完璧すぎるので捨てられましたが、冷徹公爵と“白い結婚”したら元婚約者が先に壊れました

鷹 綾

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第33話 答えを出さないという選択が、壊れる

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第33話 答えを出さないという選択が、壊れる

 沈黙は、安全だった。

 少なくとも――
 そう信じていた。

 ***

 朝。

 城の空気が、わずかに張りつめている。
 理由は、誰も口にしない。

(……分かっていますわ)

 セレナは、鏡の前で静かに身支度を整えた。

 答えを出していない。
 選んでいない。
 それでも――

(“選ばない”という状態が、
 もう維持できない)

 胸の奥が、はっきりとそう告げている。

 ***

 クロードもまた、同じ朝を迎えていた。

 剣を手に取るが、
 稽古に向かう気になれない。

(……沈黙は、
 時間を稼ぐためのものだった)

 だが今は。

(現実を、
 先延ばしにしているだけだ)

 それに、気づいてしまった。

 ***

 昼前。

 執務の合間、
 近侍が報告を持ってくる。

「王都より使者が到着しております」 「……内容は」 「“後継と公爵家の安定”についての確認です」

 クロードは、目を閉じた。

(……来たか)

 外圧。
 だが、今回は“きっかけ”に過ぎない。

 均衡が、
 内部から崩れ始めていたからだ。

 ***

 その報告は、
 すぐにセレナにも届いた。

(やはり……)

 王都は、嗅ぎ取る。
 静けさの裏側を。

「……お話しする必要がありますわね」 「ええ」

 短いやり取り。
 だが、逃げ場はない。

 ***

 書斎。

 扉が閉じる音が、
 いつもより重く響いた。

 向かい合って座る二人。

 距離は、ある。
 だが、沈黙が耐えられない。

「……王都は」  セレナが口を開く。 「私たちの“曖昧さ”を、
 不安定と判断しました」

 クロードは、静かに頷いた。

「当然だ」

 否定はない。

「だが」  彼は、言葉を選ばず続けた。 「これは、
 王都の問題ではない」

 セレナは、息を吸った。

「……私たちの問題です」

 はっきりと。

 ***

 沈黙。

 しかし今回は、
 “待つための沈黙”ではない。

「……答えを出さない、
 という選択」  クロードが低く言った。 「それが、
 もう成り立たなくなっている」

 セレナは、視線を落とさずに答える。

「ええ。
 均衡は、壊れました」

 言い切り。

 それは、終わりの宣言だった。

 ***

「私は」  セレナが、ゆっくり言葉を紡ぐ。 「選ばないことで、
 自分を守ってきました」

 クロードは、何も言わない。
 遮らない。

「けれど今は」 「……?」

「選ばないことで、
 誰かを縛っている」

 自分を含めて。

 ***

 クロードが、深く息を吐いた。

「……私もだ」

 短く、だが重い。

「沈黙は、
 誠実さだと思っていた」 「ええ」

「だが」 「……?」

「誠実であることと、
 向き合わないことは、
 同じではない」

 その言葉が、
 決定的だった。

 ***

 セレナは、初めて視線を逸らした。

(……逃げられませんわね)

 そして、再び彼を見る。

「……今すぐ、
 答えを出す準備は」 「……まだだ」

 正直な返答。

 だが、続けて。

「だが」 「……?」

「沈黙のままでは、
 もういられない」

 それが、
 最低限の“選択”だった。

 ***

 セレナは、静かに頷いた。

「ええ。
 私も同じです」

 完全な答えではない。
 だが――

 逃げないという意思。

 それだけで、
 均衡は壊れ、
 次の段階が始まる。

 ***

 夜。

 それぞれの部屋。

 セレナは、窓辺で小さく呟いた。

「……沈黙は、
 もう選択ではない」

 クロードも、同じ夜空を見上げていた。

(……答えを出さないという道は)

(もう、
 存在しない)

 白い結婚。
 距離。
 均衡。

 それらが壊れた今、
 残る道は一つ。

 向き合うこと。

 たとえ、
 まだ言葉にできなくても。

 答えを出さないという選択は、
 確かに――
 ここで、終わった。


---
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