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4 若返ったつもりでいるようです
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それから約十年後。
セラスは49歳になっていた。
エルフの血を引いているとはいっても、その血は数代に渡って薄れていった末端のものだ。同じくエルフの血を引くセシルとの間にできた息子のヨハンは、セラスやセシルのように見た目年齢を変えることができなかった。
「ごめんなさいね、ヨハン。もうエルフの血は根絶しちゃったみたい」
「別に僕はなんとも思わないけどね。父上と母上から受け継いだこの美貌があれば、結婚には困らないと思うし」
そろそろ10歳になる息子のヨハンは物心ついた時から本の虫で、暇を見つけては王立図書館に通っている。
ヨハンは人間離れした美貌の持ち主だ。噂では図書館の天使だの、本に宿る妖精だのと呼ばれていて、そのせいなのか、婚約の打診がよくある。殆どが貴族令息からだ。だがヨハンは息子で、令嬢ではない。何度そう言ってお断りしても打診は途切れない。いい加減にして欲しいとセラスは世の令息達に呆れていた。
「そういえばヨハン。今日は家庭教師はお休みの日でしょう? 図書館は飽きたの?」
休日に珍しく屋敷にいるヨハンにそう聞くとうんざりとした顔を向けられた。
「最近ハンスって名前のオッサンに付きまとわれてて困ってるんだ。図書館で待ち伏せされててさ。気持ち悪いからしばらく本は取り寄せて家で読もうと思う」
「…………」
色んな意味でまたかと、いい加減にしてくれと、セラスは再び呆れた。
その数日後。
セラスは医師会の帰りに王立図書館に寄っていた。
屋敷で不貞腐れているヨハンの為に新刊コーナーに向かって、侍女と共に背表紙から借りる本を選んだ。
「ヨハン坊ちゃんでしたら医学書もお読みになられるのでは?」
「あの子は何でも読むからね。でもここにしかない本の方が喜ぶと思うの」
「ではこちらのジビエ料理解体書なんてどうでしょう? 動物の勉強にもなりますし、解剖書みたいで興味を持つかもしれません」
「あら絵も載ってていいわね」
ヨハンの為に選んだ本を数冊。
それを持って受付にいくと十年ぶりに見るハンスがいた。
「…………」
セラスより6つ年上のハンスは現在55歳だ。
髪は全て白髪になり、天辺の毛が抜けていた。体格はいいが随分と細身になっていた。そこまでは至って普通だった。
しかし服装が浮いていた。
若い頃に仕立てたらしき騎士服を着ている。騎士として全盛期に特注で誂えた一張羅だ。だがほつれが目立ち、サイズがぶかぶかで逆にみずぼらしかった。年相応の装おいをすればそれなりに見れた姿であったであろうハンスは、少年のようにシャツを第二ボタンまで開けて、襟を立てていた。
そのハンスの横にいる初老の受付の男性。ボタンは全てきっちりとめて、かっちりしたベストとネクタイをつけている。白髪まじりの仙人髭は寝癖ひとつなく、見るからに紳士様だ。そのせいか年相応の格好をしていないハンスは酷く浮いて見えた。
ハンスは受付近くでしきりに辺りをきょろきょろとしていた。現在は実年齢の姿をしているセラスには気付かず、目線も低い。まるで子供を探しているような目線の低さだった。受付の男性に「もしかして迷子のお孫さんを探しているのですか?」と勘違いされるほど。
「孫? はは、まさか。私の初恋の君がこの図書館に通っているのさ。彼女のせいで私の恋の炎は再び燃え上がり、肉体的にも欲を取り戻した……今日こそは色好い返事をもらわなければ!!!」
「……オホン。図書館ではお静かに」
受付の男性にそう返したハンス。見ると手に一輪の薔薇を持っている。
ゾッとしたセラスは受付で手続きを済ませた侍女と共に急いで踵を返した。
セラスは49歳になっていた。
エルフの血を引いているとはいっても、その血は数代に渡って薄れていった末端のものだ。同じくエルフの血を引くセシルとの間にできた息子のヨハンは、セラスやセシルのように見た目年齢を変えることができなかった。
「ごめんなさいね、ヨハン。もうエルフの血は根絶しちゃったみたい」
「別に僕はなんとも思わないけどね。父上と母上から受け継いだこの美貌があれば、結婚には困らないと思うし」
そろそろ10歳になる息子のヨハンは物心ついた時から本の虫で、暇を見つけては王立図書館に通っている。
ヨハンは人間離れした美貌の持ち主だ。噂では図書館の天使だの、本に宿る妖精だのと呼ばれていて、そのせいなのか、婚約の打診がよくある。殆どが貴族令息からだ。だがヨハンは息子で、令嬢ではない。何度そう言ってお断りしても打診は途切れない。いい加減にして欲しいとセラスは世の令息達に呆れていた。
「そういえばヨハン。今日は家庭教師はお休みの日でしょう? 図書館は飽きたの?」
休日に珍しく屋敷にいるヨハンにそう聞くとうんざりとした顔を向けられた。
「最近ハンスって名前のオッサンに付きまとわれてて困ってるんだ。図書館で待ち伏せされててさ。気持ち悪いからしばらく本は取り寄せて家で読もうと思う」
「…………」
色んな意味でまたかと、いい加減にしてくれと、セラスは再び呆れた。
その数日後。
セラスは医師会の帰りに王立図書館に寄っていた。
屋敷で不貞腐れているヨハンの為に新刊コーナーに向かって、侍女と共に背表紙から借りる本を選んだ。
「ヨハン坊ちゃんでしたら医学書もお読みになられるのでは?」
「あの子は何でも読むからね。でもここにしかない本の方が喜ぶと思うの」
「ではこちらのジビエ料理解体書なんてどうでしょう? 動物の勉強にもなりますし、解剖書みたいで興味を持つかもしれません」
「あら絵も載ってていいわね」
ヨハンの為に選んだ本を数冊。
それを持って受付にいくと十年ぶりに見るハンスがいた。
「…………」
セラスより6つ年上のハンスは現在55歳だ。
髪は全て白髪になり、天辺の毛が抜けていた。体格はいいが随分と細身になっていた。そこまでは至って普通だった。
しかし服装が浮いていた。
若い頃に仕立てたらしき騎士服を着ている。騎士として全盛期に特注で誂えた一張羅だ。だがほつれが目立ち、サイズがぶかぶかで逆にみずぼらしかった。年相応の装おいをすればそれなりに見れた姿であったであろうハンスは、少年のようにシャツを第二ボタンまで開けて、襟を立てていた。
そのハンスの横にいる初老の受付の男性。ボタンは全てきっちりとめて、かっちりしたベストとネクタイをつけている。白髪まじりの仙人髭は寝癖ひとつなく、見るからに紳士様だ。そのせいか年相応の格好をしていないハンスは酷く浮いて見えた。
ハンスは受付近くでしきりに辺りをきょろきょろとしていた。現在は実年齢の姿をしているセラスには気付かず、目線も低い。まるで子供を探しているような目線の低さだった。受付の男性に「もしかして迷子のお孫さんを探しているのですか?」と勘違いされるほど。
「孫? はは、まさか。私の初恋の君がこの図書館に通っているのさ。彼女のせいで私の恋の炎は再び燃え上がり、肉体的にも欲を取り戻した……今日こそは色好い返事をもらわなければ!!!」
「……オホン。図書館ではお静かに」
受付の男性にそう返したハンス。見ると手に一輪の薔薇を持っている。
ゾッとしたセラスは受付で手続きを済ませた侍女と共に急いで踵を返した。
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