとの婚約を、ここに解除する」
大広間が、静まり返った。
アプリリアの耳が、キーンと鳴った。
――え?
「理由は……アプリリアが、王妃として相応しくない性格であるためだ」
ルキノの言葉が、ゆっくりとアプリリアの心を切り裂いていく。
周囲から、ざわめきが広がる。
嘲笑。驚き。同情。そして――喜び。
エテルナが、静かに微笑んでいた。
アプリリアは、ただ立ち尽くすしかなかった。
これが、彼女の人生最大の屈辱の始まりだった。
夕刻の王宮は、華やかな灯火に包まれていた。
大理石の床に映る無数のシャンデリアの光。貴族たちの笑い声と、優雅な弦楽の調べが交錯する中、アプリリア・フォン・ロズウェルは静かに息を吸った。
黒髪を高く結い上げ、淡い水色のドレスに身を包んだ彼女は、今日も完璧な公爵令嬢だった。十八歳になったばかりのその容姿は、すでに王国で「黒薔薇の姫」と称されるほどに美しく、気品に満ちていた。
「アプリリア様、今日もお美しいですわ」
隣を歩くメイドのリオが、小声で囁く。茶色のポニーテールを揺らしながら、いつもの明るい笑顔を向けてくる。
「ありがとう、リオ。でも今日は少し緊張しているの」
アプリリアは微笑みながら答えた。
今日のパーティーは、彼女と第一王太子ルキノ・エドワードの婚約を祝うためのものだった。正式な婚約発表から一年。もうすぐ王太子妃として王宮に迎えられる日が近づいている。
ルキノは金髪に碧眼の、絵本から飛び出してきたような王子様だった。優しく、聡明で、国民にも人気がある。アプリリアは彼を愛していた。少なくとも、そう信じていた。
大広間に足を踏み入れると、貴族たちの視線が一斉に集まった。
「ロズウェル公爵令嬢のご到着です」
司会者の声が響き、アプリリアは優雅に一礼する。
ルキノがすぐに見つかった。
高台の玉座近くに立ち、周囲の令嬢たちに囲まれながら微笑んでいる。いつもの優しい笑顔だ。アプリリアの胸が温かくなった。
しかし――その笑顔のすぐ隣に、もう一人の少女がいた。
金髪を優美な巻き髪にまとめ、純白のドレスを纏ったエテルナ・フォン・ロズウェル。
アプリリアの異母妹。父レオンハルト公爵の妾腹の娘で、一年前に突然公爵家に迎え入れられた。
エテルナは最近、王宮で「聖女の候補」と噂されている。微弱ながら治癒の力を持っているらしい。その可憐な容姿と優しい物腰で、貴族たちの人気を集めていた。
アプリリアは少しだけ眉を寄せた。
エテルナの視線が、こちらを向いている。微笑んでいるようで、どこか冷たい光を宿しているように感じられた。
「アプリリア様、おはようございます」
エテルナが近づいてくる。優雅にスカートを摘んで礼をする姿は、完璧な貴族令嬢そのものだった。
「おはよう、エテルナ。今日も美しいわね」
アプリリアは穏やかに返した。血を分けた妹ではあるが、ほとんど会話したことがない。エテルナが公爵家に来てから、彼女はいつも距離を置いていた。
「ありがとうございます。お姉様こそ、王太子殿下に相応しいお姿ですわ」
エテルナの言葉は丁寧だったが、なぜかアプリリアの胸に小さな棘が刺さるような気がした。
その時、ルキノが二人に気づいて歩み寄ってきた。
「アプリリア、遅かったな」
ルキノはいつもの優しい笑顔で手を差し伸べる。アプリリアはその手を握り、軽くキスを交わす。周囲から拍手が起こった。
「ルキノ殿下、今日はお忙しい中ありがとうございます」
「君のためだよ。さあ、一緒に踊ろう」
ルキノにエスコートされ、アプリリアはダンスフロアへ。
優雅なワルツが始まる。ルキノの手は温かく、アプリリアは幸せに浸っていた。
しかし、視界の端でエテルナがこちらを見つめていることに気づいた。
その瞳には、明らかに嫉妬の色が浮かんでいた。
――なぜ、そんな目で私を見るの?
アプリリアは首を振った。考えすぎだ。きっとエテルナも、ただ緊張しているだけだろう。
ダンスが終わり、二人はテラスに出た。
夜風が心地よく、星空が美しかった。
「アプリリア、最近少し疲れているようだな」
ルキノが心配そうに言った。
「ええ、少しだけ。でもルキノ殿下がいてくださるから、大丈夫です」
アプリリアは微笑んだ。本当にそう思っていた。
ルキノは少し黙ってから、ふと視線を逸らした。
「……エテルナのことは、どう思う?」
突然の質問に、アプリリアは戸惑った。
「エテルナ? とても美しい子だと思うわ。聖女の力も持っているようだし……」
「そうか」
ルキノの返事は短かった。その声に、どこか迷いがあるように感じられた。
「ルキノ殿下?」
「いや、何でもない。さあ、戻ろう。パーティーも佳境だ」
ルキノは再び笑顔に戻ったが、アプリリアの胸に小さな不安が芽生えていた。
大広間に戻ると、エテルナがヴェゼル侯爵令嬢たちと一緒に立っていた。
アプリリアを見つけると、エテルナはにっこりと微笑んだ。
しかしその瞬間――
エテルナがルキノに近づき、何かを耳打ちする姿が見えた。
ルキノの表情が、わずかに曇る。
アプリリアの心臓が、どきりと鳴った。
――何を話しているの?
その答えは、すぐに明らかになることだった。
パーティーの終盤、王太子ルキノが壇上に立ち、全員の注目を集めた。
「皆さん、本日は我々の婚約を祝っていただき感謝する」
拍手が起こる。
「しかし――」
ルキノの声が、少し震えた。
「私は、ここで重要な発表をしなければならない」
アプリリアの背筋に、冷たいものが走った。
ルキノの視線が、こちらに向けられる。
その瞳には、いつもの優しさがない。
「アプリリア・フォン・ロズウェルとの婚約を、ここに解除する」
大広間が、静まり返った。
アプリリアの耳が、キーンと鳴った。
――え?
「理由は……アプリリアが、王妃として相応しくない性格であるためだ」
ルキノの言葉が、ゆっくりとアプリリアの心を切り裂いていく。
周囲から、ざわめきが広がる。
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