婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾

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第19話 王太子、崩れ落ちる証言

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第19話 王太子、崩れ落ちる証言

 謁見の間に、重苦しい静寂が落ちた。
 王の合図で、審問官たちが席につく。

「ではまず、テオドリック王太子より、婚約破棄に至った経緯を説明してもらおう」

 王の声に、テオドリックはビクリと肩を跳ねさせた。
 しかし皆の視線が集中する中、震える声で口を開く。

「え、ええと……その……アイシスは……冷たかったんだ!」

 貴族たちがざわめく。

「冷たかった……?」
「理由として弱いのでは……?」

 テオドリックは焦り、早口になる。

「そうだ! アイシスは俺に一度も笑ってくれなかった!
 可愛げがないし、そっけなくて……!」

 王妃は呆れたように眉を寄せた。

「笑顔の数が婚約破棄の理由……?
 王太子としての責務を忘れていませんか?」

「い、いやでも! エミーラは優しかったんだ!
 俺を肯定してくれて、癒してくれて……!」

 すると、司法長官レグナードが鋭い声を放った。

「そのエミーラ嬢は現在、行方不明。
 彼女の証言は矛盾だらけ。
 殿下、ほかに“確固たる根拠”は?」

「えっ……えっと……」

 テオドリックは口を開けたまま固まった。
 汗が額を伝い、目は泳ぎ続けている。

 アイシスは静かにその様子を見つめていた。

(……この方は、本当に。
 自分がどれほど軽率だったか、まだ気づけていないのですね)


---

■王からの痛烈な指摘

「テオドリックよ」

 国王の重い声に、テオドリックがビクッと震える。

「“笑ってくれないから婚約破棄”などと、
 この国の民に説明できると本気で思っているのか?」

「ち、ちが……!」

「責務とは“好き嫌い”を超えるものだ。
 王家に生まれながら、それが理解できておらぬとは情けない」

「父上……!」

 王太子の足が震え、ついに膝が折れた。


---

■アイシス、ついに口を開く

 審問官が視線を向ける。

「では次に、アイシス様からご説明を」

 アイシスは一歩進み、堂々と答えた。

「私は殿下に冷たくした覚えはございません。
 ただ、勉学や礼儀作法、政治の勉強に時間を費やしておりました。
 それらは、いつか殿下を支えるために必要だと考えたからです」

 会場がざわめいた。

「努力していた……のか」
「真面目すぎるほどの令嬢ではないか……」

 アイシスは続ける。

「殿下は、私の努力の“成果”だけをご覧になり、
 努力そのものには興味を示されませんでした。
 それが“そっけなさ”と誤解されたのでしょう」

 王妃が小さく頷く。

「確かに……。アイシスは昔から真面目な子でした」


---

■そして反撃の時

 アイシスがそっと手を上げると、背後から護衛が一つの書類束を持ってきた。

「続いて、こちらをご覧くださいませ」

「これは……?」

「エミーラ嬢が密かに受け取っていた金銭の明細書でございます。
 “ある人物”から莫大な贈り物や支援金が継続的に送られていました」

 審問官たちが一斉に目を光らせた。

「これは重大な証拠だぞ……!」
「こんな巨額、誰が……?」

 テオドリックだけが血の気を失う。

「ちょ、ちょっと待て……なんでそんなものが……!」

 アイシスは静かに、しかしはっきりと言った。

「殿下。
 あなたは“エミーラを本当に愛していた”のではありません。
 ただ、甘くしてくれる存在に依存しただけです」

「っ……!」

「さらに申し上げますと……」

 アイシスは手紙をもう一通掲げた。

『エミーラ嬢が受け取った贈り物の送り主』
その署名を見た瞬間——謁見の間が凍りついた。

 署名には、はっきりとこう記されていた。

“テオドリック・ヴァレンタイン”

「え……?」
「殿下自ら、平民の娘にここまで……?」
「これは……国家転覆に近い愚行では……?」

 貴族席がざわつき、王妃が目を覆う。

 王は深いため息をついた。

「……テオドリック。
 そなたは、なぜこれを隠していた?」

「ち、違! 違うんだ父上!!
 ただ……エミーラが喜ぶと思って……!」

「その軽はずみが、どれほど王家の信用を損ねるか分からぬか!!」

 雷鳴のような叱責に、テオドリックは崩れ落ちる。


---

■アイシスの静かな宣言

 アイシスは深く礼をした。

「私は本日、事実のみを述べました。
 殿下を傷つけるためではありません。
 ただ、真実を明らかにしたまでです」

 毅然としたその姿に、貴族たちから小さな拍手が起こった。

(強い……!)
(これが、本来のアイシス様だったのか……)

 王妃はそっと微笑む。

「あなたは立派です、アイシス。
 いずれにせよ、王家はあなたという女性を失ったのですね……」

 テオドリックは地面に崩れたまま、震える声でつぶやいた。

「な……んで……
 なんでアイシスの方が、王家より支持されてるんだ……?」

 その問いに、アイシスはほんの少しだけ微笑んだ。

「殿下。
 人の心は、誠実さにこそ動くものですわ。」


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