男主人公の御都合彼女をやらなかった結果

お好み焼き

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11 落成式を開催した結果①

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落成式が開かれたその日、ジューン家の庭では招待客から驚きの声が鳴り止まなかった。

開催する前にドロテアは招待客の前でテープカットをする為に各代表を呼んだ。

代表は東屋の設計と組み立てをした職人、その代表の頭領。そして発注したブラッドリーに、それが贈られたドロテアの3名だ。

「それでは落成式を開催しまーす」

ドロテアが意図的に用意したのは紅白のリボンだった。こんな綺麗なものを切っちまうのかと頭領が嘆いたが、これは開催の儀に必要な事なので切らないとお酒が飲めませんよと伝えると頭領は打合せ通り愛用のハサミをさっと出した。
そしてジョキンと、鉄が布を切る鋭い音がした。ドロテアは三人同時に切りたかったがそこは譲った。

爪先に魔力を集中させ、リボンには触れずにはらりと切ると、腰の剣を掴んでいたブラッドリーが「ほう」と目を細めた。

「君は珍しい魔力の使い方をする」

そして剣を鞘におさめ、ドロテアがしてみせたように……とはいかず、ブラッドリーは魔力を纏わせた掌、所謂手刀で切ってみせた。

「お見事です」
「いやもう少し鍛練がいる。君には驚かされてばかりだな」
「ふふ。この後もっと驚くことをご用意しているのですよ。私は後で、先に両親からですが」
「え?」

ドロテアはブラッドリーの手を取り、高く掲げてから言った。

「ではこれより落成式、開催です!」

わあああ! と拍手が上がる。

ドロテアに頼まれていたヴァルキンが大きなワイン樽の蓋を木槌で割った。割れやすいよう細工をしていたのもあり、ワインは綺麗な飛沫を上げてその香りを辺りに漂わせた。

「開けてしまった。さあ皆、今日中に飲みきってくれ!」

ヴァルキンのその声に職人達が歓喜の雄叫びを上げた。何故ならばひと樽の量が200リットル以上あるからだ。瓶にすれば300本近い。それがあと3樽もある。

樽に集まる職人の周りでは、侍女達がせっせとワイングラスを運んでいく。

「の、飲みきれるのかこれ!」
「空気に触れたらもう保存はできねーぜ!」
「でも今日中だろ?  いけるいける!  俺ならいける!」
「よこせやボケええ!」

職人達による乱闘に近い取り合いになったが、足らなくなることはなさそうだ。


「凄い。これは……蔦の効果なのか?  四方が開いているのに、中と外では外気の温度が違う」

ワイングラス片手に招待客の貴族達が東屋の中と外の気温の違いに驚いた。

「そういや白銀杉は白ければ白いほど熱を遮断する効果があると聞いたことがある」
「それで涼しいのか。ワインもよく冷えてる」
「ああ。つまみも美味い」

実はワイン樽は涼しい地下から運び出し、出来るだけぬるくなるのを遅くする為に東屋の中に置いて冷やしておいた。

美味い酒と料理で場が和んできた頃、先に裏庭で歓談をしていた貴婦人達を連れてカミラが現れた。

ヴァルキンは貴婦人達の中に混ざり、カミラの肩を抱いた。そしてカミラが第二子を身籠ったことを、招待客がいる前で報告した。

ドロテアがブラッドリーの婚約者になったことを早々に察知していた者達は、このあと自分の子を養子にどうかとヴァルキンにすり寄る予定が外れてしまった。場は既にお祝いムードで、すり寄る隙も無い。なら祝いに生まれてきた子にベビーベットを造ると言い出す職人もいて、カミラとヴァルキンは祝福の声に包まれていた。
それを少し離れた席から見つめていたドロテアは優しく微笑んだ。二人から報告を受けたのは昨夜だったので、まだ驚きの感情も残っている。原作には無かった展開だから。

「……わ、私達もそのうち、……な?」

ブラッドリーが顔を真っ赤にしてドロテアの肩を抱いた。ジューン夫妻の報告に驚きつつも、いつかは自分も、と妄想してしまったらしい。

「まあブラッドリー様。飲みすぎでは?」
「まだ一滴も飲んでいない。酒に酔った職人がドロテアを口説かないよう、今日は監視に勤めようと思ってな」
「牽制しにきたのですか?  それなら肩を抱くよりもっと効果的な方法がありますわよ」

ドロテアはブラッドリーの首に腕をまわして誘導するようにくるくると回った。端から見ればダンスが始まったように見えたが、唇が触れそうなほど顔が近いので周りは気を遣ってそっと目を反らした。
そして牽制もなにも、目の前にある白銀杉で造られた東屋が結納品であることは理解しているので、二人が婚約していることは言わなくとも招待客達は知っていた。

その間に二人の唇が重なった。

ブラッドリーはドロテアの腰を引き寄せ、木陰に身を隠した。ちなみに半分は隠れていない。

「……淑女が公の場でこのような淫らな行為をするべきではない」
「それは私の腹に押し付けられたものを鎮めてから言って頂かないと」
「……下を見ないでくれ」
「目が離せません」
「…………」
「もう中身が気になって気になって」
「君はそうやっていつも私を翻弄する!」
「……えへへ。ブラッドリー様、心からお慕いしております」
「っ、」

木陰に隠れて触れ合うだけの口付けがブラッドリーからドロテアに何度も落とされた。ぎゅっと抱き締められ、ドロテアがブラッドリーの胸で吐息をもらした。周りは騒がしいのに、自分達がいる木陰は別の空間のように感じられた。いわゆる二人の世界である。
そこに一際大きな声が響いた。

「……な、なんだこれ!  なんか不思議な物が落ちてる!」

聞こえてきた声にドロテアは顔を上げた。
庭に数十個、故意に隠しておいた卵。
イースターエッグと呼ばれる装飾された卵だ。ドロテアの前世の記憶では復活祭で使われるものだったが、今回は余興で使った。

「おや?  見つかってしまいましたわね」

恐る恐る見つけた卵を手に取った招待客にドロテアは微笑んだ。卵には達磨を模した絵が描いてある。目は空白のまま、あとで描いてもらう予定だ。

「ではライラ、コリン、アレの用意を」
「「はい、お任せ下さい!」」
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