婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾

文字の大きさ
35 / 40

第35話 国家改革の要請と、再び動き出す影

しおりを挟む
第35話 国家改革の要請と、再び動き出す影

 レオニール殿下が領地を訪れてから二日後。
 屋敷に王家の紋章が刻まれた重厚な書簡が届いた。

「また……王家からですの?」

 アイシスは苦笑しつつ封を切った。

 文面を読み進めると──

(……これは……)

 息を飲んだ。


---

■王家からの正式依頼

『王国全土の行政・教育・農地改革について、
 アイシス・ヴェルステッド殿に監修を依頼したい』

「国、全体……?」

 膨大な責任だ。
 名誉でもあるが、同時に国の未来を背負うという意味でもある。

 バルド老執事が書簡を読みながら言う。

「お嬢様が領地改革で示された成果を、王国が本格的に取り入れたいのでしょう。
 王都では“アイシス様こそ未来の指導者”という声まで出ております」

「過大評価ですわ……そんな……」

「しかし事実、三年間で領地が大きく変わったのは
 お嬢様の戦略と行動があってこそです」

 褒め言葉なのに、アイシスは胸が重くなる。

(改革……私が関わることで、本当に国は良くなるのかしら?
 また誰かを巻き込んでしまわない……?)

 迷いが胸に広がった。


---

■王都──沈んだ王太子の耳にも届く

 一方王城。
 謹慎中のスティアスのもとにも噂が届いていた。

「アイシスが……国の改革を……?」

 愕然とするスティアス。

「僕の……僕の婚約者だったはずなのに……
 どうして……どうして僕じゃなくて……」

 誰も答えられない。

 ただ、時間だけが彼を置き去りにしていった。


---

■同時期、別の場所──エミーラ復活

 王都の片隅、薄暗いレンガ造りの宿。

 エミーラは鏡の前で髪を整えながら、目を細めた。

「……ふん。
 王太子が終わり? だから何?
 私には“別のルート”があるわ」

 机には、新しい後援者から送られた金貨の袋。

『アイシスを引きずり落とせ。
 成功すれば、貴族階級への取り立てを保証する』

「どうやら……まだ利用価値があるみたいね」

 エミーラの唇に、不気味な笑みが浮かんだ。


---

■領地──相談相手は、やはりあの人

 書簡を前に悩んでいたアイシスのもとへ、訪問者が現れた。

「また考え込んでいるのか、アイシス嬢」

「れ、レオニール殿下……!」

 ちょうど会いたいと思っていた相手が現れ、心が揺れる。

「国全体の改革監修……重い話ですわ。
 本当に私でいいのか、迷ってしまって」

 アイシスは正直に打ち明けた。

 レオニールは少し微笑んで答える。

「迷うというのは、責任を理解している証拠だ。
 だからこそ──君に頼みたいのだと思う」

「……殿下」

「それに、君ひとりで背負う必要はない。
 私も支える。
 王家も、領民も、必要ならこの国の誰もが、だ」

 その優しい声に、アイシスの胸が少し軽くなった気がした。

(……なぜこの方の言葉は、こんなに心に沁みるのでしょう)

 自分でも理由がわからず、視線を落とした。


---

■領民たちの誤解は今日も順調です

 そこへ使用人が部屋に飛び込んできた。

「お嬢様! 外が……外が大変です!!」

「また何ですの!?」

 外に出ると、領民たちがざわめきながら何かを書いていた。

「お嬢様、国家改革に携わるんですよね!?
 じゃあ我々も応援旗を──!」

「“祝・未来の指導者 アイシス様”ってどうです?」

「殿下と共に国を変えるって……素敵だ!!」

「だからなぜ恋愛方向に決めつけますの!!?」

 アイシスの悲鳴が夕空に響いた。

 しかし、レオニールはどこか嬉しそうに苦笑している。

(……もう、本当に……
 皆さまと殿下のせいで、落ち着いて悩む暇がありませんわ)

 だが、不思議と嫌ではなかった。


---

■アイシスの胸に芽生えたもの

 夜、ひとりになったアイシスは、書簡を見つめる。

(国の未来……
 こんな大きな話を、どうして私に……)

 だが同時に、殿下の言葉が脳裏で響く。

『君が望む未来を選べ』

『私は、君を支えたい』

(……支えたい、なんて)

 あの言葉を思い出すだけで胸が熱くなる。

(私は──)

 胸に芽生え始めた感情を、
 まだ名前では呼べなかった。

 だが、それは確かに彼女を変えつつあった。


---

■そして動き出す次の幕

 翌朝。
 王城から新たな急使が到着した。

『至急、アイシス殿を王都に招集したい。
 国家改革に関する初会議を開く』

「また……王都へ?」

 その瞬間、アイシスは直感した。

(これは……大きく動きますわね)

 新しい未来へ踏み出す準備が、静かに始まっていた。


---

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

処理中です...