異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

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10 後編

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 昨日兄から『シカノメ』に関する話を聞いたアヤトは、自信を無くしていた。
シュウマの好意は、自分に流れる神様の血筋のせいで好きと勘違いをしているかもしれない。

――村にいる間。一週間はシュウマとの思い出を作ろう!

 一晩布団の中で考えた末、そう結論に至る。
信仰心と恋心は違うとアヤトは思う以上、本当の意味で愛されていないと感じ虚しくなるのだ。
シュウマからの告白や好意を疑うであろう自分自身が嫌いになる。

――身勝手だよなぁ。付き合ってすぐ別れようなんて。

 正直にいえばシュウマと別れたくない。
だが、シカノメというものに縛られているのなら、解放してやりたいのだ。
そして、本当の意味で好きになった相手と幸せになってほしいとアヤトは願うのだった。


 村に帰省してから、そろそろ一週間になる。
今日こそは別れを告げようと決意を固めたアヤトは、シュウマの仕事が終わったら会う約束をするとごろりと仰向けになった。
 兄と義兄は、朝から職場に出かけている。
約束の時刻までまだたっぷりと時間があるアヤトは、ひとり居間でゴロゴロした。

――できれば、もめたくないなぁ。

 ごろりごろりと転がりつつ、どう別れを切り出そうかと悩む。
この一週間ほど円満に別れる方法がないかと考えてきたが、さっぱり思いつかなかった。
そのため、まずは兄から聞いた話を伝えうと思い至る。

――勘違いしていると分かれば、わかってくれる。

 自分を好きではないとシュウマに気付かせてやれねば……。
幼馴染を想い、正しいことをしているはずなのにズキズキと心が痛んだ。


「もうそろそろ、あっちに戻ろうと思う」

 子供の頃、よく一緒に遊んだ公園で二人は会い、ベンチに座った。
夕飯時に近いためか子どもの姿はない。大人で公園にいるのはアヤトとシュウマだけだ。

「それで……シュウマ、ごめん!」
「えっ、どうしたの?」
「オレ達、別れよう」

 思い切って別れを切り出した途端、見るからにシュウマはしゅんとなった。

「俺、何かアヤトに嫌われるようなことをしちゃったの、かな?」
「違う。シュウマは悪くないんだ。オレが…オレの存在自体がシュウマにとって良くなくて……」
 
 何か気に障ることをしたか? と落ち込むシュウマをアヤトは否定するが、上手く言葉がまとまらず苦戦した。

「騙されているんだ。シュウマは、本当の意味でオレのことを好きじゃない。好きだと思い込んでるだけ」

 この村の神から子孫へ受け継いだ力のせいだ。
きっと洗脳に近い。そんな力で信仰心と恋心の区別ができなくなっているんだ、となんとかシュウマにアヤトは伝える。

「な、オレ、騙してるみたいじゃん、無自覚に。だから、別れたい」

 いったんアヤトは、そう締めくくった。

「騙されてないよ。俺はアヤトのこと好きなんだ。別れたくない」
「騙されてるよ。オレの存在のせいで正気じゃねーんだよ。本当に好きな人と幸せになってくれ」

 アヤトを好きなの気持ちは勘違いだと否定され、シュウマは納得できず首を横に振った。

「俺の幸せを願うならずっとそばにいて」
「……信じらんねぇんだよ」

 ポツリと小さな声でアヤトは零した。

「人間だったらよかった。そうすりゃあ、疑わなくて済んだのに……えッ?!」

 アヤトは、狼狽した。
シュウマの瞳に涙が浮かんでいたからだ。
子どもの頃でさえ、滅多に泣かなかった男がポロポロと泣いている。
いつも何考えているか分からない。ぼんやりした表情を崩し、泣く姿は初めて見る姿だった。

「十二年……」
「え」
「好きなって……十二年……。アヤトは嘘だと否定するんだ…………」
「十…二、ね、ん……」

 二人が出会ったのは、小学校の入学式だ。
ほとんど同じ教室で過ごしてきたが、アヤトは全く片想いされていることに気づかなかった。

――その頃から……。

 十二年間は、長い。
六才から長い間、シュウマの心を惑わし騙していたのかと考えると罪悪感で気分を沈む。

「一目惚れだったよ。自覚したのは、ずっと後になるけど」
「やっぱ、オレが人じゃねぇから好きになったんじゃあ……」
「アヤト。別れたら、死ぬよ」
「なっ?!」

 脅してきやがった。
シュウマの口からまるでメンヘラな恋人みたいな発言が飛び出すとは。
突然、化け物が見えるようになった出来事の次ぐらいに衝撃的であった。

「なんだよ、脅しか」
「そうだよ」

 無理やりアヤトをベンチから立ち上がられさせる。
「来て」と腕を掴み、グイグイとシュウマはアヤトの腕を引っ張った。

「は…離せよ」
「ヤダ」

 日頃、畑仕事をしているシュウマに体格と力の差は歴然でアヤトは抗えなかった。
引きずられるまま気付けば、シュウマの家に着いていた。
母屋には寄らず、シュウマの部屋がある離れへと連れていかれるのだった。
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