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第10話 新しい婚約
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第10話 新しい婚約
公爵城の大広間は、静かな緊張に包まれていた。
集められたのは、グラーツ公国の重臣たち。
華やかな社交の場ではなく、あくまで公式の発表のための場だ。
私はアンクレイブの隣に立っていた。
豪奢すぎないが、格を示すドレス。
背筋を伸ばし、視線を前に。
――公爵夫人として、初めて公の場に立つ。
「諸君」
アンクレイブが一歩前に出る。
「本日集まってもらったのは、私事に関する報告のためだ」
私事、とは言いながら、声はいつも通り淡々としている。
だが、その言葉だけで、場の空気が一段引き締まった。
「このたび――」
彼は、私を一瞥する。
「エリーカ・フォルティス伯爵令嬢と、婚約した」
ざわり、と小さなどよめきが走った。
驚き。
戸惑い。
そして、値踏み。
それらすべてを、私は静かに受け止める。
「形式的な婚約ではない。
彼女は、今後グラーツ公国の公爵夫人となる」
重臣の一人が、思い切ったように口を開いた。
「……失礼ですが、公爵。
彼女は元・王太子の婚約者と聞いておりますが」
「事実だ」
即答。
だが、そこに揺らぎはなかった。
「だからこそ、迎える」
短いが、はっきりした言葉。
「能力と実績に問題はない。
むしろ――」
一拍置いて、アンクレイブは続けた。
「彼女は、すでに本日から領政補佐に関与している」
今度は、はっきりとしたざわめきが起きた。
私は一歩前に出て、一礼する。
「エリーカ・フォン・グラーツです。
微力ながら、公国の発展に尽力いたします」
形式的な挨拶。
だが、どこかの誰かの“飾り”になるつもりはない。
重臣たちの視線が、一斉に私へ向く。
――試されている。
それは、王都でも何度も経験してきたことだ。
数秒の沈黙の後、年配の重臣が口を開いた。
「……公爵が選ばれたのなら、異論はありません」
それに続き、他の者たちも頷く。
完全な受容ではない。
だが、拒絶もない。
(十分ね)
少なくとも、この国では、
“役に立つかどうか”が評価基準だ。
発表が終わり、重臣たちが退出していく。
大広間には、私とアンクレイブだけが残った。
「……これで、正式だな」
「ええ」
私は小さく息を吐いた。
「思ったより、波風は立ちませんでした」
「この国では、成果がすべてだ」
彼は淡々と言う。
「結果を出せば、誰も文句は言わない」
――実に、わかりやすい。
その日の午後。
婚約の知らせは、正式文書として各国へ送られた。
当然、王都にも届く。
そこでは、すぐに噂が広がった。
『追放された令嬢が、隣国に売られたらしい』
『冷徹公爵のもとで、冷遇されているとか』
『形式だけの婚約だそうだ』
――どれも、事実の一部でしかない。
だが、それでいい。
私は、窓辺に立ち、グラーツの街を見下ろした。
(ここからね)
婚約破棄され、追い出された令嬢は、
今や隣国の公爵夫人。
王都の誰もが想像していない形で、
私の人生は動き出している。
――そして。
この“新しい婚約”が、
元婚約者たちに何をもたらすのか。
それを知るのは、
もう少し先の話だ。
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公爵城の大広間は、静かな緊張に包まれていた。
集められたのは、グラーツ公国の重臣たち。
華やかな社交の場ではなく、あくまで公式の発表のための場だ。
私はアンクレイブの隣に立っていた。
豪奢すぎないが、格を示すドレス。
背筋を伸ばし、視線を前に。
――公爵夫人として、初めて公の場に立つ。
「諸君」
アンクレイブが一歩前に出る。
「本日集まってもらったのは、私事に関する報告のためだ」
私事、とは言いながら、声はいつも通り淡々としている。
だが、その言葉だけで、場の空気が一段引き締まった。
「このたび――」
彼は、私を一瞥する。
「エリーカ・フォルティス伯爵令嬢と、婚約した」
ざわり、と小さなどよめきが走った。
驚き。
戸惑い。
そして、値踏み。
それらすべてを、私は静かに受け止める。
「形式的な婚約ではない。
彼女は、今後グラーツ公国の公爵夫人となる」
重臣の一人が、思い切ったように口を開いた。
「……失礼ですが、公爵。
彼女は元・王太子の婚約者と聞いておりますが」
「事実だ」
即答。
だが、そこに揺らぎはなかった。
「だからこそ、迎える」
短いが、はっきりした言葉。
「能力と実績に問題はない。
むしろ――」
一拍置いて、アンクレイブは続けた。
「彼女は、すでに本日から領政補佐に関与している」
今度は、はっきりとしたざわめきが起きた。
私は一歩前に出て、一礼する。
「エリーカ・フォン・グラーツです。
微力ながら、公国の発展に尽力いたします」
形式的な挨拶。
だが、どこかの誰かの“飾り”になるつもりはない。
重臣たちの視線が、一斉に私へ向く。
――試されている。
それは、王都でも何度も経験してきたことだ。
数秒の沈黙の後、年配の重臣が口を開いた。
「……公爵が選ばれたのなら、異論はありません」
それに続き、他の者たちも頷く。
完全な受容ではない。
だが、拒絶もない。
(十分ね)
少なくとも、この国では、
“役に立つかどうか”が評価基準だ。
発表が終わり、重臣たちが退出していく。
大広間には、私とアンクレイブだけが残った。
「……これで、正式だな」
「ええ」
私は小さく息を吐いた。
「思ったより、波風は立ちませんでした」
「この国では、成果がすべてだ」
彼は淡々と言う。
「結果を出せば、誰も文句は言わない」
――実に、わかりやすい。
その日の午後。
婚約の知らせは、正式文書として各国へ送られた。
当然、王都にも届く。
そこでは、すぐに噂が広がった。
『追放された令嬢が、隣国に売られたらしい』
『冷徹公爵のもとで、冷遇されているとか』
『形式だけの婚約だそうだ』
――どれも、事実の一部でしかない。
だが、それでいい。
私は、窓辺に立ち、グラーツの街を見下ろした。
(ここからね)
婚約破棄され、追い出された令嬢は、
今や隣国の公爵夫人。
王都の誰もが想像していない形で、
私の人生は動き出している。
――そして。
この“新しい婚約”が、
元婚約者たちに何をもたらすのか。
それを知るのは、
もう少し先の話だ。
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