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第一章 冒険の備忘録

第4話 2番目の牙

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第四話 2番目の牙


『本当にそんな事が可能なんですか?変態さん?』


 由香里が首を傾げる。


『でも、この三人だとそれしかないでしょ。最前を尽くしましょう』

 巳波も納得はしていないものの、それで行こうと腹を括る。


『じゃあ、これ、さっき言ってたやつ。タイミングが重要だから間違えないでね。』


 後ろに置いてあった荷物の中の大袋の中に手を突っ込み、青黒く光る手乗りサイズの石と鈍く光る魔法瓶を渡す。中には熱々のお湯のような物が入っていて揺するとチャポチャポ音がした。


『まぁ、失敗してもみんな仲良くあの世に行くだけだし、腹を括ろう。さて、完全に硬直が解ける前にこっちも一つやっておくかな』


 軽く口を開き、鼻からめい一杯空気を体に取り込む。見る見るうちに肺が膨らみ、体が逸れていき一瞬息を止め、次の瞬間この世の物とは思えないぐらいの爆音が響き渡る。


『生き残ってるお前らー。思うのは自由だけどな。巳波が指揮者として、未熟だっていいたいのか?指揮者が過ちを犯すのは誰かを指揮するっていう勇気があったからだ。何もしてないどころか、人に頼ることしかできなかったお前らが言うんじゃねー。これから俺たちは巳波が新たに立てた作戦で三人だけであいつを倒してここにいる全員を救う。その薄汚い目ん玉穿り出してよく見とけ!!』


 片手剣を抜き取り、ズボンのポケットの中から緑色の羽と黒い結晶を取り出す。手早く羽を峰に触れさせ、刀身に取り込ませる。黒い結晶は歯で噛み砕き、そのまま飲み込む。


『何であんなに小っ恥ずかしい事口走るの?智が立てた作戦なんだから、あんたの手柄にすれば?』


 巳波がそう言ったところで人差し指で強引に口を塞がれる。


『頑張っている人にはご褒美があっても良いでしょ。由加里、油の用意を手早くな。タイミングはこっちで指示する。』


『はい。』


 荷物の大袋の中に手を突っ込み、それを引っ張り出す。まだ半分も出てきてはいないが、明らかに袋の口よりも大きい。


『グォォォォォォオ』


 痺れを切らし、駄々をこねる子供の様に地団駄を踏み洞窟全体を揺らし、岩石を天井から降らせる。震源地の飛竜から離れればそんなに落ちて来ないものの、当たったらひとたまりもない。


『行くぞ!!生きてる奴らは魔法隊を主体に小規模パーティを作り、防御用の障壁を張れ!!パーティメンバーが魔力を魔法使いに流し、パーティ全体の魔力が切れる前に後ろの大袋まで移動し、中の素材を料理して体内に取り込め!!魔力を少しでも回復させるんだ!!』


 そう短く叫ぶや否や地面を強く蹴り出し、前進する。落ちてくる岩石も華麗なステップで身を翻し、ものともしない。最短距離で足元まで飛んで行った。幾ら魔力で身体を強化した者だとしてもトップスピードと反射速度は群を頭いくつ分も特出している。


『凄い、あれが第二強化術』


 巳波が魔法瓶の蓋を開け、中に先程の石を放り込みシャカシャカふる。どんどんと手が重くなり、重さが増していく様であった。

 脳裏に先ほど話した内容がフラッシュバックする。


『『じゃあ、まずさっき火球を切った種明かしからしよ』』


 先程火球を切り伏せた片手剣の柄を二人に見せる。アクセサリーに用のチェーンが付いており、緑色の鳥の羽が繋がっていた。


『『これはキャンプ場にいた鳥の羽?』』


 東京から転移した先のキャンプ場は野生の魔物が多く、食事に困ることはまずなかった。その中でもでっぷりと肥えた緑の羽を持つ鳥がよく調理されて出され、余った油で甲冑や鎧を良く磨いたものだ。


『俺らの大半は異世界の食べ物を食べて体に魔力を蓄積させ、身体能力を底上げしたり魔法に変換して戦っている。だけど、使える種類には限りがある。その点、魔物は生まれた時から魔力を持ち、純度の濃い魔力を宿していて死んだ後も亡骸にはかなりの魔力量が流れている。だから、自分の魔力を生前の魔物と同調させる事で羽に残存している魔力を押し出す事で、自分が使えない種類の魔力を一時的に使役する事ができるって訳。
 血液を大量に集めて不純物を飛ばし、魔力を高めてやれば結晶として飲み込んで消化するまでの間、自身を強化させて長く使えるし、こっちの世界と相性の良い物と組み合わせてやれば使い方は無限にある。まぁ、どっち道、使い捨てだからあんまり頼れないけどね。さっきは片手剣にスカイバードの魔力を付随させて空気の刃で、空気の流れを切り裂いた。ただ、使用限界になるとこんな風になるけどね』


 智の説明が終わると、柄に付いている羽に手を触れると灰色に変色し、ボロボロに崩れ落ちた。


『『そんな事できるの?傷を塞ぐ回復魔法と要領は似てるけど、他の人と魔力を同調させるのも血を吐く様な努力が必要なのに、色々な魔物と同調させられるものなの?』』

 巳波が不思議そうに首を傾ける。

『『理論的には可能です。魔力はいきとしいけるもの全てが持っています。だから、魔物の仕組みをイメージして蓄積している魔力から同調できるのを選べばできる筈です。だからこそ、訓練しないで沢山の食べ物を体に入れてさまざまな魔力を蓄積。それを使いこなす為に魔物一つ一つを解体して自分の糧にしていたのなら、頷けます!』』


 さっきまでの百合ゆりしい発言が嘘だと思うほどの知恵を感じさせる程の理論展開。淡々と話す雰囲気からもさっきと同一人物とは思えない。


『『まぁ、半分は趣味だけどね。俺はこれを第二強化術って呼んでる。で、これを主体にした作戦なんだけど、、』』


『巳波さん、戦闘に見入ってないでこっちを手伝って下さい。この鍋重すぎて。』』


『ごめんなさい。すぐに手伝うわ。』』


 力を合わせて人を100人は煮込めそうな巨大な中華鍋を一気に引き出す。得体の知れない肉を鍋の中に入れて焼焚火の上に乗せる。次の瞬間、肉が弾け飛び入れた肉からは考えられない量の脂が鍋にたっぷりと溜まる。


『これも第二強化術の類みたいだけど、改めて見ると凄いわね』


『智さんと会ったのは三年前なんですけど、その時から諦めの悪い努力家だったので、やっぱりその結果ですよね?』


 何がが巳波の頭の中で引っかかる。言葉にはできないが何かが。


『三年前って丁度門が開いた時だけど、それから智と出会ったの?なんか、それ以上の付き合いの気が、、、』


 女の感が働き、歯切れ悪く言葉をだす。異性として興味があるわけではなく、ただの好奇心。それだけのつもりだった。


『今はまだ、言えません。でも、全て終わったらお話しさせて頂きます。』


 下を俯き暗い声でそう答え、視線を戻す。
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