婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾

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第13話 辺境生活スタート! しかし“夫婦としての最初の問題”が発生する件

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◆第13話

「辺境生活スタート! しかし“夫婦としての最初の問題”が発生する件」

アイシスが辺境伯城で暮らし始めて三日目。

朝は静かに始まり、
昼は読書と散歩、
夕方は軽い茶会――

(……最高のスローライフですわ)

それは、
婚約破棄後に彼女が夢見ていた理想そのものだった。

ただ一点を除けば。

その一点とは――

“夫(仮)であるライナルトが、とにかく距離を取る”
という問題である。


---

◆夫婦の距離:5メートル(固定)

侍女ミランダが、そっと報告してきた。

「お嬢様……本日の辺境伯様、
 アイシス様との距離を“ついに4メートル80”まで縮めたそうです」

「……縮めた、という言い方なのね?」

「はい、皆さん本気で“距離測定”をしています」

(ここは軍隊かしら?)

実際、廊下を歩いていても――

アイシスが前を歩く

その5メートル後方をライナルトがついてくる

という謎の構図が成立している。

距離が縮まらないのは、
女性恐怖症ゆえの防衛本能だ。

しかし。

アイシスはふと、思う。

(……このままでは、“白い結婚”以前に
 “夫婦として会話もできない”わね)

自由なのはありがたい。
干渉がないのも好都合。

だけど――
最低限の会話は必要。

(少し……距離を縮めてもいい頃かしらね)

そんな折、
クレストが控えめにノックしてきた。

「アイシス様。
 本日、城内をご案内したいとの主のご希望がございます」

「まあ……ライナルト様が?」

「はい。ただし“遠隔案内”になります」

「遠隔?」

クレストは咳払いし、説明した。

「主は、女性と二人で長時間歩くと倒れるので……
 廊下の少し離れた位置から説明をする形に……」

アイシス(内心)
(それ案内って言うの?)


---

◆辺境伯、がんばって案内するが……

案内はこうだった。

アイシスとミランダが歩く。

10メートル後方から、ライナルトの声が響く。

「こ、こちらが……図書廊です……っ!
 希少書が……お、お……多い……です……!」

声が裏返っている。

(でも……頑張っているのね)

アイシスが振り向くと、
ライナルトは慌てて柱の影に隠れた。

(隠れるのはやめてほしいのだけれど……)

それでも、
彼が必死に案内を続ける姿は微笑ましかった。

「こ、ここは……訓練場……で……す……っ!」

しかし、振り向いた瞬間――

アイシスの視線と、
ライナルトの視線が一瞬だけぶつかった。

ライナルト「ひっ……!!」

バンッ!!
→ 訓練場の壁に激突。

クレスト「主ぃぃ!!?」

アイシス
(この人、怪我しないかしら……)


---

◆第一次夫婦問題:距離が縮まらない

案内が終わったあと、
アイシスはクレストを呼び止めた。

「……クレスト様。
 ライナルト様は、このままでは……その……」

「“夫婦生活が成立しない”ですね?」

「…………ええ」

クレストは少しだけ苦笑した。

「主は、アイシス様に嫌われたくないあまり、
 逆に近づけなくなっておられるのです」

「……私に嫌われたくない?」

「はい。昨日からずっと言っています」

アイシスの胸が、少しだけ熱くなる。

(……そんなに気にしてくれているの?
 なんだか……ふふ……可愛いわね)

しかし同時に、
問題点がはっきりした。

このままでは
“白い結婚”どころか
“話すことすらできない夫婦”になってしまう。

だからアイシスは、
決意して言った。

「距離を縮めるための方法……
 ひとつ、試してみますわ」

クレストが眉を上げる。

「アイシス様が直接なさるのですか?」

「ええ。
 このままでは、ライナルト様がずっと困ったままですもの」

(……そして、私もなんだか落ち着かない)

そう、アイシスの中にあるのは――
“放っておけない”という気持ち。

白い結婚のはずなのに。
自由だけを求めていたはずなのに。

ライナルトの不器用さと誠実さに、
いつの間にか心が揺れている。


---

◆アイシスの“作戦”が始まる

その日の夕方。
ライナルトが執務室に戻ると――

扉の前に、
アイシスが立っていた。

ライナルト
「っっ!!?!?!?!?!?!?」

扉ノブを握ったまま硬直。

アイシスは落ち着いた笑みを浮かべ、
穏やかな声で言った。

「こんばんは、ライナルト様。
 今日の案内、とても嬉しかったですわ」

「う……っ……!!!?」

顔が真っ赤→青→赤→紫
忙しすぎる。

そして――

「少し……お話、しませんか?」

その一言に、
ライナルトの心臓は完全に爆発した。

「お、おおお話……!?
 ふたりきりで……!?
 む、むり……っ!! 無理無理無理無理……っ!!」

走って逃げようとする辺境伯。

クレスト(遠くから)
「主!! 廊下を走るな!!」

アイシス(内心)
(……やっぱり難易度が高いわね)

でも、あきらめるつもりはなかった。

(だって……“夫婦”になるなら、
 この距離のままではいけませんもの)

白い結婚のはずだった。
ただの形式のはずだった。

でも。

――アイシスの心は、すでに少しずつ、
ライナルトへ向いていた。


---
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