婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾

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第10話: 共同作戦の始まり

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第10話: 共同作戦の始まり

魔物の異常発生から一週間。  
黒薔薇の谷の周辺では、毎日のように小規模な襲撃が続いていた。

アプリリアのバリアと浄化の力で村は守られていたが、  
領民たちの疲労は蓄積し、アプリリア自身も力の消耗が激しかった。

そんなある朝、館の門前に騎士団の旗が翻った。

ガイアとカイルが、十人ほどの騎士を連れて現れたのだ。

銀髪の騎士団長は馬を降り、アプリリアの前に立った。

「魔物の巣窟を見つけた。  
森の奥、古代の遺跡だ。  
そこから魔物が湧き出している」

アプリリアは驚きと安堵が入り混じった表情で迎えた。

「ガイア様……わざわざありがとうございます」

ガイアは静かに首を振った。

「このままでは、領地が危ない。  
共同で討伐する」

カイルが明るく付け加える。

「団長が珍しく積極的だぜ!  
聖女様の領地だから、ってのもあるのかな~?」

ガイアが軽く睨むと、カイルは笑って肩をすくめた。

アプリリアは館の中に皆を招き入れ、作戦会議を開いた。

古い地図を広げ、ガイアが遺跡の位置を示す。

「遺跡の中心に、魔力を増幅する装置があるらしい。  
自然発生じゃない。  
誰かが意図的に仕掛けたものだ」

アプリリアの予知が、ぼんやりと王宮の影を映す。

――エテルナ。

まだ確証はない。  
だが、魔物の誘導は彼女の偽りの力と関係がある気がした。

「私も、行きます」  
アプリリアが静かに宣言した。

ガイアが眉を寄せる。

「危険だ。  
君は後方で――」

「私の浄化の力がなければ、装置を破壊できないかもしれません。  
予知でも、遺跡の中に強い魔力の結界を感じます」

ガイアは一瞬黙り、青い瞳でアプリリアを見つめた。

「……わかった。  
だが、俺の近くにいろ」

その言葉に、カイルがニヤリと笑う。

「団長、保護者モード全開だな!」

リオが、お茶を運びながら小声でアプリリアに囁く。

「アプリリア様~、ガイア様、めっちゃ心配してますよ~」

アプリリアは頰を赤らめながら、咳払いをした。

作戦は決まった。  
翌朝未明に出発。  
騎士団が前衛と側面を守り、アプリリアが浄化と治癒を担当。  
ガイアが中心を突破する。

その日の午後、準備の合間にアプリリアはガイアと二人で庭を歩いた。

「ガイア様、騎士団を動かしてくださって、本当に感謝しています。  
王国全体で魔物が増えているのに、この小さな領地のために……」

ガイアは足を止め、静かに言った。

「小さな領地じゃない。  
ここには、守るべき人々がいる」

その視線が、アプリリアをまっすぐ捉える。

「そして……君がいる」

アプリリアの心臓が、大きく跳ねた。

「ガイア様……」

「前回の森で、君の力を見た。  
心の傷を癒す光……  
あれは、俺の家族が死んだ時、欲しかったものだ」

ガイアの声は低く、どこか切なかった。

アプリリアはそっと手を伸ばし、ガイアの手に触れた。

「明日、無事に帰ってきたら……  
もっと、ゆっくりお話ししませんか?  
ガイア様の過去も、私のことも」

ガイアは一瞬、目を伏せた。  
やがて、小さく頷く。

「……ああ」

カイルが遠くから呼ぶ声が聞こえ、二人は離れた。

夕方、騎士団は館の近くに野営を張った。  
村人たちが感謝の料理を運び、皆で食事を囲む。

ガイアは無口だが、村の子供たちに剣の手ほどきをしていた。  
クールな顔で、でも丁寧に教える姿に、アプリリアは胸が温かくなった。

夜、アプリリアは一人で屋根に上がった。

星空の下、明日の作戦を思う。

――無事に、みんなが帰ってこれますように。

すると、足音がした。

ガイアが、隣に立っていた。

「……眠れないか?」

「ええ。少し、緊張して」

ガイアは無言で、アプリリアの隣に座った。

二人はしばらく、星を見上げていた。

「俺は……人を守ることでしか、生きてこなかった。  
家族を失ってから、剣しか信じられなかった」

ガイアの声は、静かだった。

アプリリアは優しく微笑んだ。

「でも、今は違うんでしょう?  
ここに来てくださった。  
私たちのために」

ガイアが、アプリリアを見た。

「君の光が……俺を変えたのかもしれない」

その言葉に、アプリリアの胸が熱くなった。

ガイアが、ゆっくりと手を伸ばす。  
アプリリアの黒髪に、そっと触れた。

「明日、絶対に守る。  
君を」

指先が、優しい。

アプリリアは頷き、ガイアの手を握り返した。

「私も、ガイア様を守ります」

二人の間に、静かな絆が生まれた。

遠くで、カイルが焚き火を囲む騎士たちと笑い声を上げている。  
リオは村人たちと話に花を咲かせている。

平和な夜。  
しかし、明日からは戦い。

アプリリアは心の中で誓った。

――この領地を、みんなを、絶対に守る。

そして、ガイアの寂しさを、少しずつ癒していく。

星が一つ、流れ落ちた。

願いを込めて。

共同作戦の前夜。  
二人の心は、確実に近づいていた。

遺跡の奥で、何かが蠢いている。  
王宮からの、暗い影。

だが、今はまだ――  
希望の灯りが、辺境を照らしていた。

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