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17宰相グラソンの困惑
その日、とんでもない話が城中を駆け抜けた。イスベルク様が炎の国の王子を娶るのだと。何かの間違いだろう。ここを家出同然で飛び出してそんなに日はたってない。まあ魔力量も体力も魔人並みなのだから本気を出せばすぐにあちらに着いたのだと言う事は理解できる。だが。なんでこんな話になってるんだ?
「正気ですか? あんな野蛮な国の王子を我が国に招き入れるなどと」
とにかく話をつけなければと急いで私は皇帝陛下の元にはせ参じた。
「グラソンか。それなんだがな。最初は偽造書ではないかと疑ったがこれはユージナルの書記で署名はイスベルクで間違いない事は検分済だ。くっくくくく。あいつもやりおるわい」
「やりおるわいではございません! 相手は炎の国ですぞ!」
「まあ厄介な国ではあるな。だがあいつが自分から行動を起こしたのだから何かあるのだろう」
その言葉に私はハッとした。そうだ、我が国は長年続いた戦を終結したところ。ではこれ以上の争いを招かないための政略的な作戦なのか? そういえば他国には後宮というものが存在し王族の娘を人質代わりに囲むことがあるという。なるほどこれか?
「……グラソン。お前なにか思案してるようだがイスベルクはこの儂の血を引き継いでるのだぞ。何人もの雌を相手にするとは思えないがな」
「ですが。イスベルク様はまだ覚醒されておりません」
「あいつは図体はデカイがまだガキだ。仮に政略的なつながりだとしても無駄に戦になるよりは人質を受け入れる方が良いだろう」
「はあ。いたし方ありませんね。……まあこの国の環境に馴染めず逃げ帰るやもしれませんしね」
「まずはイスベルクの帰還を待つとしよう。あとの采配はお前たちにまかす」
肩までの銀髪をかきあげて皇帝陛下はため息交じりだ。私はこの陛下を尊敬している。全盛期のこの方の手腕は物凄かった。策士と言っても言い過ぎではない。なのに龍の習性だと皇后を手に入れられた途端にいきなり前線から退かれた。それが悔しくて仕方がない。イスベルク様はこの方の生き写しのような方だ。幼くして戦に出された時は心配で夜も眠れなかったが、さすが竜の皇太子。戦神のような方である。だがまだ弱冠19歳。まだまだ心配なことが多い。
まあ確かに南の国と国交ができるなら有益になることもある。我が北方の地特有の冷温で作成された酒や透き通る氷のような水晶、とりわけ希少価値が高いとされているのが魔法増強作用がある鉱物の数々。これらを他国から欲しがられてはいる。だが逆に北側からしたら作物の育ちが悪く食料難になりやすい。豊かな南国の食材や穀物が手に入るのなら欲しい。
「どちらにしても来るのは王子。形だけの婚姻となりましょうぞ」
「それはイスベルク次第じゃがな」
◇◆◇
国境近くまでイスベルク様がお戻りになられたと連絡が入り、急いで城の者達へ伝令を課す。使用人たちも緊張気味だ。すぐに戦える兵士達も控えさせた方が良いだろうと氷の城は厳重警戒となった。なにせ火の国の者は筋骨隆々で荒々しい性格の者が多い。輿入れしてくる者も同じ類のものだろうと周りは警戒していた。だが、馬車から降り立ったのは頭からすっぽりとローブをかぶった細身の華奢な少年だった。イスベルク様が隣で手を取ってなければ城の入り口で追い返されたであろう。
「戻ったぞ」
いつものように無表情のイスベルク様と護衛のユージナルが無言でいる。ユージナルめ。連れ戻すどころか一緒に旅にでるなどと。イスベルク様と乳兄弟だからと図に乗ってるんじゃないだろうな。まぁ今回だけは大目にみてやるか。
「おかえりなさいませ」
私が深くお辞儀をすると間をおいてローブの少年も頭を下げた。
「……どうぞこちらへ」
言いたいことはたくさんあれどとりあえずは中へと通そう。
「このまま皇帝陛下に謁見に参る」
それはこちらとしても好都合。是非ともイスベルク様のお考えをお聞かせていただきたい。そもそもその少年は何者なのだ。炎の国の王子はいまどこにいるのだ?
だが、大広間に連れて来られた少年が、ローブのかぶりを外すと中からストロベリーブロンドの髪が現れた。小ぶりの鼻にぱっちりした目に小さな唇。外気との温度差に耐えられぬのか緊張のせいか、その体は震えている。思わず抱いて温めてやりたくなるような庇護欲を誘う容姿だった。
「寒いか? すぐに終わらせるからな。少しだけ耐えてくれ」
聞いたことがない優しい声がイスベルク様から聞こえる。少年は軽く頷いたようだ。まさか。……まさか?
「正気ですか? あんな野蛮な国の王子を我が国に招き入れるなどと」
とにかく話をつけなければと急いで私は皇帝陛下の元にはせ参じた。
「グラソンか。それなんだがな。最初は偽造書ではないかと疑ったがこれはユージナルの書記で署名はイスベルクで間違いない事は検分済だ。くっくくくく。あいつもやりおるわい」
「やりおるわいではございません! 相手は炎の国ですぞ!」
「まあ厄介な国ではあるな。だがあいつが自分から行動を起こしたのだから何かあるのだろう」
その言葉に私はハッとした。そうだ、我が国は長年続いた戦を終結したところ。ではこれ以上の争いを招かないための政略的な作戦なのか? そういえば他国には後宮というものが存在し王族の娘を人質代わりに囲むことがあるという。なるほどこれか?
「……グラソン。お前なにか思案してるようだがイスベルクはこの儂の血を引き継いでるのだぞ。何人もの雌を相手にするとは思えないがな」
「ですが。イスベルク様はまだ覚醒されておりません」
「あいつは図体はデカイがまだガキだ。仮に政略的なつながりだとしても無駄に戦になるよりは人質を受け入れる方が良いだろう」
「はあ。いたし方ありませんね。……まあこの国の環境に馴染めず逃げ帰るやもしれませんしね」
「まずはイスベルクの帰還を待つとしよう。あとの采配はお前たちにまかす」
肩までの銀髪をかきあげて皇帝陛下はため息交じりだ。私はこの陛下を尊敬している。全盛期のこの方の手腕は物凄かった。策士と言っても言い過ぎではない。なのに龍の習性だと皇后を手に入れられた途端にいきなり前線から退かれた。それが悔しくて仕方がない。イスベルク様はこの方の生き写しのような方だ。幼くして戦に出された時は心配で夜も眠れなかったが、さすが竜の皇太子。戦神のような方である。だがまだ弱冠19歳。まだまだ心配なことが多い。
まあ確かに南の国と国交ができるなら有益になることもある。我が北方の地特有の冷温で作成された酒や透き通る氷のような水晶、とりわけ希少価値が高いとされているのが魔法増強作用がある鉱物の数々。これらを他国から欲しがられてはいる。だが逆に北側からしたら作物の育ちが悪く食料難になりやすい。豊かな南国の食材や穀物が手に入るのなら欲しい。
「どちらにしても来るのは王子。形だけの婚姻となりましょうぞ」
「それはイスベルク次第じゃがな」
◇◆◇
国境近くまでイスベルク様がお戻りになられたと連絡が入り、急いで城の者達へ伝令を課す。使用人たちも緊張気味だ。すぐに戦える兵士達も控えさせた方が良いだろうと氷の城は厳重警戒となった。なにせ火の国の者は筋骨隆々で荒々しい性格の者が多い。輿入れしてくる者も同じ類のものだろうと周りは警戒していた。だが、馬車から降り立ったのは頭からすっぽりとローブをかぶった細身の華奢な少年だった。イスベルク様が隣で手を取ってなければ城の入り口で追い返されたであろう。
「戻ったぞ」
いつものように無表情のイスベルク様と護衛のユージナルが無言でいる。ユージナルめ。連れ戻すどころか一緒に旅にでるなどと。イスベルク様と乳兄弟だからと図に乗ってるんじゃないだろうな。まぁ今回だけは大目にみてやるか。
「おかえりなさいませ」
私が深くお辞儀をすると間をおいてローブの少年も頭を下げた。
「……どうぞこちらへ」
言いたいことはたくさんあれどとりあえずは中へと通そう。
「このまま皇帝陛下に謁見に参る」
それはこちらとしても好都合。是非ともイスベルク様のお考えをお聞かせていただきたい。そもそもその少年は何者なのだ。炎の国の王子はいまどこにいるのだ?
だが、大広間に連れて来られた少年が、ローブのかぶりを外すと中からストロベリーブロンドの髪が現れた。小ぶりの鼻にぱっちりした目に小さな唇。外気との温度差に耐えられぬのか緊張のせいか、その体は震えている。思わず抱いて温めてやりたくなるような庇護欲を誘う容姿だった。
「寒いか? すぐに終わらせるからな。少しだけ耐えてくれ」
聞いたことがない優しい声がイスベルク様から聞こえる。少年は軽く頷いたようだ。まさか。……まさか?
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