異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

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「突然、シュウマが来てビックリした。うん、シュウマに伝えておくわ」

 大学の講義後、少し時間が空いたためアヤトは兄に連絡をとる。
兄は、相変わらずのんびりとした口調であったが、アヤトが元気生活しているのか心配していた。とても家族思いの兄である。

しかし、アヤトはそんな兄に対し、苦手意識を持っていた。

なぜ、兄を苦手か分からない。アヤトの前で一度も言葉を荒げた姿を見たことはないほど、おっとりとした性格で優しい兄だ。
また、物心ついた頃には、とっくに両親がいなかったアヤトにとって十歳も年が離れた兄は親代わりでもあった。

「ねぇ、アヤト……一度、帰ってこないか?」
「……考えておく。そろそろ講義たから、じゃあ」
「え、まだ話したいことが……あ、っ」

 当たり障りのない会話に混ぜられた帰省の催促。
曖昧にアヤトは言葉を濁すと兄との通話を切り、スマホをポケットに仕舞った。

 兄と話しことで何かが誘発したのだろう。
この日の夜は、子供の頃の夢をみた。十歳前後でセミがうるさい季節の夢だ。
公園にあるドーム型の遊具の中で体育座りをし、鼻をすする。
怖いものから逃げてきた自分。でも、何から逃げてきたのか思い出せない。怖いという気持ちだけが心に残す。
そんな夢から逃げ出すようにアヤトは目を覚ます。
なんとも気持ちの悪い目覚めだった。

 シュウマが来てから二週間が経った。
アヤトは、シュウマに送り迎えをしてもらいながら大学に通っている。
やはり、シュウマといるとバケモノが視えなくなるのだ。

「なァ! 待てよ、オイ!!」

 先輩らに絡まれる。
大学の講義を終え、友人達との別れて一人になったタイミングで声を掛けられてしまった。

――めんどくせぇ。

 アヤトはチラッと先輩らを見ると返事をせず待ち合わせ場所へ向かう。
名前すら知らない先輩は、以前からしつこく声を掛けてきた。出来るだけ関わりたくないため、先輩に絡まれても相手にしなかった。

「何ムシしてんだ」

 肩を掴まれてしまう。今日は、やけにしつこい。
掴まれた肩を振り払いながら、聞く。

「なんか用っすか?」
「他のヤツはムシすんのに外だと結構遊んでのな、お前」

 睨むアヤトを先輩は小馬鹿にし、言う。

「男と遊んでンだろ。おサカんだなぁ。大学サボってまでヤってたのか?」
「はぁ?」

 何言ってんだ、こいつ……とアヤトの睨む目が険しくなる。

「待ち合わせしてるんで。用がねぇーならもう行きます」
「おっ、今日も男と遊びにいくのか? サカってんなぁー」
「は? ちげーし!」
「そんなに気持ちいいんかよぉ、ん~?」
「やめろよッ」

 再び身体を触れられそうになり、避けた。
どういうわけか先輩は、アヤトが男と遊んでいると勘違いをし、決めつけている。
先輩を敬う気をなくしたアヤトは、かなり砕けた敬語で話す。
 
「何勘違いしてんのか知りないが、男と遊んだことなんてねーッス」
「オイオイ。ウソつくなよ。大学で待ち合わせして男と会ってンのを見たってヤツがいるんだ。その男と付き合ってんじゃねーの?」
「大学で待ち合わせしてるのは、幼馴染です! 付き合ってません」
「そんな必死に誤魔化さなくていいって」

 先輩は、ニヤニヤと嗤う。
シュウマをセフレかなんかだと端から思い込み、アヤトが否定しても信じようとしなかった。
それどころか、自分もアヤトと肉体関係を持たせろと迫ってくる始末だ。

「俺にもヤらせろよ」
「誰がテメーとヤるかよ。糞粗チンがッ!」

 アヤトは、キレた。
我慢の限界だった。むしろ、今までよく我慢した方である。
アヤトは、儚く押せば折れそうな見た目に反し、とても気が強い性格だ。短気であるのにも関わらず我慢していたのは、彼は華奢だからだ。

「ッンだと、テメェ!!」
「っ……!?」

 激高で振り上げられた拳。

――殴られる…………。

 反射的に目を瞑る。
衝撃に耐えよう身体がこわばらせるが、痛みも衝撃さえも訪れなかった。

「え……」

 その代わり。目を開けた先には、幼馴染がいた。
先輩に背中を見せる形で庇い立つシュウマは、アヤトを抱き寄せている。
 
「……シュウマ」

 驚き思わず、幼馴染の呼ぶと後ろに顔を向けていたシュウマがアヤトの方に向け、険しい表情を柔らかくさせた。

「大事な友人に手をあげないでください」

 シュウマは、後ろにいる先輩を静かに睨む。
先程、振り上げられた拳はシュウマが背中で受け止めてくれていたのだ。
 
「テ、テメェには、カンケーねぇだろ」

 先輩は、怒鳴る。だが、明らかに怖気ついていた。
シュウマの実家は、農家だ。子供の頃から家業の手伝いをするシュウマは、屈強な肉体ではないにしろ華奢なアヤトと違い逞しかった。

「邪魔すンじゃねぇ!」

 シュウマの威圧に負けじと先輩は引かず、突っかかってくる。
 
「これ以上、注目の的にされるつもりはない」

 シュウマが間に入り、友人らはハッと我に返ったのだろう。
「もうやめろよ」「お前に気がないんだって」と周囲の目を気にし、殴り掛かろうとする先輩の行動を止めに入った。

「ホモ野郎がッ!」

 二人に捨て台詞を吐き、先輩は友人らに半ば引き摺られ去っていった。

「アヤト、怪我ない?」
「いやいや。お前こそ平気か? 痛いだろ」

 自分を心配するシュウマを逆にアヤトは心配した。

――庇って殴られたんのは、お前だろーに……。

 シュウマは「背中だから、そんなに痛くない」というが殴られたことには変わらない。
アヤトは背中に腕を回し、擦った。

「あ、あの……アヤト……」
「あ?」

 少し焦ったような上擦った声が聞こえる。
顔を上げれば、すぐ近くにシュウマの顔があった。

「は、離れてもらってもいい、かな?」

 今の状態を察し、アヤトは慌ててシュウマと距離を取る。
そうだった。庇われた時に抱き寄せられていたんだったとアヤトは慌てた。しかも、ここは大学の敷地内、多くの人の目があった。

――恥ずかしすぎる…………。

「アヤトに怪我がなくてよかったよ」

 いつもぼーと何を考えてるか判断できない表情から安堵の笑みが引き出されている。

「庇ってくれて…あんがと……」

 釣られたアヤトも照れながら告げる。恥ずかしく顔は向けられなかった。
シュウマが助けてに来てくれてよかったとアヤトは思ったのだった。
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