スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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序章 ひとつもない栄光

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 磨き上げてきた。
 積み上げてきた。

 それでも届かなかった。
 それでも至らなかった。

 唯一でなくとも価値はあっただろう。
 随一でなくとも身を立てる術はあったはずだ。

 だけど。

 この小さな島国の。
 世界で見ればその文化に於いて後進国の中でさえ。
 ついぞただの一度も頂点を極められなかった私は。
 その世界の端役の位置にもたどり着くことはできなかっただろう。


 潔いと言えば美徳になるだろうか。
 諦めるのも勇気とするなら、それまでの敢闘は讃えられるのだろうか。


 どう解釈しても。
 どう取り繕っても。

 やっぱり私は、栄光を掴めなかった側の者だ。


 ほまれと名付けられた私は、しかし栄誉に浴する者とはなれなかった。




 戦いから降りたそれからの日々は、穏やかだった。
 私の中の芯さえも蕩けて無くなるような、平和な日々。


 すべてを研鑽に費やしてきた身としては、その安らぎに身を委ねることへの抵抗が、微かにあった。


 なにか、しよう。

 まだ立ち上がれる今のうちに、なにか。


 焦燥感を抱えていた私は、ある日地元のお祭りで、観る側の立場を体験していた。

 お祭りではステージが設けられ、地元の団体がパフォーマンスを繰り広げていた。

 チアリーディング。
 ヒップホップダンス。
 ブラスバンド。
 和太鼓。
 よさこい。

 そして、

 サンバ。


 私は、これまで何の縁も興味も無かった、なんならよく知りもしなかったそのパフォーマンスに、心惹かれるものを感じていた。


 派手なダンサーたち。
 ダンスの一ジャンルではあるのだろう。だけど、衣装や観客へのレスポンスなど、ダンス以外の要素による魅力がある。
 羽飾りを身につけた、よくあるサンバのイメージのダンサーとは別に、大きなスカートで回ったり揺れたりするダンスを踊るダンサー、大きな旗を持つ男女のペアダンサー、スーツスタイルのダンサーなど、多彩な種類のダンサーがいた。
 それぞれ複数人ずつ。

 バンドがいて、ヴォーカルがいた。

 多くの打楽器の奏者がいた。
 それをコントロールする指揮者がいた。


 さて。この集団の主役は誰だろうか?


 派手なダンサー?
 旗の男女も特別感がある。
 通常バンドのフロントマンといえばヴォーカル?
 楽団を指揮する指揮者?
 和太鼓のように大きな音でリズムの基礎となる大太鼓?
 高く早いピッチでダンサーに高速のステップを踏ませる小太鼓?

 今あげたうちのほとんどが複数名の編成だ。

 明確な主役を決めにくい。けど、誰もが主役ともいえ、それぞれに見せ場があった。

 見せ場は、パフォーマンスの構成上意図して作られたものもあれば、観る人の見ているポイント、見たい対象によってそれぞれに作られる場合もある。


 こんな変幻自在な世界もあるのか。


 これまで、秩序の中で序列を競っていた私は、混沌の中の自由な競い合いに、興味を惹かれたのかもしれない。


 私は唯一でも随一でもなくとも、必須な存在のひとつとなれる、この世界に入ってみたいと思った。

 やるなら、あの大きな太鼓かな。

 お祭りで手に入れたサンバチームのリーフレットに記載されていたメールアドレスに、私はその日のうちに見学希望のメールを送っていた。
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