スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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初めてのおつかい

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 今日の目的は、唯華ママが『クラブ藤宮』のママから借りていた品を返しに行くというもの。そのついでに、伝統ある高級店のママ直々に接客の極意だが、営業の奥義だか、とにかくありがたい教えを享受いただけるのだという。

 なので、先方が受け取れる時間に行って荷物を渡せば良いというわけではない。
 時間を設けていただいているということは、指定の時間があるということ。そして、その時間は絶対に守らなくてはならない。
 遅刻などと、先方に迷惑をかけママの顔をつぶす、最悪の状況に陥ることなんてあってはならない。
 
 
 その時、握りしめていたスマホが奮えた。
 
 
 着信を知らせるために震えていたスマホを操作し通話状態にする。
 
「あ、要さんっ……!」

『ちょっと誉、あんた今どこいんの?』

「えっと、ビルの隣……?」

『だいたいビルよ、その辺は! もう着くの? ジョー着いてるらしいよ』

 
 お使いではあるが『クラブ藤宮』とは今後も似たようなやり取りは続く。
 ちょくちょく訪れることになるため、今日は新人である私の紹介も兼ねている。そのアテンド役として、ジョーが最初の挨拶時は立ち会ってくれることになっていた。
 バイトは休みだった私は学校から直接向かい、ジョーはお店での準備や仕込みの作業を抜けて現地に向かうという手はずだった。
 
「距離的には近いはずです。場所がわかればすぐ着きます……!」

『ってことは、場所わからないってこと⁉︎』

「う、はい……」

『なんで場所調べていかないの!』

「地図、スマホのあるから、それでナビで行けるかなって思って……でも、なんか自分の位置がすぐに変わっちゃってどこにいるのかわかんない……」

『都心でナビひらくとそんなんなるけど…………誉、まさか泣いてる⁉︎』

「すみません……絶対遅刻しちゃいけないのに、場所わかんないっ……」

『なに諦めてんの! 誉、今日、なぎささんの話聴けるんでしょ?』
 渚さんとは、先方のママの名前だ。


『店内の状況次第だけど、誉が望むならヘルプ扱いで体験もさせてくれるつもりらしいよ』

 
 店舗のスタンスにもよるが、この業界では予約客数や見込まれる繁忙状況と用意できているキャスト数のバランスで、系列店や人間関係のできている他店からキャストやスタッフなどをヘルプで貸し出してもらう場合がある。

 
『これ、どういうことかわかる?』

「ええと、私に一流のお店の雰囲気やそういうお店にくるお客様を体験させて成長を促すのと、しょーちゃんプランの私のキャラ付け的にもそういうお客様との相性が良さそうだというのと、例えママ同士が姉妹のように仲良しでも、一流店の店舗に迂闊な人員を送り込むわけにいかないのに入店させるということは、私にはそれができるとママが評価してくれたというのと、迎える側としてはリスクしかないのに受け入れてくれたのはママへの信頼が絶大なものであってそれを崩すわけにはいかないというのと、ヘルプでも日当は出るのでお小遣いと併せて私の収入への配慮をしてくれたというのと……」

『うん、もういい、完璧だよっ! 察し良いなあ⁉︎  あんた、そういうところもこの世界に向いてると思うよ! なのになんでこんなことになるかな……とにかく泣くのやめ! 情けないっ。それしてたって何にも解決なんてしないんだから』

「はいっ……!」
 

 本当に情けない。ママや先方ももちろんだが、今日はしょーちゃんも休みでジョーもこっちにいる。
 ただでさえ忙しい開店前の時間なのに、人手は足りていないはずだ。そんな状況の要さんにこんなことで手を煩わせてしまった。
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