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第1話 永遠に十七歳なんて、呪いに決まっている
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第1話 永遠に十七歳なんて、呪いに決まっている
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「おめでとうございます。貴女は永遠に美しい十七歳のままです――ただし、死ぬまで」
三百年前、その言葉を告げた聖職者の声を、キクコ・イソファガスは今でもはっきり覚えている。
祝福の儀式のはずだった。
世界を救った“聖女”に与えられる、神からの恩寵。
誰もが羨み、誰もが喝采を送った奇跡。
だが――。
「……ふざけないで」
当時のキクコは、そう呟いた。
それが祝福ではなく、呪いだと、彼女だけは本能的に理解していたからだ。
◆ ◆ ◆
現在。
イソファガス領の朝は、静かで穏やかだった。
春の陽光が大きな窓から差し込み、紅茶の湯気が柔らかく立ちのぼる。
「……ああ、やっぱり今日も十七歳ね」
鏡の前で、キクコは自分の顔を眺めて小さく溜息をついた。
艶のある銀色の髪。
張りのある肌。
どこからどう見ても、成長途中の少女そのもの。
それが三百年、まったく変わらない。
「白髪一本増えないのも、それはそれで恐怖よ」
キクコ・イソファガス。
表向きは、イソファガス領主の“孫娘”。
社交界でも「少し変わったが、才気ある貴族令嬢」として知られている。
だが真実を知る者は、ごく一部しかいない。
この屋敷で彼女に仕える老執事ガイウスも、そのひとりだった。
「おはようございます、キクコ様。本日もお変わりなく」
「ええ、見ての通り。三百年くらい変わってないわ」
「それを“変わりなく”と仰る方も、なかなかおりません」
ガイウスは微苦笑を浮かべながら、紅茶を注ぐ。
白髪に深い皺を刻んだ老執事は、彼女よりはるかに年下だ。
それでも彼は、最初から彼女を“キクコ様”として敬っている。
「今日の予定は?」
「帝国より正式な招待状が届いております。皇帝陛下主催の舞踏会へのご招待です」
「……また面倒なのが来たわね」
キクコは扇子を開き、ぱたぱたと仰いだ。
「断れないの?」
「“皇帝陛下直々”となると、さすがに……」
「でしょうね」
三百年も生きていると、分かることがある。
“断れる誘い”と“断ると後が厄介な誘い”の違いだ。
「どうせ、またよ。若い令嬢だと思われて、値踏みされる」
「キクコ様は、実際お若く見えますから」
「見える、じゃないの。そう“見せられている”の」
キクコは紅茶を一口飲み、静かに言った。
「年を取らないってことはね、周囲だけが変わっていくってことよ」
かつて共に戦った仲間たちは、老い、死に、歴史になった。
彼女だけが、時間の外に取り残されている。
「羨ましいって、よく言われるわ」
永遠の若さ。
衰えぬ美貌。
だが、その言葉を向ける者たちは、決してその先を想像しない。
「隣にいた人が、ある日突然“おばあちゃん”になっている恐怖を」
ガイウスは何も言わず、ただ静かに耳を傾けていた。
「……ま、いいわ。舞踏会くらい、行ってあげる」
キクコは立ち上がり、窓の外を見た。
領都の街並みは活気に満ち、人々はそれぞれの“今”を生きている。
「どうせ、私は“十七歳の令嬢”だもの」
そう、誰も知らない。
この少女が、三百年前に世界を救った“元聖女”であることも。
この国の血筋の根に、彼女がいることも。
そして――。
「……永遠の十七歳が、どれだけ重たいかなんて」
誰にも教えるつもりはなかった。
キクコ・イソファガスは、今日もまた“孫娘”として微笑む。
その裏で、時間の重みを一身に背負いながら。
これは、祝福を呪いとして生きる少女の物語。
そして、誰よりも長く世界を見続けた彼女が、再び運命に引きずり出されるまでの、ほんの序章に過ぎない。
――永遠に十七歳なんて、呪いに決まっているのだから。
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「おめでとうございます。貴女は永遠に美しい十七歳のままです――ただし、死ぬまで」
三百年前、その言葉を告げた聖職者の声を、キクコ・イソファガスは今でもはっきり覚えている。
祝福の儀式のはずだった。
世界を救った“聖女”に与えられる、神からの恩寵。
誰もが羨み、誰もが喝采を送った奇跡。
だが――。
「……ふざけないで」
当時のキクコは、そう呟いた。
それが祝福ではなく、呪いだと、彼女だけは本能的に理解していたからだ。
◆ ◆ ◆
現在。
イソファガス領の朝は、静かで穏やかだった。
春の陽光が大きな窓から差し込み、紅茶の湯気が柔らかく立ちのぼる。
「……ああ、やっぱり今日も十七歳ね」
鏡の前で、キクコは自分の顔を眺めて小さく溜息をついた。
艶のある銀色の髪。
張りのある肌。
どこからどう見ても、成長途中の少女そのもの。
それが三百年、まったく変わらない。
「白髪一本増えないのも、それはそれで恐怖よ」
キクコ・イソファガス。
表向きは、イソファガス領主の“孫娘”。
社交界でも「少し変わったが、才気ある貴族令嬢」として知られている。
だが真実を知る者は、ごく一部しかいない。
この屋敷で彼女に仕える老執事ガイウスも、そのひとりだった。
「おはようございます、キクコ様。本日もお変わりなく」
「ええ、見ての通り。三百年くらい変わってないわ」
「それを“変わりなく”と仰る方も、なかなかおりません」
ガイウスは微苦笑を浮かべながら、紅茶を注ぐ。
白髪に深い皺を刻んだ老執事は、彼女よりはるかに年下だ。
それでも彼は、最初から彼女を“キクコ様”として敬っている。
「今日の予定は?」
「帝国より正式な招待状が届いております。皇帝陛下主催の舞踏会へのご招待です」
「……また面倒なのが来たわね」
キクコは扇子を開き、ぱたぱたと仰いだ。
「断れないの?」
「“皇帝陛下直々”となると、さすがに……」
「でしょうね」
三百年も生きていると、分かることがある。
“断れる誘い”と“断ると後が厄介な誘い”の違いだ。
「どうせ、またよ。若い令嬢だと思われて、値踏みされる」
「キクコ様は、実際お若く見えますから」
「見える、じゃないの。そう“見せられている”の」
キクコは紅茶を一口飲み、静かに言った。
「年を取らないってことはね、周囲だけが変わっていくってことよ」
かつて共に戦った仲間たちは、老い、死に、歴史になった。
彼女だけが、時間の外に取り残されている。
「羨ましいって、よく言われるわ」
永遠の若さ。
衰えぬ美貌。
だが、その言葉を向ける者たちは、決してその先を想像しない。
「隣にいた人が、ある日突然“おばあちゃん”になっている恐怖を」
ガイウスは何も言わず、ただ静かに耳を傾けていた。
「……ま、いいわ。舞踏会くらい、行ってあげる」
キクコは立ち上がり、窓の外を見た。
領都の街並みは活気に満ち、人々はそれぞれの“今”を生きている。
「どうせ、私は“十七歳の令嬢”だもの」
そう、誰も知らない。
この少女が、三百年前に世界を救った“元聖女”であることも。
この国の血筋の根に、彼女がいることも。
そして――。
「……永遠の十七歳が、どれだけ重たいかなんて」
誰にも教えるつもりはなかった。
キクコ・イソファガスは、今日もまた“孫娘”として微笑む。
その裏で、時間の重みを一身に背負いながら。
これは、祝福を呪いとして生きる少女の物語。
そして、誰よりも長く世界を見続けた彼女が、再び運命に引きずり出されるまでの、ほんの序章に過ぎない。
――永遠に十七歳なんて、呪いに決まっているのだから。
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