完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第8話 王太子、取り返そうとして自爆する

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第8話 王太子、取り返そうとして自爆する

 舞踏曲が終わっても、大広間の視線は解けなかった。
 誰もが、次に起きる“何か”を待っている。

 その“何か”を、王太子レオンハルトは自ら用意した。

「セレナ」

 音楽が途切れた隙を狙い、彼は私の前に立った。
 周囲の貴族たちが、息を呑む。

「少し、話がある」 「申し訳ありません。公爵夫人として、単独行動は控えております」

 私は一歩、クロードの側に寄った。
 それだけで、殿下の眉がぴくりと動く。

「……公爵。これは、元婚約者同士の――」 「現在の身分を考慮すべきだな」

 クロードの声は低く、冷静だった。

「彼女は、我が国の公爵夫人だ。
 王太子殿下であっても、私の妻を“呼び出す”権限はない」

 大広間が、しんと静まり返る。

 ――言われた。

 はっきり、公開の場で。

 レオンハルトの顔色が、赤から青へと変わる。

「……私は、心配しているだけだ」 「ご配慮、痛み入ります」

 私は、にこやかに言った。

「ですが、私は自分の意思で、ここに立っています」

 殿下は、言葉を探している。
 そして――最悪の選択をした。

「君は、僕の元でこそ輝けた」

 ……ああ、言ってしまいましたね。

「僕がいなければ、君は評価されなかった。
 可愛げがない代わりに、使える――」

 途中で、空気が凍った。

 貴族たちの視線が、一斉に殿下へ突き刺さる。

「――失礼」

 低い声が割って入った。

 クロードだ。

「それは、侮辱だな」 「……何?」

「彼女の能力は、私が評価した。
 あなたではない」

 淡々と、しかし一切の逃げ道を与えない言い方。

「彼女は、あなたの“道具”ではない。
 あなたが評価しなかったものを、私は見た」

 レオンハルトの唇が、震えた。

「……なら、なぜ今まで黙っていた」 「必要がなかった」

 クロードは、きっぱりと言った。

「あなたは、彼女がいなくても回っている“つもり”だったからだ」

 ざわめきが起こる。

「……確かに」 「最近、王宮、混乱しているものね」 「セレナ様がいなくなってから……」

 噂は、火がついた藁のように広がる。

 レオンハルトは、ミリィの方を見た。

「……君は、どう思う?」

 突然振られたミリィは、肩を震わせた。

「……私は……」

 彼女は、少しだけ俯き――

「私は、セレナ様の代わりにはなれません」

 はっきりと、そう言った。

 殿下の目が、見開かれる。

「私には、可愛げしかない。
 それで誰かを支えることは、できませんでした」

 ミリィの声は、震えていたが、逃げなかった。

「殿下が求めていたのは、“可愛い私”じゃなくて……
 セレナ様の仕事だったんだと思います」

 ――止めだ。

 殿下は、一歩後ずさった。

「……違う」 「違いません」

 私は、静かに告げた。

「殿下は、“可愛げ”という言葉で、
 自分が依存していた事実から目を逸らしていただけです」

 会場が、完全に凍りついた。

 誰もが理解している。
 これはもう、取り返しがつかない。

「……もう一度、考え直せ」

 殿下は、最後の悪あがきをした。

「君は、あそこに戻るべきだ。
 公爵夫人など、仮の立場に過ぎない」

 私は、微笑んだ。

「殿下」

 一歩、前に出る。

「私が、もう戻らない理由を――
 今、ここで証明して差し上げますわ」

 そう言って、私はクロードを見る。

「公爵」 「なんだ」 「次の曲、お願いします」

 彼は、わずかに頷いた。

 音楽が流れ始める。

 私は、堂々とクロードの腕を取った。

 背後で、誰かが囁く。

「……もう、終わりね」 「ええ。完全に」

 踊りながら、私は思う。

(自爆って、
 こんなに静かで、綺麗なんですのね)


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