スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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初めての接客

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 比較的多めの人数の対応ができるコの字型のソファに、なるべく女性が男性の間に入るよう着席する。挨拶に来たママは独立したスツールについた。

「たーくん、いつもありがとね。また祥子が無理言ったんでしょ?」

 ママがおしぼりを渡しながら世間話のように話し始めた。


 しょーちゃんが事前にたーくんに営業メッセージを送っていて、たーくんはそれに応える形で人数を揃えて来店してくれたという。


 しょーちゃんや要さんがお店で良い成績なのは、接客が優れているだけでは無い。地道な営業活動も実を結んでいる。
 要さんは営業用のアカウントを作っているし、しょーちゃんは営業用のスマホを持っていた。
 私もスマホをもう一台契約するのは予算的に無理なので、要さん同様仕事用のアカウントは先に作っておいた。インスタならアカウントは複数作れる。観る専門でやってると言えば投稿が無くても不自然では無い。もっとも、お店の常連さんや接客のあるお店に慣れているお客様は、仕事用の連絡先であることくらい百も承知なのだそうだが。

 そもそも私に選択肢などほとんどない。
 まだ体験入店だが、よほど合わないということが無ければお世話になりたいと思っている。
 それなら、今からお客様に覚えてもらったり、実際の接客時に必要になる準備はしておいた方が良いと考えていた。


「祥子今月いっぱいなんだろ? 最後の出勤日には盛大にしてやろうと思ってはいたが、その前に後継者紹介させてなんて言われたら、それはそれでそれなりにやってやんなきゃなんないだろ? なあ、やまさん」

 やまさんはおしぼりで手を拭い、ついでにメガネを外し顔も拭いながら頷いた。おしぼり越しの「ああ」の声がくぐもって聞こえた。

 年下で部下だが、盟友でもある経営に於けるパートナーを、たーくんはさん付けで呼んでいる。
 それが定着してこのグループの中で、山科さんだけ唯一やまさんというさん付けの呼び名となっていた。


「ほんと、たーくんもやまさんも、私以上にお店のことを考えてくれて。頭が上がりません! そう、祥子の後継者候補を紹介させてもらいたくて。この子、誉。要の高校時代からの後輩でもあるの」

 ママがタイミングを作ってくれた。
 ママは目で、私に挨拶をするように促した。
 席に着く前に簡単に自己紹介をしたが、この場できちんと挨拶をすることで、お客様とキャストがある意味ひとつの「仲間」となっている席の内側に入らせてもらえるのだと思った。

「改めまして、誉です。要さんの後輩、やらせてもらってます! 祥子さんにもお世話になっていて、このお店紹介していただきました。正直少し怖い気持ちはありましたが、素敵なお客様が多いと伺って、思い切って体験入店させてもらいました。祥子さんが言っていた通り、みなさん素敵で優しそうで少しホッとしています。接客業は初めてで緊張してますが、粗相のないよう頑張りますのでよろしくお願いします!」


 長かったかな? 中身無さすぎ? 硬い? でも、この段階だ。当たり障りないのが最適解ではないだろうか。


 言い終わりを確認した一堂からは、「おー」と声が上がり、控えめな拍手を送られた。


「ね、真面目そうな良い子でしょ? 祥子とはキャラ違そうだけど」

 ママがさりげなくフォローして場を会話の雰囲気に戻す。

「いやぁ、祥子だって最初はガッチガチだったしなぁ」

 懐かしそうに言うたーくんに、「言わないでよっ」としょーちゃんが軽く手のひらでたーくんの肩を叩く。たーくんは満更でも無さそうに笑っている。

 おぉー。さすがしょーちゃん、キャストっぽーい。

「誉ちゃん? これが仕事一発目だろ? 俺らなんて身内みてーなもんなんだから、練習のつもりで気楽にやってよ」

 たーくんはママに「良いだろ?」と言うと、ママは「いつも甘えちゃってすみません。誉のことお願いしますね。
でも、甘やかしすぎないでくださいね。たーくん優しいから。
お店は甘えっぱなしですが」と笑いながら席を立った。

 ママは去り際にまた目で、「がんばって!」と言ってくれたような気がした。
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